肺がんに対する低侵襲手術
山梨大学医学部附属病院
心臓血管外科、 呼吸器外科、 小児外科
山梨県中央市下河東

肺がんとは?
肺がんは、2020年現在、日本人における悪性新生物(がん)の死亡原因のうち、男性で1位、女性で2位となっており(1)、最も多くなっています。年間7万人以上の人が亡くなっており、肺がんの早期発見・早期治療はとても重要です。
以前はたばこが原因の肺がんが多くを占めていましたが、近年では、非喫煙者で比較的若い人の肺がんも増えており、早期肺がんに対する治療は、非常に重要といえます。呼吸器外科では、肺がんの手術を主に取り扱っています。
[出典](1)国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(厚生労働省人口動態統計)、2020年

肺がんに対する手術
肺がんは進行度によりステージ1〜4に分類され、基本的に手術ができるのはステージ3の一部までとなっています。それ以上の進行がんでは、手術・抗がん剤・放射線治療を組み合わせた集学的(しゅうがくてき)治療というものを行います。
肺がんの手術方法(アプローチ)を大きく分類すると、①開胸手術(かいきょうしゅじゅつ)、②胸腔鏡下手術(きょうくうきょうかしゅじゅつ)、③ロボット支援下手術の3つに分けられます。病院によって、できる手術や得意とする手術が異なりますが、当院ではすべてのアプローチが可能で、一人ひとりの患者さんに応じて、ベストな方法をオーダーメイドで選んでいます。
肺は左右で5個の部屋(肺葉(はいよう))に分かれており、どこまでの範囲を切除するかによって、術式が変わります。小さい範囲のものから、部分切除(ぶぶんせつじょ)や区域切除(くいきせつじょ)、葉切除(ようせつじょ)、肺全摘(はいぜんてき)があります。肺がんの場合は、標準手術といって、どこまで切除すればいいかということがガイドラインで決められており、現在では葉切除が標準術式となっています。
しかし、患者さんによっては持病があり、葉切除をすると生活の質(QOL:Quality of life)が下がったり、重い合併症を起こしたりしてしまうこともあるため、それが予想される場合には、切除する範囲をより少なくすることがあります。これを「消極的縮小手術(しょうきょくてきしゅくしょうしゅじゅつ)」と呼びます。
また、がん検診の普及により、非常に早い段階でがんを発見できることがあります。その場合も、葉切除ではいわゆる「とりすぎ」になりかねないため、切除範囲を少なくすることがあります。これを「積極的縮小手術(せっきょくてきしゅくしょうしゅじゅつ)」と呼びます。
標準手術・消極的縮小手術・積極的縮小手術、どの術式を選択するかで、患者さんの予後(術後の結果や余命のこと)が大きく変わるため、慎重な検討が必要です。
体にやさしい低侵襲手術
低侵襲手術(ていしんしゅうしゅじゅつ)とは、できるだけ創(きず)を小さくしたり、体への負担を減らしたりすることを目標とした手術です。呼吸器外科領域では、「胸腔鏡下手術」と「ロボット支援下手術」が、いわゆる低侵襲手術と呼ばれています。
開胸手術は、何十年も前から行われてきた安全性の高い手術ですが、10cm以上の大きい創になったり、肋骨(ろっこつ)を切らざるを得ないこともあり、体への負担が大きく痛みが強いため、回復までに時間がかかるのが一番の課題でした。また、背中に大きい創がつくことで、整容性(せいようせい)(見た目)の面でも課題があります。
そのため、より小さい創でできないかと考えだされたのが、胸腔鏡下手術です。2000年代から広く行われるようになり、胸に3~4個の小さい穴をあけて、カメラを入れ胸の中をモニターに映し、医師はモニターを見ながら手術を行います。開胸手術と比較しても、安全性や根治性(こんちせい)(がんの再発がないこと)の面で劣ることなく、かつ痛みが軽減され、術後の回復も早く、整容性に優れているのがメリットです。反面、手術を行う医師の技術は、より高度なものが要求されます。
2010年代になり、さらに高画質の映像や手術操作のクオリティ(質)を上げるために開発されたのが、手術支援ロボット、ダビンチです。2018年からは、ロボット支援下肺葉切除術が保険適用となり、当科でも2018年より導入しています。
ダビンチを使用すると、3Dで立体的かつ10倍に拡大された超高画質で、鮮明な映像を見ながら手術が可能なため、まるでそこに本物の臓器があるかのような感覚で手術ができます。
従来の胸腔鏡下手術は、2Dの映像であるため、立体感や奥行きを補うのが難しい場面がありましたが、ロボット支援下手術ではそれを補い、さらに安全性が高く、高度な手術を提供できるようになりました。
ただ、どの手術方法にもそれぞれメリット・デメリットがあるため、個々の患者さんに合わせた術式選択が必要不可欠です。

更新:2024.04.26