頭頸部がんの最新治療

山梨大学医学部附属病院

頭頸部・ 耳鼻咽喉科

山梨県中央市下河東

頭頸部(とうけいぶ)がんとは?

頭頸部がんは、口腔(こうくう)(舌、歯肉、口腔底など)、上咽頭(じょういんとう)・中咽頭・下咽頭、喉頭(こうとう)、鼻(び)・鼻副腔(びふくくう)、唾液腺(耳下腺(じかせん)・顎下腺(がっかせん)・舌下腺(ぜっかせん))、甲状腺に生じる悪性腫瘍(しゅよう)です。頭頸部は非常に細かく複雑な構造をしており、呼吸する、食べる、話す、味わう、においを嗅(か)ぐ、聴くといった、人間が生きていくうえで、非常に大切な役割を担っています。頭頸部がんはこれらの機能を直接障害し、進行期で見つかるケースも多いため、「機能を温存してがんを治す」ということが非常に大切になってきます。

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頭頸部がんとは?

頭頸部がん(Head and Neck Cancer)は、脳や眼球を除いた顔面から首までの領域に発生する悪性腫瘍の総称です。具体的には、舌や歯肉を含む口腔から食道の入口にかかるまでの咽頭、声帯がある喉頭、鼻・副鼻腔、唾液腺、甲状腺を頭頸部領域は含んでいます。これらの部位は、呼吸する、食べる、嗅ぐ、聴く、話すなど、私たちが日常生活を送るうえで必要な機能をいくつも持っていて、顔貌や表情など「個人らしさ」を表す、大切な部分になります。

頭頸部に腫瘍ができてしまうと、目や耳、鼻などの感覚機能や発声、飲み込み、呼吸などの運動機能などに影響が出ることが特徴です。さらに顔貌や首の形の変化が起こったり、甲状腺の場合、ホルモン分泌にかかわる症状が出現したりもしますので、「表」に示すように、腫瘍ができる位置よって主に現れる症状が変わります。

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表 頭頸部がんの特徴的な症状

頭頸部がんの中でも舌がんや喉頭がん、咽頭がんでは、飲酒・喫煙の習慣が発症リスクを高めることが明らかになっています。上咽頭がんではEBウイルス、中咽頭がんではヒトパピローマウイルスの感染が発症に関連しています。頭頸部がんは全がんのうち5%程度と頻度が少ないがんにはなりますが、口腔がんや咽頭がんは世界的に患者数が増えており、比較的進行しやすいがんであり、早期発見と早期治療がとても重要になります。

頭頸部がんの標準治療

腫瘍をすべて取り除ける状態にあれば、一般的に手術治療が勧められます。発生した部位や腫瘍の大きさ、リンパ節転移の情報に加えて、術後に起こる後遺症が患者さんの生活や仕事にどの程度影響するのか考慮したうえで、術式を決めていきます。早期病変であれば、その部分だけを切除するだけで十分な効果が得られますが、進行期にあると、拡大切除や再建手術が必要になることも多く、術後も機能回復に向けた術後リハビリテーションを行います。

唾液腺がん・甲状腺がんを除く頭頸部がんは、扁平上皮(へんぺいじょうひ)がんという種類が多く、一般的に放射線感受性が高い(放射線による影響を受けやすい)といわれています。手術治療で切除が難しい場合や機能を残したい場合に、放射線治療と化学療法による治療となります。早期病変であれば放射線治療のみで治療を行いますが、腫瘍が大きい場合や頸部リンパ節に転移を認める場合は、放射線と化学療法を組み合わせます。

頭頸部がんの放射線治療の期間は約2か月で、治療中、皮膚炎や咽頭炎、唾液の分泌低下が出現するため、食事摂取に大きな影響が出ます。

頭頸部がんの化学療法では、主にシスプラチンという抗がん剤が用いられます。1剤で使うことはなく、放射線治療と組み合わせたり、ほかの抗がん剤と組み合わせたりします。その他、セツキシマブといった分子標的治療薬や、ニボルマブ、ペンブロリズマブといった免疫チェックポイント阻害薬も使います。抗がん剤ごとに出現する副作用が違うため、使用する前に十分な説明を受けていただいたうえで治療を行っていきます。

進行甲状腺がんでは、甲状腺をすべて摘出した後に、ヨード内用療法という放射線治療を行います。手術が難しい症例や肺・骨に転移している症例では、レンバチニブやソラフェニブといった抗がん剤の内服治療を行います。

頭頸部がんの最新検査や治療

がん遺伝子パネル検査による治療薬の検索

標準治療を行った後に腫瘍が残ってしまった場合や、治療中に残ってしまうことが予想される場合に、次の治療薬を探すため頭頸部がんの特徴的な遺伝子変異を保険適用で検査します。

特徴的な遺伝子変異に適した薬剤が見つかることがありますが、検査には1〜2か月近くかかり、治療薬が見つかる頻度も10〜15%程度です。

咽喉頭表在がんの内視鏡による切除やロボット支援手術(導入を検討中)

胃カメラなどの検査時にたまたま発見されるような、非常に早期の病変であれば、経口的に内視鏡を入れて切除する適応になることがあります。全身麻酔や入院管理が必要になりますが、体への負担は比較的小さい治療になります。手術支援ロボットについても、今後導入を検討しています。

甲状腺良性腫瘍を対象とした内視鏡下甲状腺切除

甲状腺腫瘍が40mm以下の良性腫瘍と判明している場合、内視鏡を用いた甲状腺切除術の適応になることがあります。通常の首に切開を入れる方法より、手術時間は長くなりますが、創(きず)が小さく済むメリットがあります。

頭頸部アルミノックス治療(導入を検討中)

頭頸部がんの細胞にだけ集まる薬剤を投与した後、患部に特定の光を照射することで、薬剤がついた細胞だけが壊死または排除されるという新しい治療法です。現在は再発頭頸部がんにのみ適応があり、また限られた施設でのみ治療ができる状況です。今後、当院でも導入を検討しています。

更新:2024.04.26