顎変形症の治療で生活の質を向上

顎変形症の症状

顎変形症の原因は、生まれつきと生まれた後での要因がともにあるとされ、明確にわかっていません。

口腔という器官は、消化器官の始まりであり、会話や呼吸など多くの役割をしていることから、嚙み合わせの不調には、多くの症状が表れます。例えば、「噛む能力が低くなる」「口の開け閉めが痛くなる」「口呼吸になりやすい」、そして「正しい発音ができない」などがあげられます。小さな子どものときから症状が出る方もいますし、骨の成長が著しい思春期にその症状が明らかになる方もいます。

一方で、ゆっくりと症状が出てくるため自覚が乏しいことや、原因が顎変形症とわかっておらず、症状が続いている患者さんも多くいます。顎変形症の症状は、歯列不正(歯並びが悪い)や顎関節症の症状とよく似ているため、その症状だけでは診断は難しく、X線、CT、MRIのような詳細な検査を進めていく中で診断をしていきます。

顎変形症の種類

顎変形症という1つの病気の名前ですが、いくつかの種類があり、それぞれに特徴があります。

上顎前突症(じょうがくぜんとつしょう)、下顎後退症(かがくこうたいしょう)

上顎が正常より大きい、下顎が正常より小さい、またはそれが同時に生じている状態です。咬合不良(こうごうふりょう)による噛みづらさや口の開け閉めの痛み、口呼吸が生じやすいです(図1a)。

上顎後退症(じょうがくこうたいしょう)、下顎前突症(かがくぜんとつしょう)

上顎が正常より小さい、下顎が正常より大きい、またはそれが同時に生じている状態です。咬合不良による噛みづらさや口呼吸、発音不良が生じやすいです(図1b)。

開咬症(かいこうしょう)

上顎と下顎の骨形成の不調和から奥歯のみが咬合し、前歯が咬合しない状態です。咬合不良による噛みづらさや口呼吸、発音不良が生じやすいです(図1c)。

顎変形症の治療

顎関節症の治療には、まず正確な診断が必要となります。そのため、セファロX線撮影、CT、MRI画像による骨の形態の画像検査を行います。そして顔や口の写真、歯形の採取から、歯並びと顔貌の検査も行います。このような検査をもとにして、顎変形症を診断します。

顎変形症の治療は、主に歯科矯正と外科矯正で協力して行っていきます。治療の流れとしては、まず初めに歯科矯正による歯並びの矯正治療、その後に外科矯正手術を行い、手術後に最終的な歯科矯正治療を進めていきます。治療期間は、それぞれで異なりますが、数年間が必要となります。そのため、患者さんにも歯磨きや手術に対して協力をしてもらう必要があり、十分に状態や治療内容について話し合いをしてから治療を開始することが重要です。

当院では主に外科矯正手術を担っています。顎変形症治療にはいくつかの手術方法があり、それぞれの手術に長所と短所があります。患者さんの状態や要望に合わせ、手術方法を選択または組み合わせて、よりよい治療結果を得られるようにしていきます。

代表的な手術方法としてはLe Fort(ルフォー) I型骨切り術と下顎枝矢状分割術(ががくししじょうぶんかつじゅつ)があります。Le Fort I型骨切り術は、上顎を修正する手術方法になります。そのため、上顎の変形や不調和が生じているときに用いられ、上顎前突症、上顎後退症、そして開咬症に対して行われます。下顎の手術と比べ、術後の腫(は)れと咀嚼(そしゃく)機能低下が少ない特徴があります。

下顎枝矢状分割術は、下顎を修正する手術になり、下顎後退症や下顎前突症のように、下顎に不調和を生じている事例や開咬症において用いられます。上顎の手術と比べて、骨の移動量を大きくすることができます。そのため、大きな変形の患者さんに対しても用いられています。

この2つの手術を組み合わせることにより、1つの手術では治療が難しい大きな骨の変形や複雑な顎の変形も治療することができます。また、手術を組み合わせることで、それぞれの手術方法の短所を補えるため、よりよい治療結果を得られる症例もあります。いろいろな手術方法を選択肢に入れることで、患者さんの希望に沿える方法を選ぶことができます。

嚙み合わせで不調を感じる、症状に当てはまるものがある方は、顎変形症がひそんでいるかもしれません。症状の原因がわかり、治療することができるかもしれませんので、まずは専門医に相談することが大切です。

更新：2024.04.26