早期胃がんの内視鏡治療
愛知医科大学病院
消化器内科
愛知県長久手市岩作雁又
お腹を切らずに早期胃がんを治す内視鏡切除
胃がんは減少傾向にあるといわれていますが、いまだ日本人に多いがんの1つです。胃がんの標準治療がお腹(なか)を切って行う手術であることは現在も変わりありませんが、近年の内視鏡技術の進歩により、粘膜内にとどまる早期胃がんであれば、内視鏡で切除できるようになりました。胃壁は内側から、粘膜、粘膜筋板、粘膜下層、筋層、漿膜(しょうまく)の順に層を形成しており、早期胃がんとは粘膜下層までにとどまっているものをいいます(図1)。
当院でも2006年4月に、胃・十二指腸の早期悪性腫瘍(しゅよう)に対して内視鏡的粘膜下層剥離術(ないしきょうてきねんまくかそうはくりじゅつ)(Endoscopic Submucosal Dissection:ESD)が保険収載されてからこの治療法を行っており、年々症例数は増加傾向にあります。
胃がんと診断された、もしくは胃がんが強く疑われた場合、治療方針を決定するために、まず早期胃がんか進行胃がんかの診断をする必要があります。内視鏡切除の適応となるものは、がん細胞が粘膜内にとどまる早期胃がんに限られており、そのため早期胃がんの診断を受けても適応から外れてしまう場合がたくさんあります。
そこで内視鏡切除の適応の有無を決定するにあたり、精密検査を受けていただく必要があります。具体的には、全身に転移がないかCT、MRIなどの画像検査を行います。また、がんの深さや範囲を診断するために、超音波内視鏡検査や拡大内視鏡検査なども行います。拡大内視鏡検査は、内視鏡にズーム機能がついており、病変粘膜および周辺粘膜を拡大して観察することによって「がん」と「正常粘膜」の境界をみることができます(写真1)。超音波内視鏡検査は、内視鏡先端にエコー(超音波)の機能がついており、病変に内視鏡を当てると病変粘膜の下の状況をみることができ、ある程度のがんの深さが分かります(写真2)。
体に負担の少ない内視鏡切除(ESD)
現在、全国的にも普及している早期胃がんの内視鏡治療は、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)と呼ばれるものです。手術は静脈麻酔を使用し、患者さんが眠った状態で行われます。
方法は、まず病変の切除範囲を決定し印(マーキング)をつけます。その後、病変粘膜に特殊な液(ヒアルロン酸など)を注入し膨隆させ、内視鏡の先端から針状の電気メスを出して病変周囲を少しずつ切開、剥離していくものです(図2、写真3)。この方法を用いると、比較的大きな病変、潰かい瘍ようを伴う病変、切除が難しい部位の病変でも一括で切除することが可能です。
内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を行った後は、術後の出血や穿孔(せんこう)(消化管に穴があくこと)などの偶発症が認められなければ、1週間前後で退院が可能です。開腹手術とは異なり低侵襲(ていしんしゅう)(体に負担の少ない)であり、胃がそのまま残るうえに腹部に傷跡が残るといったこともなく、退院後も比較的通常の生活を送ることができます。また退院後は1~2か月の内服治療をしますので、外来通院が必要となります。
更新:2024.10.18