傷が目立たない小切開心臓手術(MICS)について教えてください

愛知医科大学病院

心臓外科

愛知県長久手市岩作雁又

小切開心臓手術(MICS:ミックス)とは、どのような手術ですか?

通常の心臓手術は、胸の真ん中を縦に切開して行われます。MICSは、胸の横を切開して行われる心臓手術です。当院では、僧帽弁形成術(そうほうべんけいせいじゅつ)と冠動脈(かんどうみゃく)バイパス術をこの方法で行っています。僧帽弁形成術は、右胸(写真1)、冠動脈バイパス術は左胸(写真2)を切開して行います。

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写真1 僧帽弁形成術後の傷跡
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写真2 冠動脈バイパス術後の傷跡

MICSのメリットは何ですか?

なんといっても傷が目立たないという点です。特に女性であれば乳房に隠れるため、ほとんど目立ちません。2つ目は痛みが少ない点です。術直後は強い痛みを感じることがありますが、時間が経過すればほぼ消失します。そのほか、体への負担が少ないため、回復が早く、早期に退院でき、早めの仕事復帰が可能です。MICSの場合、術後入院期間は7~10日間です。車の運転も支障なく、退院早期から可能です。また、出血が少ないため、輸血はほとんど行われません。

MICSで行える疾患にはどのようなものがありますか?

弁膜症(僧帽弁閉鎖不全症・狭窄症)
先天性心疾患(心房中隔欠損症)
粘液腫などの心臓腫瘍の一部
虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)

MICSはどのような人に行うのですか?

僧帽弁形成術の場合は、早く仕事復帰したい方にお勧めしています。また、動脈硬化の少ない、比較的若い患者さんに適しています。ただし、病変が複雑で手術時間が長くなる場合は合併症の比率が高くなるため、通常の手術となります。

冠動脈バイパス術の場合は、現在のところ安全のため、1~2か所程度のバイパスのみを行っています。残った病変がある場合は、カテーテルにより治療します。傷の大きな手術を受けたくない、できるだけ手術の負担を少なくしたい方にお勧めしています。

合併症など問題はありませんか?

小切開手術は狭いところで手術を行わなくてはならず、直接手が届かないことも多々あります(写真3)。したがって、見えないところで予想もしないことが起こることがあり、合併症が起こった場合の対応が適切に行えない危険性があります。また、動脈硬化の強い患者さんの場合、脳梗塞(のうこうそく)を起こすこともあり、お勧めできません。

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写真3 僧帽弁形成術の術中写真

MICSを受けると、余計に費用がかかりますか?

高度な技術を要する手術ですが、全て保険診療範囲内で行っていますので、治療費は通常の開胸手術と変わりません。むしろ合併症が少なく、入院期間が短いため、通常の手術より安く済むかもしれません。

当科の治療方針

当科は、成人心臓大血管全般にわたり広く診療しています。手術が第1選択ではなく、常に患者さん、家族の立場に立って治療方針を決定しています。また、当院は麻酔科、ICU(集中治療室)の受け入れ態勢が他院よりも相当充実しており、大動脈解離などの緊急手術に対してスムースに、かつ迅速に対応できると自負しています。手術成績は100%とはいきませんが、少しでも患者さんが元気になるよう努力したいと思います。

更新:2022.03.14