甲状腺眼症の手術治療

愛知医科大学病院

眼形成・眼窩・涙道外科

愛知県長久手市岩作雁又

甲状腺眼症の症状と治療方針

甲状腺眼症(こうじょうせんがんしょう)は、眼の周りの筋肉や脂肪に炎症が生じて起こる自己免疫性疾患です。バセドウ病や橋本病などの甲状腺の自己免疫性疾患と関連して発症します。

甲状腺眼症では、眼が出てくる、まぶたが過度に開く、腫(は)れぼったくなる、眼が閉じにくくなる、逆さまつ毛になる、などの特徴的な症状が出てきます。これらの症状の半数は自然に改善しますが、残りの半数では変化がないか次第に悪化します。重症例では、眼を動かす筋肉の炎症のために、眼の動きが悪くなったり、視神経が圧迫されて失明に至ったりすることもあります。

甲状腺眼症は炎症が旺盛(おうせい)な活動期と、炎症が治まっている不活動期に分類され、炎症の有無が治療方針の決定に重要となります。

活動期では、ステロイドの大量投与を行うことにより炎症を鎮静化させ、症状の進行を抑えます。その後、再び炎症が生じてきた場合には、放射線治療を併用することもあります。視神経が圧迫されて視力が低下してきた場合で、ステロイド治療が有効ではなかったときは、眼の周りの骨のくぼみを広げる手術を行うこともあります。

炎症が治まっている不活動期には、固定してしまった症状に対する手術治療を行うことができます。逆に言うと、手術は炎症のない時期に行います。出てきた眼をへこませたり、斜視の手術をしたり、また、まぶたの手術を行ったりします。

甲状腺眼症に対する手術治療は専門性が高く、行うことのできる施設は限られています。特に、眼をへこませる手術(眼窩減圧術(がんかげんあつじゅつ))においては、当院が国内で最も多くの手術を行っているため、北は北海道から南は沖縄県まで、全国各地から患者さんが受診します(図)

グラフ
図 眼窩減圧術・斜視手術の症例数の推移

眼窩減圧術――美容的外観にも配慮

眼窩減圧術は、前へ出てしまった眼をへこませたり、視神経の機能を改善させたりするために行います。眼の周りの骨のくぼみを削ることによって、そのスペースを大きくします(写真1、2)。

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写真1 眼窩減圧術の手術風景
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写真2 眼窩減圧術の術前・術後のコンピュータ断層撮影術前:眼が前へ出ています
術後:黄色い矢印は外側壁の骨を削った部分です。向かって左側の眼の奥は、内側壁も減圧されています(赤い矢頭)

眼窩減圧術によって眼の周りの筋肉の走行が変わることがあり、このような場合、ものが二重に見えることがあります。当院では、この合併症が起こりにくい、外側壁の手術を第1選択としています。視神経の機能が低下している場合は、視力の改善を優先するため、視神経に近い内側壁の手術を第1選択として行います。

手術では、美容的外観にも配慮しているため、外側壁の手術では目じりのしわに沿って切開したり、内側壁の手術では結膜を切開したりして、手術による傷を最小限に抑えるようにしています。

斜視手術――眼の動きを改善

斜視の手術は、ものが二重に見える症状を改善するために行います。炎症によって硬くなってしまった筋肉の健(けん)を白目から一度切り離し、後ろにずらして縫い付けます。ものが傾いて見える場合には、筋肉を横にずらして縫いつけます。

まぶたの手術――前に出た眼を元に戻すために

上まぶたが引かれすぎて上の白目が出ている場合は、上まぶたを上げる作用のある筋肉を弱める手術を行います。ただし、この手術では、手術後に三重まぶたになってしまうことがあるので、まぶたの奥にある脂肪を引き出して、上まぶたの下の方(まつ毛側)に縫いつけることで、予防します。

下まぶたが過度に引かれた状態や、逆さまつげに対しては、下まぶたを引っ張る筋肉を切り離した後、重力に対抗するために、延長材を入れます。延長材としては、自分の組織である耳の軟骨が最適です。

甲状腺眼症では、まぶたの脂肪が増えて上まぶたが厚ぼったくなったり、眼の周りの脂肪が増えて下まぶたが盛り上がったりすることがあります。これらに対しては、増えた脂肪を切除する手術を行います。

更新:2024.10.18