脳卒中の後遺症の1つ、痙縮の治療について教えてください

愛知医科大学病院

リハビリテーション科

愛知県長久手市岩作雁又

痙縮はどんな症状なの?

脳卒中や脊髄(せきずい)損傷などの脳・脊髄の病気やけがの後遺症に、痙縮(けいしゅく)があります。痙縮とは筋肉が緊張しすぎて、手足が動かしにくかったり、勝手に動いてしまったりする状態のことです。手首が曲がったり、手指が握ったままとなり開きにくい、肘(ひじ)が曲がってくる、足趾(そくし)(足の指)が裏側のほうに曲がってしまうなどの症状がみられます。

図1に示すように、痙縮によって日常生活に支障が生じることがあるので、痙縮に対する治療が必要となります。

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図1 痙縮の症状

痙縮の治療法は?

内服薬、神経ブロック、手術など、さまざまな治療法があります。また最近、効果が注目されている方法として、今回ご紹介するボツリヌス療法があります(図2)。この治療では、ボツリヌス菌が作り出す、天然のたんぱく質を有効成分とする薬を筋肉に注射します。ボツリヌス菌を注射するわけではありません。さまざまな研究の結果、このたんぱく質のごく少量を緊張している筋肉に直接注射すると、その筋肉がゆるみ、緊張やけいれんが治まることが分かり、医薬品として利用されるようになりました。

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図2 ボツリヌス療法

2010年10月には、上肢(じょうし)痙縮・下肢(かし)痙縮に対して健康保険が適用されるようになりました。

ボツリヌス療法はどんな効果があるの?

ボツリヌス療法によって次のようなことが期待できます(図3)。

  • 脚の筋肉がやわらかくなり、歩きやすくなる
  • 着がえなどの日常生活動作がしやすくなる
  • 姿勢を保つなどの介護を受けやすくなる
  • 関節が動きにくくなったり、変形したりするのを防ぐ(拘縮(こうしゅく)予防)
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図3 ボツリヌス療法の効果

ボツリヌス療法の進め方

治療前に診察し、日常生活で困っていることを調べます。また、歩行や日常生活の動作をリハビリテーション医、理学療法士、作業療法士が評価します。筋肉のかたさを診断し、ボツリヌス療法が生活上の動作の改善に役立つかどうかを中心に治療の効果を予測します。動作筋電図を使って、筋活動の測定もします。その結果、ボツリヌス療法を行ってよいと判断した場合、どの筋肉に注射するかなどを決めます。

ボツリヌス療法の効果は注射後2~3日目からゆっくり現れ、約2週間後にピークをむかえ、通常3~4か月間持続します。筋肉がやわらかくなっている間に、集中的に目的に応じた手足を動かすリハビリテーションを行うと効果的です。

その後、徐々に効果は消えていきます。治療を続ける場合には、3か月以上の間隔をあけて注射をします。効果の持続期間には個人差があるので、治療計画については医師と相談してから決めていきます。

更新:2022.03.14