難聴に対する最新治療
浜松医科大学医学部附属病院
耳鼻咽喉科
静岡県浜松市東区半田山
難聴とは?
耳は外側に耳介(じかい)があり、そこから内側に外耳道(がいじどう)がのびて、その奥に鼓膜があります(図1)。
外耳道から音が入ってくると、鼓膜が振動し、鼓膜に付着している耳小骨(じしょうこつ)を介して振動が内耳(ないじ)に伝わります。内耳で音の振動を電気信号に変換し、その電気信号が脳に伝わることで、私たちは音を感じています。
この経路のどこに障害があっても難聴が起こりますが、どの部位に原因となる病気があるかにより治療法が異なります。
鼓膜再生治療と内視鏡下手術
難聴を起こす代表的な病気として、鼓膜に穴があく慢性中耳炎(まんせいちゅうじえん)(図2左)、鼓膜の奥にできものができて、耳小骨を破壊する真珠腫性中耳炎(しんじゅしゅせいちゅうじえん)(図2中央)、内耳が障害を受ける感音難聴(図2右)があります。
●慢性中耳炎
慢性中耳炎は鼓膜の穴をふさぐことにより、難聴を改善することができますが、耳の後ろを大きく切って鼓膜を閉鎖する鼓室形成術が行われることが一般的です。
この手術は全身麻酔で行うため、約5日間の入院が必要ですが、当院では耳の後ろを大きく切らずに、日帰りで行うことができる鼓膜の再生治療(図2左)で、鼓膜を閉鎖しています。
●真珠腫性中耳炎
真珠腫性中耳炎では、鼓膜の奥にあるできものを摘出する必要があるため、必ず全身麻酔での手術が必要です。
耳の後ろを大きく切る鼓室形成術が必要となることが多いですが、当院では、初期の真珠腫性中耳炎に対して内視鏡で、耳の後ろをあまり切らずに手術することができます(図2中央)。
遺伝子検査を利用した難聴診療
内耳が障害を受ける感音難聴は、騒音、薬、ウイルス感染など(環境要因)が原因となるものもあれば、原因がよくわからないものも多くありました。
現在では、原因不明の難聴の大部分が、先天的に、内耳にあるタンパク質がうまく働いていないこと(遺伝要因)が原因であることがわかってきました(図2右)。このような遺伝要因による難聴は、幼少児期だけではなく、成人になってから起こる難聴にも関与しています。
以前は、内耳のどのタンパク質に原因があるのか調べることはできませんでしたが、最近では、難聴の遺伝子検査を行うことにより、原因となるタンパク質を調べることができるようになってきています。
難聴の遺伝子検査を行うことができる施設は限られており、当院はその数少ない施設の1つです。内耳のどのタンパク質に原因があるのかによって、難聴が悪化する速さや治療法が異なります。そのため、当院ではまず難聴の遺伝子検査を行って、原因となるタンパク質を明らかにしたうえで、原因に応じて個々の患者さんにとって最適な治療を選択しています。
最新の聴覚機器を用いた難聴治療
難聴に対して治療を行っても十分に改善しないときには、まず補聴器を使用します。しかし、高度の難聴の場合には、補聴器を使っても聞き取りが十分によくならないことがあります。以前はこのような難聴に対する治療は困難でしたが、最近では、人工内耳(図2右)を使用することにより、聞き取りをかなり改善することが可能になりました。
人工内耳は画期的な機器ですが、残っている聴力が失われることが多いという欠点もありました。そのような欠点を補う最新の機器として、残っている聴力を温存したまま人工内耳を使用する、残存聴力活用型人工内耳が開発されました。
当院はこの2つの機器を扱っている数少ない施設の1つです。補聴器では十分に聞き取れないものの、聴力が残っている場合には、残存聴力活用型人工内耳を選択し、聴力がほとんど残っていない場合には、従来の人工内耳を選択するなど、患者さんの聴力に応じて、最適な人工聴覚機器を選択し治療を行っています。
耳鳴りに対するTRT療法
内耳が障害を受ける感音難聴では、難聴に加えて、耳鳴り、音が耳に響く感じ、耳がつまる感じが生じます。これらの中でも、耳鳴りはとても不快で、日常生活に大きな影響を与えることが多い症状です。
耳鳴りは、内耳が障害を受けることで脳に適切な電気信号を送ることができなくなり、そのことによって脳が異常に活動することで自覚されるとされています。つまり、耳鳴りは耳で生じているのではなく、実際には脳で生じています。そのため、治療としては脳の異常な活動を抑えることが有効とされており、当院では特殊な機器を用いた耳鳴りの順応療法(TRT)を行っています。
TRTは、薬で改善しない耳鳴りに対しても有効な最先端の治療で、多くの患者さんがTRTで耳鳴りが改善しています。
更新:2023.10.26