サインに気づきにくい弱視

浜松医科大学医学部附属病院

眼科

静岡県浜松市東区半田山

弱視とは?

視力は生まれてから発達するもので、強い屈折異常や斜視のために正常に発達しないことがあります。子どもは自分では見えにくいことに気づきません。また片方の目だけ見えない場合には、保護者も気づきません。

眼球に異常がないのに視力が発達していない状態を「弱視」といい、早期に見つけて治療を始める必要があります。3歳児健診は早期に弱視を発見する良い機会ですので、受診勧告を受けたら、必ず眼科を受診しましょう。

弱視について

●弱視の種類と症状

人間は生まれてすぐには、ぼんやりしか見えていません。いろいろなものを見ながら暮らすことで、視力は育ちます。これは、脳が持っている見たものを認識する力が発達することがかかわっています。

視力は通常だと1歳で0.2、2歳で0.4に発達し、6歳でようやく1.0~1.2になります。成長の途中で、視線があわなかったり(斜視)、両方の目が強い遠視だったり、左右で遠視や近視の程度が違う場合など、はっきり見るための条件が両方の目にそろわないままでいると、脳が持っている見たものを認識する力の発達が妨げられます。このような状態を「弱視」といいます。

通常、近づけると見える近視では弱視にはなりづらく、強い遠視や、遠視や乱視の程度に左右差がある場合には、片方の目が弱視になります。眼球に異常がある場合もありますが、多くは眼球に異常はなく、適切な治療や訓練を受ければ視力が良くなります。

●屈折異常と弱視

近視、遠視、乱視などはすべて屈折異常といいます(図)。屈折異常の程度は、角膜や水晶体が光を屈折する力と眼球の大きさ(眼軸)の関係で決まります。

図
図 屈折異常

近視の場合には眼球が大きいために、遠方から入ってきた平行光線が網膜より前で焦点を結びます。近くのものを見るときには焦点が網膜上で結びますから、弱視にはなりにくいです。

遠視は、遠方から入ってきた平行光線が網膜より後方で焦点を結びます。調節をすることで網膜上に焦点を合わせることができますが、遠視の程度が強すぎたり、左右差があったりすると、遠くも近くも網膜上で焦点を結ぶことができません。そのために遠視のある目が弱視になります。

弱視の症状は、裸眼視力では判断できず、眼鏡をかけても、視力が年齢相応ではないことです。普段の生活でのサインは、「テレビやおもちゃに極端に近づいて見る」、「目をしかめて見ている」などですが、まったく症状がないことも少なくありません。

特に、片方の目だけ弱視の場合は、見えている目だけを使うのでこのような症状は見られず、本人はもとより保護者も気づきません。

弱視の見つけ方

子どもの視力不良はなかなか気づきません。そこで3歳児健診や幼稚園、保育園、こども園での視力検査が大切です。

3歳児健診では自宅で視力検査を行いますが、お子さんにとっては検査の意味を理解するのも一苦労ですし、片方の目を隠そうとしてもなかなか隠させてくれないこともあり、簡単ではありません。

見づらそうな様子がないと、保護者が「本当は見えているはず」と思い込んでしまい、弱視の発見が遅れることがあるので注意が必要です。

そこで最近は視力検査だけではなく、スクリーニング装置を使って、弱視のリスクとなるような屈折異常や屈折の左右差、視線のずれを発見する方法を取り入れる自治体が増え、弱視の発見率が高くなっています。

弱視の診断と治療方法

●弱視の診断

弱視の診断は視力不良の原因を明らかにすることから始まります。まれに目に異常が見つかることもありますが、その場合その異常の治療が最優先となります。多くの場合、目そのものには異常はなく、強い遠視や左右の屈折異常に差があったり、左右の視線がそろわない「斜視」があったりします。

まず、調節麻痺薬という目薬を点眼して正確な屈折検査をします。屈折検査は、視力検査と違い本人が答える必要はないので、うまく答えられない子でも可能です(写真1、2)。

写真
写真1 視力検査
視力検査は5mの距離でランドルト環(Cマーク)の切れ目を答えさせる方法で行います
写真
写真2 屈折検査
屈折検査は機械の中をのぞきこむことで、遠視や近視、乱視の程度を測定することができます。本人の応答は必要ありません

●弱視の治療

治療は適切な眼鏡をかけることから始まります。最初は眼鏡をかけても視力は変わらないので、眼鏡をかける意味がわからないかもしれません。時間はかかりますが眼鏡をかけ続けることで視力が良くなってきます。

眼鏡は「治療用の装具」ですので、申請すると「療養給付」が支給されます(9歳未満)。子どもの眼鏡は見た目で選ぶのではなく、子どもの低い鼻にも合うようにデザインされていて、丈夫でずれにくいものを選ぶことが大切です。

眼鏡をかけるだけで視力が良くなる場合もありますが、眼鏡をかけても視力に左右差がある場合には、追加の治療を行います。追加治療は、視力の悪い方の目をつかって見る力を伸ばします。そのために健眼遮閉(けんがんしゃへい)といって、良く見える方の目を遮閉具で遮閉して生活します。

また調節麻痺薬を使って、視力の良い方の目をわざと見づらくする方法もあります。子どもにとってはつらい訓練ですので、周りの励ましや協力が大切です。

弱視は早く見つけて、早く治療を始めることで良い結果につながることが多い疾患です。健診を受けること、健診で受診勧告をもらったら、すぐに眼科を受診することが最も大切です。

更新:2023.10.26