フレイルを予防し元気に長生き!

浜松医科大学医学部附属病院

リハビリテーション科

静岡県浜松市東区半田山

フレイルの症状と診断

フレイルとは、加齢に伴う生理的予備能力が低下することにより、さまざまなストレスに対する回復力が低下した状態のことです。フレイルに陥ると、身体的な虚弱のみならず、精神・心理的虚弱や社会的虚弱などの多面的な問題が生じます(図)。

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図 フレイルの概念
(日本リハビリテーション医学会 監修『リハビリテーション医学・医療コアテキスト』、医学書院、2018 年より引用)

身体的な虚弱には、筋力低下や歩行能力の低下などがあります。また精神・心理的な虚弱には、抑うつ気分、もの忘れなど、社会的な虚弱には、閉じこもり・貧困などがあります。フレイルになると、転倒・骨折、手術後の合併症、介護が必要な状態、認知症、施設入所、死亡などにつながります。

フレイル高齢者の割合は、国内の調査では、地域在住高齢者の約10%前後と推計され、その割合は加齢とともに増加し、男性に比較して女性に多いとされています。

フレイルの診断には、FriedらによるCHS基準(CHS/ Cardiovascular Health Study)が使われ、①体重減少、②疲労感、③活動量の減少、④歩行速度の低下、⑤筋力(握力)低下の5項目中、3項目以上該当した場合はフレイル、1~2項目該当した場合はプレフレイル(フレイルの前段階)、該当項目0は健常と判定します。

また、「表」のような日本版CHS基準(J-CHS)も使用されます。

下記の5項目のうち、3項目以上はフレイル、1~2項目ならプレフレイル
項目 評価基準
1. 体重減少 6か月で2 ~ 3kg 以上の体重減少
2. 筋力低下 握力:男 < 26kg、女 < 18kg
3. 疲労感 (この2週間に)わけもなく疲れたような感じがする
4. 歩行速度 通常歩行: < 1.0m /秒
5. 身体活動 ①軽い運動・体操などをしていますか?
②定期的な運動・スポーツをしていますか?
上記いずれも「週に1回もしていない」と回答
表 日本版CHS 基準(J-CHS)

フレイルはリハビリテーション治療を中心とした適切な治療によって、再び健康な状態に戻ることができます。フレイルと判定された人の4年間の追跡で、3~4割程度は死亡したものの、2~3割程度はプレフレイルや健常へと改善したとの報告があります。

最近は、ポリファーマシー(6種類以上の薬を併用)の患者さんが、フレイルに陥る危険性の高いことが報告され、投薬量の調整も大切です。

リハビリテーション治療

フレイルの状態にある患者さんは、急性疾患の罹患(りかん)リスク(病気になる可能性)が高いため、身体的虚弱、精神・心理的虚弱、社会的虚弱のそれぞれに早期の対応が必要です。

●身体的虚弱

身体的虚弱は、活動量の低下や栄養不足の場合が多く、運動療法や栄養管理が重要になります。運動療法は易疲労性(いひろうせい)(疲れやすさ)を認める場合が多く、低負荷・高頻度の運動方法が推奨されます。栄養管理はタンパク質の摂取が重要で、骨格筋の維持には1.0~1.2g/㎏体重/日、筋力増強訓練を行う場合は1.2~1.5g/㎏体重/日が必要です。

●精神・心理的虚弱

精神・心理的虚弱は、うつ病・認知機能障害に対処することが必要です。

●社会的虚弱

社会的虚弱は、閉じこもり・貧困に対処するのに、介護予防事業など福祉制度の利用が必要です。そして、ポリファーマシーを避けることも重要です。

当院での取り組み

入院患者さんは、高齢でフレイルを患っている場合が多く、原疾患(おおもとの病気)のみならず、フレイルに対する治療も重要になります。

当院では、発症からできる限り早い段階でリハビリテーションを行う、急性期リハビリテーション治療に取り組んでいます。特に脳卒中(のうそっちゅう)(脳出血・脳梗塞(のうこうそく))、心臓疾患(心筋梗塞(しんきんこうそく)・心不全(しんふぜん))、骨折、肺炎などに対して、入院超早期からリハビリテーション治療を開始しています。また、ICU(集中治療室)でのリハビリテーション治療にも取り組んでいます(写真1)。

写真
写真1 ICU での早期リハビリテーション治療の様子

安静臥床(あんせいがしょう)(動かず静かに横たわっていること)により、筋力低下、骨密度減少、全身持久力低下、起立性低血圧、肺炎、便秘、尿路感染症、床ずれ、静脈血栓症、認知症など、さまざまな問題を引き起こします(これを廃用症候群(はいようしょうこうぐん)といいます)。廃用症候群を防ぐには、不要な安静を取らず、なるべく動くことです。

早期リハビリテーション治療により、早期離床、運動を行うことで体力を回復し、入院期間の短縮につながり、そして退院後、元気な生活を送ることができるようになります。

手術患者さんは、入院前からリハビリテーション治療を行い、手術に臨む前に体力を増強させ、入院後も手術翌日からベッドから起き上がって、歩く、痰(たん)を出す、体力を回復するなどのリハビリテーション治療を行います(これを周術期リハビリテーション治療といいます)。

特に全身麻酔での手術を行う場合、合併症として、術後の肺炎が問題となることがあるため、痰を出しやすくするなど、呼吸機能を高めておく必要があります。また手術後、体を起こすことで痰が出やすくなります。

手術の患者さんだけでなく、長期入院となる患者さん、小児の患者さんにも、体力維持やADL(日常生活動作)改善のためのリハビリテーション治療を積極的に早期から行っています。

更新:2024.11.07