小児リウマチ性疾患をバイオや免疫抑制で治療

山梨大学医学部附属病院

小児科

山梨県中央市下河東

小児リウマチ性疾患とは?

小児期に発症し、自分の免疫バランスが崩れることと関連して起こるとされている病気のグループを、「小児リウマチ性疾患」と呼んでいます。「膠原病(こうげんびょう)」や「自己免疫疾患」と表現することもあります。

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この中には、さまざまな病気が含まれ、何十種類にも及びますが、多くの病気が発症率の低いまれなもので、病気の発症の詳しい機構は解明されておらず、かつ長期的な経過をたどる病気であることから、いわゆる「難病」といわれています。

小児リウマチ性疾患にはどんな病気があるの?

小児リウマチ性疾患の中にはたくさんの種類の病気があり、患者さんが多いものから、まれなものまでさまざまです。その中でいちばん多いのが、「若年性特発性関節炎(JIA)」という病気です(図1)。

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図1 JIAの症状、関節の腫れ

関節が腫(は)れて痛くなる関節炎のうち、16歳未満の小児期に発症し、原因不明で、症状が6週間以上続くものをJIAといいます。以前は「若年性関節リウマチ」と呼ばれていました。JIAのタイプは7種類ありますが、この中には、成人の「関節リウマチ」に近いタイプのものもあります。頻度は少ないですが「、全身型」といって、発熱が続く、非常に重篤なタイプの患者さんもいます。

その次に多い病気として代表的なものが、「全身性エリテマトーデス(SLE)」です(図2)。これは免疫の異常によって自分の細胞に対する自己抗体ができ、全身のいろいろな場所、たとえば皮膚、腎臓(じんぞう)、心臓、肺、腸などを攻撃して、その名の通り、全身にさまざまな症状を起こすものです。一般的に、若い女性に多いといわれている病気ですが、小児期に発症する場合もあります。腎臓に症状が出現した場合は、「ループス腎炎」と呼ばれます。

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図2 SLEの特徴的な皮疹、蝶型紅斑

その他、「若年性皮膚筋炎(JDM)」「シェーグレン症候群」「高安動脈炎(たかやすどうみゃくえん)」「混合性結合組織病(MCTD)」という病気などがあります。

どんなときに疑って、どんな検査をするの?

小児リウマチ性疾患は、「長引く発熱・繰り返す発熱」、「関節が腫れて痛い、歩きにくい」、「治りにくい発疹が出ている」などの症状で気づかれることが多いですが、それ以外にも多彩な症状があり、症状の出かたや部位も患者さんによってさまざまです。そのため、病気の診断や適切な治療にたどりつくまでに時間がかかってしまう例も少なくありません。

まず、「発熱」についてですが、お子さんの「発熱」は大きく分けて、感染症・腫瘍性疾患(しゅようせいしっかん)・小児リウマチ性疾患が原因といわれています。ウイルスや細菌による感染症がいちばん多く一般的です。この場合は自然に良くなったり、抗菌薬で治ったりします。しかし、熱の原因が感染症ではない場合、腫瘍性疾患や小児リウマチ性疾患の可能性を考えて検査をする必要があります。血液検査、尿検査、画像検査などを行い、腫瘍性疾患が隠れていないか、血液腫瘍グループの専門医師と連携しながら、しっかりと診断を進めていきます。

また、「関節が腫れて痛い」「歩きにくい」などの関節症状の場合、特に小さいお子さんでは、痛みを訴えることができず、歩かない、動かさないなど、保護者や保育園の先生が気づいて受診されることもあります。はじめは整形外科を受診してから、小児科へ紹介されることも多いです。超音波検査や造影MRIなどの検査をして診断します。

「治りにくい発疹」「特徴的な皮膚の症状」も、大事な症状です。これらがある場合は、皮膚科医と連携して診断を進めていきます。またその他にも、「まぶしい」「口が乾く」「口内炎が出る」などの症状が出る病気もあり、眼科や頭頸部(とうけいぶ)・耳鼻咽喉科、口腔外科の医師とも連携しています。

1つの検査だけでは簡単に診断がつかないという場合が多いです。また、早く診断することが、病気を治りやすくすることにもなります。心配な症状に気づいた場合、できるだけ早めに、まずはかかりつけの医師に相談してみましょう。

どんな治療をするの?

小児リウマチ性疾患の多くは、長期的な経過をたどり、治療も長期にわたり、全身のさまざまな臓器障害が問題になります。適切に診断すると同時に、タイミングを逸することなく必要な治療を行うことがとても大切です。また、お子さんの成長発育に配慮することも、治療を行ううえで重要なことです。

多くの小児リウマチ性疾患に対して、非ステロイド系抗炎症剤やステロイド剤が治療薬として使われています。特にステロイド剤は、炎症を抑えるためにとても重要な薬ですが、効果的に使用し、副作用を最小限にするためには、正しく使って、効果や副作用をしっかり評価していくことが大切です。ステロイドを徐々に減量していくために、免疫抑制剤と呼ばれる、免疫異常を制御する薬も用いられることが多いです。使える免疫抑制剤が増えてきたことで、病気のコントロールや、薬による副作用のコントロールは、以前とくらべてかなり良くなってきています。

また近年では、病気の発症に、いくつかの「炎症性サイトカイン」という物質が関与していることがわかるようになりました。そして、これらの作用を抑えて症状を改善させる、「生物学的製剤(バイオ医薬品)」と呼ばれる抗体製剤が開発されました。この薬は、サイトカインが直接働く場所を抑えたり、サイトカインを作り出す免疫細胞の働きを抑えたりする作用があり、病気の勢いをコントロールします。具体的には、定期的な点滴で入れる場合と、自宅での皮下注射で投与する場合があります。

この治療がJIAに対して日本で承認されたのは2008年で、従来の治療では治療効果が出なかった方でも症状が改善することが増え、予後は劇的に改善しています。SLEや血管炎などに対しても、バイオ医薬品が開発され、お子さんにも使用できるようになってきました。小児リウマチ性疾患は、従来のイメージとは異なり、治癒や正常の生活をめざせるようになってきました。

ただ有効性の一方で、使用するにあたっては、安全に対する十分な配慮や管理が必要な薬です。まずは正しい手順に従って薬を導入し、患者さんによって異なる治療効果や副作用を注意深く観察しながら継続していきます。

更新:2024.04.26