化学療法について 日々研究が進んでいます

四国がんセンター

呼吸器内科

愛媛県松山市南梅本町甲

化学療法の目的と種類

化学療法とは、「抗がん剤により、がん細胞を減少させ進行を抑える治療法」のことで、その第1の目的は、患者さんにできるだけ長生きしてもらうことです。抗がん剤だけでがんを完治させることは、まだ一部のがんでしか期待できません。ただ近年、副作用を軽減させる方法が発達したこともあり、患者さんの体調の改善や生活の質の向上なども期待できるようになりました。どんな抗がん剤が最善かは、がんの種類や患者さんの全身状態、ライフスタイルにより異なるため、がん専門病院において経験豊富な専門医から十分に説明を受け、納得の上で治療を行うことが重要になります。

抗がん剤は現在、100種類近くあり、飲み薬もあれば、注射薬もあり、その投与期間や作用メカニズムもさまざまです。抗がん剤は全身に広く行きわたり、あらゆる臓器のがん細胞に効果を発揮します。近年の抗がん剤の進歩は目覚ましく、多くの新薬が開発され治療に導入されており、主に「細胞障害性抗がん剤」「分子標的薬」「がん免疫療法」に分類されます。また、乳がん、子宮体がんや前立腺がんなどにおいては、ホルモン治療の有効性も認められており、これも抗がん剤の1種と考えられます。

細胞障害性抗がん剤

体内に入り、がん細胞に直接ダメージを与えるタイプの抗がん剤が「細胞障害性抗がん剤」にあたります。正常細胞も多少なりとも影響を受けるので、白血球数の低下、口内炎、下痢、嘔気(おうき)や脱毛などの副作用がみられますが、優れた吐き気止めや副作用を低減させた薬剤も登場してきています。患者さんの状態や治療歴に応じて、複数薬剤の併用もしくは1種類のみの投与を行います。次に記載します「分子標的薬」「がん免疫療法」の登場後も、がんの長期制御のためには、その重要性は決して失われていません。

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分子標的薬

近年、医学の進歩により、特定のタイプのがんだけが持つ「がん細胞の遺伝子変異」を分子レベルで捉えられるようになりました。それを標的とした薬が「分子標的薬」と呼ばれ、その特定のタイプのがんであれば、特に高い有効性が期待されます。

「がん細胞の遺伝子変異」を調べるための検査は、がんの治療方針を立てる上で非常に重要となるため、解析のための十分な量のがん組織の採取(生検)や、追加の血液検査などを繰り返し行う必要がある場合もあります。当院では、十分な説明の上で、これらの検査を積極的に行い、治療中のあらゆる場面で一人ひとりの患者さんのがんに適した「分子標的薬」を使用できるように努めています(図1)。

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図1 分子標的薬(イメージ)

がん免疫療法

現在、「がん免疫療法」はさまざまな治療法を含んだ言葉であり、有効性の有無にかかわらず広く「がん免疫療法」と呼ばれています。これまでの研究では、残念ながらほとんどのがん免疫療法で有効性が認められていませんでしたが、近年、いくつかのがん(一部の皮膚がん、肺がん、胃がん、腎(じん)がん、尿路上皮がん、頭頸部(とうけいぶ)がん、ホジキンリンパ腫(しゅ)など)において、リンパ球のがん細胞に対する免疫力の低下を回復させる免疫チェックポイント阻害薬による画期的な「がん免疫療法」の有効性が証明されました。

免疫チェックポイント阻害薬による「がん免疫療法」の効果の現れ方には、従来の化学療法と異なる点があります。1つは、治療効果が現れるまでの期間が患者さんによって一定しない点です。中には、がんが一旦増大したように見えた後に縮小する場合(偽性増悪(ぎせいぞうあく))もあります。しかし、さらに重要な点は、一部の患者さんにおいては、一旦がんの縮小が得られると、たとえ治療を中断してもそのまま効果が長く続く場合もあるという点です。

また、最近では手術や放射線治療、細胞障害性抗がん剤などとの組み合わせにより、治療効果を高められるというデータも示されつつあります。免疫チェックポイント阻害薬による「がん免疫療法」は、今までのがんの化学療法の常識を覆すものであり、今後、がんの化学療法において中心的役割を担っていくと考えられます。

ただし残念ながら、「がん免疫療法」もすべてのがん患者さんに有効という訳ではありません。副作用もあり、中には重い副作用が出る患者さんや、そもそも「がん免疫療法」を控えるべき患者さん(重い副作用が出やすい患者さん)もおられることが知られています。いずれにしても「がん免疫療法」は、経験豊富ながん専門の医療機関において、適切な方法で行われるべき治療であることも重要なポイントです(図2)。

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図2 がん免疫療法(出典:国立がん研究センターがん情報サービス)

治験・臨床試験の重要性

現在行われている標準治療(現時点で最善と考えられる治療方針)も、過去の治験・臨床試験で有効性と安全性が証明されたことで世の中に出てきたものばかりです。「がん免疫療法」も含めて、より良い化学療法の開発を目指して、今後も数多くの治験・臨床試験が行われる予定です。そして、より有効な治療法の開発は、がん専門の医療機関の社会的使命の1つとされています。そのため、がん専門の医療機関においては、医学的・倫理的に適切と判断された治験・臨床試験について、患者さんに説明が行われる場合があります。

ただし、治験・臨床試験は患者さんの状態によっては参加できない場合もあるため、詳しくは専門医に相談してください。

更新:2024.10.08