認知症でも安心して入院生活~認知症ケアチーム~

中部ろうさい病院

神経内科

愛知県名古屋市港区港明

超高齢社会で身近になった認知症

認知症は年齢とともに増え、80歳で5人に1人、90歳では2人に1人とされています。超高齢社会を迎え認知症は高血圧や糖尿病と同様に身近な病気となり、家族・友人や近所の人など、誰もが身近に接することが多くなった病気といえます。

認知症の代表疾患はアルツハイマー型認知症で、物忘れで発症して、年単位でゆっくり進行していきます。そのほか、脳梗塞(のうこうそく)を繰り返したことで起きる血管性認知症や、幻覚・うつ症状・動作緩慢が出るレビー小体型認知症などがあります。

認知症のある患者さんの入院生活や治療上の難しさについて

認知症の人も、肺炎や心不全などの体の病気や、転倒による骨折などで入院治療が必要になることがしばしばあります。救急患者を受け入れる急性期(*)の病院では、従来から「認知症のために治療がはかどらない」「入院をきっかけに認知症が悪化した」ということが大きな問題でした。

病院に搬送された認知症のある患者さんの体験としては、「目が覚めたら知らない場所にいて、白い服を着た人たちが慌ただしく動いている。その中の1人が早口で話し、袖をあげて注射をしようとする。怖くなり抵抗したところ、白い服を着た人がたくさんきて強く体を押さえつけて注射をされた」となるでしょう。

急性期病院に入院した認知症のある患者さんは、入院したことを受け入れていない状況で、全く知らない環境におかれます。痛みや熱などの体の苦痛と治療・検査による苦痛がある中で、「次に何をされるのだろう」「どうしてここにいるのだろう」など、不安・恐怖・混乱の中で入院生活を送っています。認知症のある患者さんにとって、入院はこれまでの生活環境や生活リズムを一気に変化させてしまい、心も体も大きなストレスになります。

このような背景と体の不調から精神の混乱をきたし、落ち着きがなくなり、夜は眠れず、興奮して怒りっぽくなり、妄想や幻覚などの精神症状が出やすくなり、本来の病気の治療に支障をきたし、看護の負担も大きくなります。

*急性期:病気・けがを発症後、2週間程度

認知症ケアチームの取り組み

認知症ケアチームは、認知症があっても安心して安全に体の治療が行え、精神的にも穏やかに入院生活が送れるように、そして、住み慣れた地域へスムーズに戻れるように、いろいろな職種がそれぞれの専門性を生かして、共通の目的に向かって結束して対応するために発足しました。

チームメンバーは、神経内科医師、認知症看護認定看護師、薬剤師、医療ソーシャルワーカー、作業療法士で構成されています。

医師は、認知症の原因となる病気や、現在の体の状態を医学的に総合的に評価し、治療やケアで悪影響となる要因などを見つけ、薬物療法を含む適切な対応を検討します。認知症看護認定看護師は、体の状態以外にも精神心理面や入院生活面での評価を病棟看護師と連携して行い、適切なケアを助言します。

薬剤師は、投与している薬の内容を調べて悪影響となる薬剤はないか、腎臓(じんぞう)や肝臓の機能も考慮して、薬の投与量は適切かなどを細かくチェックします。また、必要時に使うべき睡眠薬や鎮静剤などについても医師とともに検討します。医療ソーシャルワーカーは、治療後のスムーズな退院(自宅や施設)に向けて調整を図ります。作業療法士は、入院に伴い心身機能が低下しないように適切なリハビリ指導を行います。

また、それぞれの職種のメンバーは対象となる患者さんの情報をあらかじめ集めて、週1回チームで全病棟を回り、患者さんを診察し、病棟看護師・病棟薬剤師と情報交換をしながら、患者さんのケアについて助言をしています(図、写真1)。

フローチャートイラスト
図 認知症ケアチームの運用図

病気の進行に伴い認知機能が低下したことによるもの忘れや日付・場所が分からなくなる「認知機能障害(中核症状)」に加え、環境や周囲の人々とのかかわりの中で、感情的な反応や行動上の反応が症状として発現する「行動・心理症状(BPSD)」があります。具体的には暴力・暴言、徘徊、抑うつ、不安、幻覚、妄想、睡眠障害などがBPSDになります。BPSDは、不適切なケアや体の不調・不快、ストレスや不安などの心理状態が原因となって現れます。

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写真1 認知症ケアチームの回診風景

認知症でも安心してできる入院生活

以前は、暴れて治療に妨げがあるため体を紐(ひも)のようなものでしばったり(抑制や拘束(こうそく)と呼ばれる)、鎮静剤を使って落ち着かせたりという対応が中心でした。

しかし、チームが発足してからは、なぜ暴れているのか、痛み・体の不調や心理的ストレスなど混乱の要因はないか、一人ひとりの患者さんについて細かく考えて対応するようになりました。その結果、暴れる患者さんは減り、患者さんが笑顔で穏やかに過ごせる日が増えました。当院では、院内デイケアも開催しており、毎日楽しい歌声と笑い声が聞こえています(写真2)。

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写真2 院内デイケアの様子

私たち認知症ケアチームは、常に切磋琢磨し、チームの活動を通じて院内全体での認知症への対応力の向上を図り、今後ますます増加する認知症のある患者さんとその家族を支えていきます。

更新:2022.03.23