耳鼻咽喉科 がん手術治療のいま~頭頸部がんから甲状腺がんまで~

中部ろうさい病院

耳鼻咽喉科

愛知県名古屋市港区港明

舌がん・中咽頭がんの手術について

舌(ぜつ)がんは、耳鼻咽喉科で治療するがん(頭頸部(とうけいぶ)がんといわれています)の代表的なものです。

舌がんの患者さんの多くは手術により治療します。がんが3cmくらいまでの大きさであれば、部分切除を選択します。舌の一部を切除し、残った舌を縫い合わせて傷を閉じる術式です。手術後に食べにくさや話しづらさがありますが、切除が大きくない場合はそれほど生活に支障はありません。

一方、がんが進行して大きくなった場合には、舌半切などの拡大切除を選択します。舌の半分以上を切除する手術では、切り取られた部分が大きくそのままでは傷が治らないため、自分の体の一部(自家組織と呼び、お腹(なか)や脚の皮膚と筋肉を使用します)を血管ごと移し替えて欠損部を覆います(図1、形成外科医による再建術)。手術後に、患者さんが食事や会話のリハビリを一生懸命している姿を見ると、とても勇気づけられます。

イラスト
図1 舌がん再建後

口を開けたときに見える奥の壁、いわゆる“のど”は中咽頭(ちゅういんとう)と呼びます。中咽頭がんは耳鼻咽喉科以外では手術ができないがんです。中咽頭がんの治療は、手術のほかに放射線治療も多く実施されています。中咽頭がんの手術は舌がんの手術と同様に、部分切除の場合と拡大切除の場合があります。

喉頭がん・下咽頭がんの手術について

喉頭(こうとう)はのどぼとけや声帯を含む部分で、軟骨で囲まれています。首の表面近くに位置するため、飲み込んだときに上下に動くのが見えます。喉頭は声を出すだけではなく、物を飲み込むときにとても重要な働きをします。

喉頭がんの治療でも、手術や放射線治療を選択します。手術は舌がんや中咽頭がんと同様に、部分切除と拡大切除があります。

部分切除の場合、かすれ声にはなりますが手術後に自分の声で会話ができます。しかし、拡大切除の場合は再建することはできないため、手術後は自分の声が出せなくなります。また、呼吸も鼻ではなく、永久気管孔(えいきゅうきかんこう)と呼ばれる首に開けられた孔(あな)からになります(図2)。ただし、食道発声や電気喉頭、ボイスプロテーシス(永久気管孔に留置するシリコン製チューブ)による発声ができる場合もあります。手術後は、普通に食事ができることを目標としています。

イラスト
図2 喉頭がん切除後

喉頭の奥にある下咽頭(かいんとう)も部分切除と拡大切除があります。拡大切除の場合は喉頭まで一緒に切除することになります。この場合はかなり大きく切り取ることになるため、小腸を用いた再建術が必要です。手術後は大きなものは食べにくくなりますが、食べてはいけないものは多くはありません。

耳下腺がん・甲状腺がんの手術について

耳下腺(じかせん)は耳の下にある臓器で、唾液を作る働きがあります。

耳下腺がんの手術は、ほぼ耳鼻咽喉科で行っています。耳下腺を切除した場合、唾液が少なくなって困るということはまずないですが、顔面神経麻痺(まひ)の危険性があります。顔面神経をなるべく損傷させないために、神経刺激装置を用いて神経をやさしく温存するようにしています。顔面神経麻痺が全く起こらないこともあります(図3)。

イラスト
図3 耳下腺がん切除(出典:日本頭頸部癌学会ホームページ「頭頸部がんの切除手術」)

甲状腺(こうじょうせん)も首にあるため、近年では耳鼻咽喉科で手術を受ける患者さんが増えています。耳鼻咽喉科はのどや口だけでなく、首の手術も多く実施しています。

甲状腺手術では、反回神経麻痺による声帯麻痺やかすれ声の危険性がありますが、手術後に患者さんが会話を楽しんでいる姿を見ると、私たちもとてもうれしいです。

頭頸部がん患者さんの動向と今後の治療の展望

日本人の高齢化に伴い、頭頸部がん患者数は増加傾向にあります。糖尿病や心疾患などの持病がある方、高齢の患者さんには、それぞれの状態に合わせた治療を心がけています。近年、エコーや画像検査などを受けた際に初期のがんが見つかることもあります。初期のがんに対しては部分切除など、なるべくダメージの少ない手術を実施したいと考えています。

不幸にして再発や転移した方についても、可能な限り良い終末期を過ごせるように、緩和医療にも積極的に力を入れています。状況に合わせて外来や入院で、疼痛(とうつう)管理・栄養管理を行っています。当院の緩和ケアチームには、耳鼻咽喉科医も参加しているので十分なサポートを受けることができます。患者さん本人だけでなく、家族の希望に極力添えるように、在宅医療やホスピスへの連携を行っています。

耳鼻咽喉科の特徴

甲状腺手術症例も豊富ですが、特筆すべきは頭頸部がんの拡大手術(拡大切除+遊離皮弁再建)です。下咽頭がんに対する咽頭喉頭頸部食道摘出術+遊離空腸再建術、舌亜全摘出術や全摘出術、下顎(かがく)区域切除術、中咽頭拡大切除術、上顎(じょうがく)切除術などを積極的に行っています。

頭頸部がん専門医が頭頸部がん病変を切除し、常勤形成外科医が欠損部を再建しています。大学病院やがんセンター以外で、手術を受けられる数少ない施設の1つです。当院形成外科医は、遊離腹直筋皮弁・遊離前腕皮弁・大胸筋皮弁などを使用し再建しています。

更新:2024.01.25