整形外科(脊椎外科) 首のヘルニアから脱出!-老舗整形外科の医療への情熱

中部ろうさい病院

整形外科

愛知県名古屋市港区港明

首の骨の構造をのぞいてみましょう

人間の首も、キリンの長い首もとてもしなやかによく動きますが、いったいどのように動いているのでしょうか。それは、骨(頚椎(けいつい))と骨の間にある椎間板(ついかんばん)という柔らかいクッションの部分がそうした動きを実現させています。

椎間板は、バームクーヘンの真ん中の穴に生クリームを入れたような作りになっており、バームクーヘン部分が少し硬い線維輪(せんいりん)、真ん中のクリーム部分は柔らかい髄核(ずいかく)でできています。そして、椎間板の後ろには脊柱管(せきちゅうかん)(神経)や脊髄(せきずい)が入っている空間があります(図1)。脊髄は脳みそと同じで細胞の集まりですが、神経は線維の集まりです。さしずめコンピューターに例えると、本体のハードディスク部分が脊髄、マウスやヘッドホンなどにつながれるケーブル部分が神経といったところでしょうか。

イラスト
図1 頚椎の構造

横や前から見ると「図2」のような感じになっています。骨と骨の間のゲル状のものが椎間板です。ちなみに、キリンはあんなに首が長いですが、骨の数は人間と全く同じ7個ということをご存じでしたか!?

表
図2 頚椎の構造

頚椎椎間板ヘルニアって、なあに?

椎間板は年を重ねるごとに、古いクッションと同じで、潰れてきて高さが低くなり、幅広になっていき、クッション性が薄れていきます。私たちが研究した、人間ドックの正常な方からの結果では、すべて新品のクッションのような椎間板である人は、20歳を過ぎるとほとんどいませんでした。少し潰れて、出っ張るぐらいは病気ではないので心配はいりません。が、クッションの中身の綿(髄核)がたくさん飛び出してしまうと病気となります。これが頚椎椎間板ヘルニアという病気です(図3)。

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図3 頚椎椎間板ヘルニア

ヘルニア(はみ出した部分)が神経に当たると、肩の後ろや腕に痛みが走り、手がしびれることもあります。これを神経根症(しんけいこんしょう)といいます。ヘルニアは徐々に小さくなることがあるので、最初に選択する治療は飲み薬やリハビリなどで、自然に良くなっていくことを待ちます。ただし、当院では、症状が強くて困っている患者さんには、ブロック療法(髄核や神経に痛み止めと炎症止めを直接注射します)を行っています。約9割の方がこれで軽快しますが、まだ頑固な痛みが残る約1割の患者さんに手術を実施しています。

また、ヘルニアが真ん中に大きく飛び出して脊髄に当たると、手だけではなく足までがしびれたり、歩けなくなったりします。これを脊髄症といいます。先に説明したようにコンピューターのハードディスク部分なので、重要で壊れやすく、壊れたときに治りにくいため、この場合はブロック療法を選択せず、早期に手術を行うことが必要です。

手術って、どのようにするの?

国内で行われている手術は、大きく分けて2種類あります。

1つは、首の後方から骨を削って神経が逃げるスペースを作る方法(脊柱管拡大術(せきちゅうかんかくだいじゅつ)、椎弓形成術(ついきゅうけいせいじゅつ)などと呼ばれています)で、もう1つは、首の前方から椎間板を摘出して圧迫を取り除く方法です。ここでは、前方からの手術についてもう少し詳しく説明します。

前方から摘出する手術は傷の痛みも少なく、とても良い方法ですが、ヘルニアの塊(かたまり)だけを取り除くことは困難で、周りの線維輪も一緒に取り除かなければなりません。このため、骨と骨との間の椎間板がなくなってしまい、椎間板の代わりに骨盤の骨を移植して、動かないように固定しなければなりません。この手術を前方固定術(ぜんぽうこていじゅつ)といいます。短期的には問題はありませんが、長期的には手術を行い、固定され、動かなくなった椎間板の上下の椎間板の負担が増大し、また違う場所でヘルニアが生じることも多いことが、問題となっていました。

この問題を解決するため、椎間板の代わりになる動きを持った人工椎間板が開発されてきました(図4)。欧州では1989年から、米国では2007年から使用されていますが、国内では2017年にようやく使用可能となりました。

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図4 人工椎間板置換術後のレントゲン写真

この人工椎間板置換術(じんこうついかんばんちかんじゅつ)は、 前方固定術よりも技術的に難しく、手術に適した患者さんの見極めが大切です。そのため、人工椎間板置換術を行える病院は、頚椎前方手術の経験が豊富にあり、かつ、海外での手術研修、国内での手術研修・講習などをすべて終了した人のみが使用可能と厳しく決められています。初期の使用認定病院として全国で36病院(2機種あり、18病院ずつ)が選ばれました。当院はその1つで、現在までに約10人の患者さんの治療を行いました。

「納得、安心、そして未来へ」が当院の理念です。適応を厳格に守り、治療を受ける患者さんの気持ちに耳を傾けながら、納得・安心してもらえるように努め、さらに、最新技術で医療の未来への貢献もしたいと思います。

整形外科(脊椎外科)の特徴

当科は東海地方でも有数の老舗整形外科であり、当院の5分の1が整形外科の病床です。伝統的に脊椎外科(椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)、変性側弯症(へんせいそくわんしょう)などへの注射や手術加療)と関節外科(人工関節置換術〈股(また)・膝(ひざ)〉、骨切り術など)に力を入れています。

このほか、四肢(しし)骨折などの治療にあたる一般の整形外科グループを含め、3グループに分かれて高い専門性をもって治療を行っています。

更新:2022.03.23