最新の放射線治療で障害を最小に、効果を最大に!
平塚市民病院
放射線治療科
神奈川県平塚市南原
がんの治療方針とは
がんの治療には、手術・放射線治療・化学療法・免疫療法などがあります。臨床でこれらの治療をどう使い分けているかご存知でしょうか?
手術と放射線治療はどちらも局所治療ですので、遠隔転移(原発巣から離れた臓器への転移)のない、局在化している病巣であることが適応条件となります。これに対して化学療法は血液を介して全身に分布しますから、遠隔転移のある状態でも適応になります。しかし、一部のがんを除けば、化学療法だけでがんを根治させることはできません(血液のがんである白血病やリンパのがんである悪性リンパ腫などでは、化学療法の効果が高いので根治が望めます)。
このようなわけで、胃、肺、大腸、肝臓、子宮などの臓器のがんでは、病巣が局在化していれば外科的治療または放射線治療が選択されます。これらの治療との組み合わせで化学療法を併用することも少なくありません。腫瘍(しゅよう)を縮小させ、切除を容易にするために術前に化学療法を行うこともありますし、放射線治療の効果を高めるために放射線治療と同時に化学療法を行うこともあります(一部の抗がん剤では放射線治療の効果を高めることが知られています)。さらには、切除後の残存病変が疑われる場合に術後に化学療法や放射線治療を行うといった、三者併用療法も珍しくありません。
免疫療法についてはまだ評価が定まっておりませんので、施行する病院は限られています。
局在化しているがんの治療として、手術と放射線治療のどちらを選ぶのか?
放射線治療が効きにくい種類のがん(骨肉腫や悪性黒色腫など)だったり、がんの発生臓器自体が放射線に弱い臓器(小腸など)である時には手術が選択されます。また、胃がん、膵臓がん、胆道がんといった上腹部のがんは小腸に広く接していて小腸被曝を避けられませんので、これらへの放射線治療の適応は限定的です(小腸が耐えられる線量内でも治せる胃の悪性リンパ腫などは例外です)。一方、病巣が局在化していても、がんが周辺の重要な臓器や器官に食い込んでいて、それらを一緒に切除できない場合(大動脈や気管などへの浸潤)は放射線治療が選ばれます。もちろん、可能な範囲で切除して残存部を照射するといった選択肢もあります。
手術も放射線治療もどちらも可能な時はどうしますか?
治療成績に大きな差がない時は、それぞれの治療によって予想される不利益(後遺症や合併症)を患者さんに説明して、一緒に治療の方法を決めていくことになります。手術と放射線治療の治療成績には以前は大きな差があったのですが、化学療法と照射との同時併用や特殊な照射法(定位照射やIMRT)の登場、治療計画装置の高精度化などの複合的な要因により、現在ではその差は確実に縮まっています。逆に外科手術で機能損失の大きい領域(頭頸部領域など)では、放射線治療が担う役割は外科手術を上回るようになったと言ってよいかもしれません。このように、放射線治療の認知度の向上に伴い、国内での照射患者数は20年前に比べて2.5倍以上まで増加しています。しかし、欧米での比率に比べると、国内の照射患者数はまだまだ少ないと言えます。
放射線治療の進歩
放射線治療にとって理想的なのは、病巣だけに放射線を集めて周辺の正常組織への被曝を極力抑えることです(障害を気にすることなく十分な量の照射ができるからです)。しかし、実際にはがんと正常組織との境界はしばしば不明瞭であり、画像で確認できる病巣より広く照射することや、周辺のリンパ節にも予防的に照射することが少なくありません。したがって、周辺臓器への被曝をゼロにすることはなかなか困難です。それでもがんの発生臓器によっては、密封小線源(放射性物質を内封した線源)を使った組織内照射や腔内照射(体表に近い臓器に線源を刺入(しにゅう)もしくは管腔臓器内に挿入する)を併用することで、原発巣への線量の集中が工夫されてきました(線源近くにしか放射線が広がらないので、原発巣への十分な量の照射が可能となります)。しかし残念なことに、どの臓器にもこれらの方法が使えるわけではありません(頭頸部や前立腺などの体表近くの臓器か、子宮や食道などの管腔臓器でないと困難です)。
近年になって、「定位照射(SRT)」という照射法が考案されました。腫瘍が小さく(大体5cm以下)、周辺領域への予防的な照射が不要と判断される時に適応となります(脳腫瘍や小型の肺がん/臓がんなどが対象疾患となります)。立体的にさまざまな方向から病巣に向けて複数本のビームを集光させることで、ピンポイントの照射を実現する技術です。この方法ですと、線量集中性が高く周辺臓器への被曝も抑えられるため、一回に大線量で照射が可能です。もちろん治療期間も短くて済みます(1回から5回)。以前でしたらガンマナイフやサイバーナイフといった定位照射専用機器が必要でしたが、現在では幅広い放射線治療が行えるリニアック(直線加速器)と呼ばれる汎用機器でも対応可能となってきました。しかし、病巣が大きい時や、周辺のリンパ節を含む広い領域への照射が必要な時には、定位照射は使えません。このようなケースでも、がん病巣への十分な線量を確保しながら、障害発生が強く予想される隣接正常臓器への被曝を極力抑えた照射法が開発されています。
「強度変調放射線治療」または「IMRT」と呼ばれるこの照射法は、照射野内線量に強弱をつけたビームを複数組み合わせることで、複雑な形状のターゲットに合わせた線量分布を実現できるようになっています(がん病巣には強く、隣接する正常組織には弱く照射します)。定位照射のように大線量を短期間でというわけにはいきませんが、確実に障害を低下できるために、相対的に原発巣へのより多くの照射が可能で、治療成績の向上に結びつくと期待されます。もちろんコンピューター(治療計画ソフト)によってビーム内の線量の強弱が計算計画されますので、照射前に正しく照射されているか治療計画の検証が必要になります。
当院で新たに導入された照射技術
1.CT以外の画像検査の利用
放射線治療計画に直接利用できる画像は治療計画用CT画像だけですので、異なる検査(MRIやPET)画像を直接利用することは通常できません。しかし、CT以外の検査画像と治療計画用CT画像を融合させるソフトの導入により、その情報を治療計画CT画像に精確に反映させることができるようになりました(CTだけでは判別できないような所見を治療計画用CT画像に反映でき、治療計画の精度向上につながります〈写真2〉)。
2.画像誘導放射線治療(IGRT)
治療寝台上でのX線撮影やCT撮影が可能になりましたので、その画像を治療計画時の画像と比較することで、治療計画と実際の治療時の位置の誤差照合を短時間で高精度に確認できるようになりました。さらに6軸補正可能な治療寝台の導入により、その補正も短時間で行えるようになりました。定位照射やIMRTといった特殊な照射の時だけではなく、通常の体外照射でも今までより高精度な治療が実現されています。
3.光学的体表モニタリングシステム
照射中、リアルタイムに患者さんの体の動きや呼吸の動きを赤外線で監視するシステムです。治療計画時に赤外線で体表面の凹凸を前もって把握しておき、照射中の体表面の凹凸変化をモニタリングして、一定範囲以上の動きがあったら知らせてくれます(写真3)。
4.定位照射(SRT)
正確な位置精度を保ちながら、多方向からピンポイントで大線量の照射を行う放射線治療技術です。5cmより小さい腫瘍であれば、放射線を集中させることで隣接臓器への被曝が抑えられるため、大線量の照射を行うことが可能です。今までは神奈川県西部には定位照射が可能な病院がありませんでした写真2治療計画用CTが、今後は当院でも、脳・肺・肝臓病変などを対象に対応可能となります(写真4)。
5.IMRT(強度変調放射線治療)
照射範囲内に正常臓器が含まれていて、がん病巣と同様に正常臓器も照射される場合、照射できる線量の上限はこの正常臓器が耐えられる線量(耐容線量と言います)になります。そのため、耐容線量の低い臓器が一緒に照射される時には、十分な量の放射線を照射できませんでした。当然放射線の治療成績は低下します。逆に治療成績を優先するのであれば、正常組織の障害(後遺症)を患者さんに覚悟してもらわなければなりませんでした。これではがんが治癒しても、残りの人生の生活の質が低下してしまいます。このような事態に対する解決法の1つが、先述したIMRT(強度変調放射線治療)です。この治療は、照射野(放射線を当てる範囲)の形を細かく変化させることで照射野の中に線量の強弱をつけ、さらに多方向からの照射によって、がん病巣の線量を落とすことなく、隣接している臓器への被曝線量を減じる高精度な照射法です。今まで照射野内に含まれる正常な臓器の耐容線量が足かせになって十分な照射が行われなかった病巣へも十分な照射が行えるようになり、治療成績の向上も期待できます。特に、前立腺がんのようにターゲット(前立腺)と危険臓器(直腸)が隣接する際に有効で、今までは危険臓器の耐容線量内での照射しかできなかったケースでも、十分な線量をターゲットに照射できるようになりますので、腫瘍制御率の向上が期待されます。また、頭頸部腫瘍では病巣への十分な照射線量を確保しつつ、障害を受けやすい唾液線への線量を抑えることで、治療後の唾液分泌障害や、味覚障害といった後遺症を極力抑える治療が可能になっています。この照射法も神奈川県西部では当院でのみ可能な方法です(※県内では20施設で可能)(写真5)。
更新:2024.10.04