脳卒中ってどんな病気?
平塚市民病院
神経内科
神奈川県平塚市南原
脳卒中とは?
脳卒中とは「突然悪い風にあたって倒れる」という意味であり、その症状は意識障害、運動障害(半身が動かなくなる)、感覚障害(半身の感覚が鈍くなる)、平衡(へいこう)障害(ふらつき)、けいれん、視野障害、頭痛(出血した場合)などがあります。症状としては、運動障害(片麻痺(かたまひ))が最も多くみられます。
脳は各部分の働きが異なり、障害される場所によって症状が異なります。例えば、運動の中枢が障害されれば反対側の半身(右脳であれば左半身)の麻痺が、感覚の中枢では反対側の半身の感覚障害が起こります。運動性言語中枢が障害されると、他人の言っていることを理解できても、自分ではしゃべれなくなります。感覚性言語中枢が障害されると、他人の言っていることが理解できなくなります。脳卒中は脳の血管が破れるか詰まるかのいずれかにより、脳が障害されてしまうことによって起こります。
日本の脳卒中の現状
死亡原因では第2位で、年間人口10万人当たり118人が脳卒中で亡くなり、死亡総数の16%にあたります。そして、入院の原因としても第2位で、脳卒中患者の平均在院日数は119日と極めて長いのです。
さらに問題になるのは、寝たきり老人の約4割、訪問看護サービス利用者の約4割が脳卒中患者であり、1年間に約1兆8000億円もの医療費が脳卒中のために使われています。
脳卒中の種類
脳卒中は、脳梗塞(のうこうそく)、脳出血、くも膜下出血に分けられます。脳梗塞とは、脳の動脈が詰まって血の流れが悪くなり、脳が障害されてしまうものです。昔から脳溢血(のういっけつ)という言葉がありますが、それは「血が溢(あふ)れる」、つまり脳出血のことです。
脳梗塞には3つのタイプがあります。
- ①大きな動脈の動脈硬化によって血栓ができて詰まるもの。
- ②心臓にできた血栓が流れてきて詰まるもの。
- ③脳の細い動脈が高血圧のために細くなって詰まってしまうもの。
ひどい高血圧の状態が長く続きますと、血管が壊死(えし)し、破れてしまい、脳出血が起こります。破れるほどのひどい高血圧でなければ、詰まってしまいます。このように、細い動脈の病変による脳梗塞と脳出血は親戚の関係にあります。
「写真1」の上段は脳出血急性期のCTで、白いところが出血です。
2週間から1か月経つと、この血液は吸収されて黒くなってしまうので、それ以後に下段のようなCTを見ると、本当に出血だったのかどうか、なかなか分かりません。そういう意味からも、早めに1回CTを撮って、何であったのかということをはっきりさせておくことが大事です。
「写真2」は、心臓にできた血栓が脳に飛んできて、脳梗塞を起こした患者さんのCTです。これは脳を頭の真ん中あたりで1cmの厚さで水平に切った写真です。黒くなっている部分が脳梗塞です。これは右半球にあり、この患者さんには左の片麻痺がありました。
「写真3」は、心臓の超音波検査の写真です。左心房の中に矢印が示す血栓があるのが、超音波診断で分かります。これがはずれて大動脈の方に流れて行くと、脳に引っかかることがしばしばあります。
血栓溶解療法
血栓溶解療法(アルテプラーゼ静注療法)は、詰まった血管の血栓を溶かすことによって、血液の流れを再開させ、脳梗塞を治療します(発症時刻を正確に特定できる人のみ使用可能)。症状が出現してから4.5時間以内に、アルテプラーゼという薬を投与します(用量0.6mg/kgの内、10%を注射で、残り90%を1時間で点滴します)。米国で行われた臨床試験では、アルテプラーゼを使った人の39%で障害が回復(使わなかった人では26%で回復、つまり、自然の回復もありえます)したと報告されました。
血栓溶解療法の副作用で最も多いのが出血です。程度はさまざまですが、脳梗塞の患者さんでは「出血性梗塞」の危険があります。出血性梗塞とは、脳の血管が詰まったことでその先の血管ももろくなるため、血栓溶解療法によって再開された血流に耐え切れず、血管の壁が破れ出血する状態のことです(血栓溶解療法を行わなくても起こることがある自然の経過の1つです。アルテプラーゼは、この可能性を増幅させてしまう治療でもあります)。
出血性梗塞の程度はさまざまで、CT検査で初めて分かるものから、症状が悪化してから分かるものもあり、程度が重いと命にかかわる病状です。米国では6.4%で起こり、死亡率が2.9%でした(薬を使わなかった人は0.6%、うち死亡は0.3%)。日本の試験では5.8%で出血性梗塞が起こり、0.9%で死亡しています。
アルテプラーゼの使用は、症状を悪化させてしまう場合が少なからず見受けられるため(死亡率も高くしてしまいます)、非常に慎重に考える必要があります。
更新:2022.08.08