腹部大動脈瘤にステントグラフトチームで低侵襲治療

平塚市民病院

放射線診断科 血管外科

神奈川県平塚市南原

無症状でも怖い病気

大動脈は体の中心を走っている最も太い動脈で、心臓から全身に血液を送る動脈の根元に相当します。この動脈が瘤(こぶ)のように拡張した病気が大動脈瘤(だいどうみゃくりゅう)です。この病気の恐ろしいところは、ほとんどの患者さんは特に症状がないにもかかわらず、突然破れて出血してしまうことがあるという点です。

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写真1 腹痛を主訴に受診し、CTを施行。7cm大に拡張した腹部大動脈(→)が破裂し、お腹の中に出血(矢頭)している

大動脈瘤が破裂すると

大動脈瘤が破裂すると激しい痛みが生じるとともに、急激に血圧が低下します。大動脈瘤が破れた場所によって出血する場所が異なるのですが、吐血など、目に見える出血のほかに、血胸(けっきょう)、腹腔内出血(ふくくうないしゅっけつ)など、目に見えない場所で出血を起こすことがあります。出血量が多い場合には、病院に搬送される前に亡くなってしまいます。

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写真2 CTからすぐに作成した3次元画像。紡錘状に拡張した大動脈瘤(→)と、体の左側への出血が描出されている

出血量が少なかった場合や、いったん出血が止まった場合に病院にたどり着くことができます。病院にたどり着いた患者さんでも致死率の高い病気であり、速やかな高度治療が必要な状態です。

大動脈瘤破裂に対応する湘南破裂性腹部大動脈瘤プロトコール

このような大変重症で、致死率の高い大動脈瘤破裂に対応するために、2012年に神奈川県の基幹病院(湘南鎌倉総合病院、平塚市民病院、済生会横浜市東部病院)で湘南破裂性腹部大動脈瘤プロトコールが作成されました。

このプロトコール要旨は、

  • 破裂性大動脈瘤に対して許容される範囲の低い血圧を維持して出血量を抑え、速やかに手術室に入室する。
  • 手術室では、必要に応じて局所麻酔で大動脈を風船によって遮断し、出血を止める。
  • 解剖学的適応があれば、ステントグラフト治療、なければ人工血管置換術を施行する。

ステントグラフト治療・人工血管置換術を行うために、平塚市民病院では血管外科と放射線診断科に腹部ステントグラフト指導医が常勤医として在籍しています。

腹部大動脈瘤ステントグラフトチーム

このような迅速な対応を要する破裂性大動脈瘤治療を行うには、1人の医師の力では限界があります。通常の待機的手術(病状の経過中、治療に適したタイミングを待って行う手術)では1人の医師が時間をかけて行うことも、破裂時には複数の医師が同時に行い、迅速に行わなければ、患者さんを助けることはできません。

血管外科医
全身状態を考慮した治療方針決定とステントグラフト・人工血管置換術の施行
放射線診断医
迅速な診断とステントグラフトのプランニングと施行
救急医
迅速な初診診断と適切な全身状態管理
麻酔科医
術中の適切な全身状態管理
放射線技師
診断に適した画像の撮影と血管内治療の際の最適化された撮影
看護師・臨床研修医
手術・全身管理のサポート
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写真3 緊急手術で、ステントグラフト治療を施行。血液の漏れもなくなり、経過良好で、2週間後退院した

チーム医療で市民の健康を守ります。

更新:2022.08.08