自覚症状が乏しい「胆道がん」とは

いわき市医療センター

消化器内科

福島県いわき市内郷御厩町久世原

胆道の役割と胆道がんの種類

胆道は肝臓で作られた胆汁(脂肪の消化吸収にかかわります)という消化液の通り道です。まず、肝臓内から微細な胆管にはじまり、何回も合流しながら太い胆管となります(図1)。途中、胆汁を濃縮する働きの胆嚢(たんのう)が胆嚢管を介して合流し、最終的に総胆管となり十二指腸乳頭部に開口(終点)します。

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図1 胆道の仕組み

つまり、胆道は胆管、胆嚢、十二指腸乳頭部を併せての総称であり、胆道がんは、胆道の粘膜に生じたがんで、胆管がん、胆嚢がん、十二指腸乳頭部がんの総称です。さらに、胆管がんは肝臓内に腫瘤(しゅりゅう)(しこり)を形成するタイプの肝内胆管がんと、太い胆管を閉塞(へいそく)するタイプの胆管がんがあります。

国立がん研究センターの発表では、2017年における胆道がん(胆管・胆嚢がん)死亡数はがん死亡全体の5%程度(男性4.2%、女性5.8%)で、女性にやや多いとされています。

胆道がんの症状とは

自覚症状は乏しいことが多く、肝機能障害や画像検査などで先に指摘されることがよくあります。特徴的な症状としては黄疸(おうだん)です。胆管が閉塞することにより生じます(閉塞性黄疸)が、眼球結膜(白眼)や皮膚が黄色になるほかに、胆汁成分が尿に多く排泄されて尿の色が濃くなったり、胆汁が食物に混じらないために便が白色になったりする現象もあります。また、黄疸とともに皮膚のかゆみも出現します。

次に、腹痛や痛みは、がんの発生部位にもよりますが、みぞおち~右上腹部が多く、時に背部の痛みも生じます。先に記したように痛みのないこともしばしばあります。そのほかの症状としては、発熱・微熱、食欲低下や体重減少、全身倦怠感(けんたいかん)などがありますが、これらは他のがんにも共通の症状で、その出現はがんの進行具合にもよります。

血液検査所見としては、肝機能異常や腫瘍マーカー(CA19-9,CEAなど)の上昇が認められます。時に貧血や炎症反応が上昇することもあります。しかし、血液検査でほとんど異常のみられない場合もあります。

さまざまな検査を駆使し、診断と治療方針を決定

胆道がんの診断は、主に画像診断によります。

胆道がんが疑われた場合、腹部超音波検査、CT、MRIが最初の画像検査として行われます。これにより、病変の存在と範囲、その病変ががんであるのか否かおおよそ診断し、ここまでの検査で不足な部分は、さらに内視鏡を使った検査を実施します。当院では、内視鏡的逆行性胆管造影(ERCP)、超音波内視鏡(EUS)、経口胆道鏡(POCS)といった検査を駆使して、細胞検査・組織検査を行い診断の確定や病変の範囲の確認を行います。

以上の診断と全身検査の結果に基づき、治療方針を決定します。

年齢や全身状態などに大きな問題がなく、手術が可能であれば、外科的治療をお勧めします。年齢や体力面、合併症の問題で手術が難しい場合、また、全身的には問題がなくても、病変自体の広がり具合で手術が困難な場合は、内科的治療をお勧めします。これらの判定は、関連する複数の科によるカンファレンスで最終的に決めています。

胆道がんの内科的治療

治療として手術が選択された場合、病状に応じた術式が選択されますが、詳細は外科治療(「胆道がんの外科的治療(手術治療)」)を参照してください。ここでは、手術以外の治療についてお話しします。

1.減黄治療(胆道ドレナージ)

胆道がんによくみられる黄疸(閉塞性黄疸)に対する治療です。

この黄疸を放置しておくと、肝機能障害の増悪や他の臓器の障害が生じます。対して、胆管の閉塞状態を解除し胆汁の流れを戻せば、黄疸は軽快します。そのために、胆管の細くなった(狭窄)ところ、あるいは詰まってしまった(閉塞)ところに、ステントと呼ばれるパイプを通して留置します。

治療手技は、主に内視鏡を使って十二指腸側から行いますが、それが困難な場合は超音波装置とレントゲンで見ながら、体外から胆管を穿刺(せんし)して実施する場合もあります。留置するステントは金属性のものとプラスチック性のものがあり、また、胆汁の流れ先(ステントの出口)が体内(つまり十二指腸)になる場合を内瘻(ないろう)と呼び、体外になる場合を外瘻(がいろう)と呼びます。

どのステントをどのように留置するかは、各々の病態によって選択します。手術を行わない場合で黄疸があればもちろんですが、手術を行う場合でも、黄疸があれば(あるいは黄疸になりそうなときは予防的に)術前にこの治療を行います。

2.化学療法(抗がん剤治療)

手術を行わない場合の胆道がんに対する直接的な治療は、抗がん剤による治療が中心となります。薬としては、ゲムシタビン、シスプラチン、S-1などが使われますが、まずは、最初の治療として推奨されるゲムシタビン+シスプラチン併用療法(GC療法)を行います。それ以外にも、病状に合わせて、薬や投与法を工夫して治療法を選択し、なるべく継続していきます。

最近の抗がん剤の治療は、副作用の対策も充実し、以前より快適により少ない苦痛で化学療法を受けられるようになりました。しかし、体力面が衰えていたり合併症の状況によっては抗がん剤が全身状態を悪化させる恐れがあり、その際は、化学療法を受けられない場合もあります。

3.放射線治療

胆道がんに対する放射線治療(体外照射)は、状態によっては有効な場合もありますが、十分に検討し、有効性が期待できるときのみ行います。

胆道がんの外科的治療(手術治療)

胆道がんに対する切除術式は腫瘍(しゅよう)のできた場所や広がり方によって決まり、「胆嚢がん・肝門部領域胆管がん」と「遠位胆管がん・十二指腸乳頭部がん」で大きく異なります。

腫瘍が胆嚢(たんのう)か胆管の上部(胆嚢より肝臓寄り)にある場合には、胆嚢、上部胆管、肝臓の一部を切除する手術が標準的で、肝臓についてはがんが右寄りに広がっていれば右葉(図2)、左寄りなら左葉を切除します。

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図2 肝右葉切除+胆管切除術

肝切除後に最も怖い合併症は、残った肝臓が十分な機能をはたせなくなる肝不全です。この肝不全を防ぐため、肝臓の60%以上を切除するときには経皮経肝門脈塞栓術(けいひけいかんもんみゃくそくせんじゅつ)という治療を行います。局所麻酔を行い、超音波で観察しながら皮膚と肝臓を貫いてカテーテルと呼ばれる細い管を挿入し、切除する側の肝臓に栄養を送っている門脈をふさぐ方法で、3~4週間ほどで残す側の肝臓が大きくなり、術後肝不全の発症率が減少します。

腫瘍が胆管の下部(胆嚢より膵臓(すいぞう)寄り)にある場合には、胆嚢、下部胆管、膵臓の半分、十二指腸、胃や小腸の一部を切除する膵頭十二指腸切除術(図3)を行うのが標準的です。膵頭十二指腸切除術では、残った胆管・膵臓・胃を小腸とつないで、胆汁や消化液の通り道と食べ物の通り道を再建します。

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図3 膵頭十二指腸切除術

腫瘍が上部から下部まで広範囲に存在する場合には、肝切除術と膵頭十二指腸切除術を同時に行うことがあります。また、胆道がんの特徴として肝動脈や門脈といった隣接する血管にがんが広がりやすいため、これらの血管を一緒に切除して血液の流れ道を再建することもあります。

いずれの手術も体への負担は大きく、手術関連死亡率は2%から高い術式では10%以上と報告されています。このような難易度の高いとされる手術の安全性向上のために、日本肝胆膵外科学会では技術認定制度を設け一定の基準を満たした施設を修練施設としてホームページ(http://www.jshbps.jp/modules/public/index.php?content_id=1)で公開しています。治療を受ける際の参考にしてください。

胆道がんは、国内では決して珍しいがんではなく、根治(こんち)するための治療法があり、また黄疸や痛みを軽減する治療法も確立しています。まずは病気についての正しい情報を知ることが大切ですので、気軽にご相談ください。

更新:2024.01.25