炎症性腸疾患を知るー潰瘍性大腸炎・クローン病

いわき市医療センター

消化器内科

福島県いわき市内郷御厩町久世原

炎症性腸疾患とは

炎症性腸疾患とは、良くなったり悪くなったりを繰り返す慢性の腸炎で、基本的には潰瘍性大腸炎(かいようせいだいちょうえん)とクローン病という2つの病気を指します。炎症性腸疾患の原因は不明ですが、仮説として遺伝的要因と環境的要因が複雑に絡み合い、腸内の細菌に対する免疫学的異常がかかわって発症する疾患とされています。炎症性腸疾患は、国内では年々患者数が増加しており、2017年では潰瘍性大腸炎は約20万人、クローン病は約4万5000人に達していると考えられています。厚生労働省の指定する特定疾患の中では、潰瘍性大腸炎の患者数が最も多く、また世界的にみても米国に次いで2番目の患者数です。

炎症性腸疾患は、どちらかといえば若い方に多く、潰瘍性大腸炎は20歳代から30歳代、クローン病は10歳代後半から20歳代前半に発病する方が多いようです。潰瘍性大腸炎は男女比がほぼ1対1ですが、クローン病は国内では男性に多く、約3対1の割合です。炎症性腸疾患は、完治する方が少ない慢性の疾患で、経済基盤の脆弱(ぜいじゃく)な若い方に多く、受験や就職、結婚、妊娠・出産など、人生のさまざまなイベントにかかわる時期に発病するため、厚生労働省は特定疾患に指定し、一部医療費の給付対象としています。

潰瘍性大腸炎の症状

潰瘍性大腸炎は、基本的には大腸だけに慢性の腸炎を起こす病気です。そのため、血液と粘液が混じったような粘血便(ねんけつべん)や、腹痛、発熱、食欲低下、体重減少などの症状が現れます。病気の広がる範囲は、肛門に近い直腸だけの方もいれば、すべての大腸に広がっている方もいます。一般的に、病気の範囲が広いほど症状は重くなります。

また、腸管外合併症といって、皮膚に壊疽性膿皮症(えそせいのうひしょう)、結節性紅斑(けっせつせいこうはん)といった皮疹(ひしん)ができたり、目にぶどう膜炎、虹彩炎(こうさいえん)などの病気が出たりします。さらに関節炎や尿路結石など、他臓器に潰瘍性大腸炎に関連した病気が出現する場合があります。

潰瘍性大腸炎の診断

潰瘍性大腸炎の診断は、粘血便などの症状から病気を疑って、血液検査や便の培養検査、大腸の内視鏡検査、内視鏡時に組織を採取する生検検査などを行い、ほかの病気ではないことを確認した後に総合的に判断します。それは、感染性腸炎や虚血性腸炎(きょけつせいちょうえん)、大腸ポリープ、大腸がんといった、血便を伴う疾患が多いためです。

大腸の内視鏡検査は最も重要で、腹痛が強かったり、出血量が多い場合は下剤を使用せずに、そのままの状態で肛門から内視鏡を挿入し腸内を観察します。潰瘍性大腸炎の場合は、肛門から連続的に、また全体にわたって一定範囲まで炎症が広がり、粘膜の血管が見えなくなったり、粘膜が脆弱になって内視鏡が接触しただけで血が滲(にじ)むことがあります。また潰瘍や粘液、血液、腸のむくみが確認されることもあります。

一般的に、便に赤い血液が混入することを血便といいますが、原因として痔(じ)が多いものの、中には大腸ポリープや大腸がん、潰瘍性大腸炎などの病気が隠れている場合があります。血便が認められた際は放置せず、かかりつけの先生に相談してください。

潰瘍性大腸炎の内科治療

潰瘍性大腸炎の内科治療は、症状が軽ければ外来で済みます。しかし、発熱や腹痛を伴い食事摂取量が少ない場合や、血液データが悪い場合は入院で治療を行います。基本的には、厚生労働省の難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班の治療指針案に則り、病気の重さ(重症度)、病気の範囲、薬に対する反応性と、患者さんのライフスタイル、希望を加味し治療法を選択します。

基本治療薬として、5-アミノサリチル酸を主成分とする製剤が開発され、治療に用いられています。現在、国内で使用できる5-アミノサリチル酸を主成分とする内服製剤は4種類です。また潰瘍性大腸炎は、肛門近くに病気の範囲が留まる方も多く、全身への影響が少ない局所製剤(坐薬(ざやく)、注腸剤)もしばしば用いられます。坐薬は3種類あり、注腸製剤は4種類あります。病気の粘膜に、薬剤をより高濃度に送達させるために、実際はこれらを組み合わせて用いられる場合もあります。

全身症状が強く、より効果の高い治療が望まれる場合は、ステロイドホルモン剤が用いられます。ステロイドホルモン剤は、速やかに軽快する方が多い優れた薬剤ですが、長期に使用すると副作用の懸念が高まるために(高血圧、糖尿病、骨粗(こつそ)しょう症(しょう)、白内障、緑内障など)、症状が改善した場合は計画的に減量します。また、ステロイドホルモン剤が合併症のために使えない方や、以前に効果がなかった方に対しては、白血球除去療法やタクロリムス療法が選択されます。白血球除去療法は透析に類似した装置を要し、タクロリムス療法は薬剤濃度を測定する必要があるため、両治療とも施行可能な医療機関は限られます。

最近、バイオ製剤やJAK阻害剤が登場し、治りが悪い難治の潰瘍性大腸炎に対して用いられるようになりました。以前は外科治療が必要だった方や、何度も繰り返し悪くなる方(再燃)にとって、治療の選択肢が増え、朗報となっています。ただし、治療効果の高い薬剤は諸刃の剣であり、十分吟味し注意深く用いる必要があります。

潰瘍性大腸炎の外科治療

潰瘍性大腸炎の手術適応は「表1」に示した通りです。出血、穿孔(せんこう)、中毒性巨大結腸症などの場合は緊急手術の適応となります。

(1)絶対的手術適応
①大腸穿孔、大量出血、中毒性巨大結腸症
②重症型、劇症型で強力な内科治療(ステロイド大量静注療法、血球成分除去療法、シクロスポリン持続静注療法、タクロリムス経口投与、インフリキシマブ点滴静注、アダリムマブ皮下注射など)が無効な例
③大腸がんおよびhigh grade dysplasia(UC-Ⅳ)
〈注〉①、②は(準)緊急手術の適応である。

(2)相対的手術適応
①難治例:内科的治療(ステロイド、免疫調節薬、血球成分除去療法、タクロリムス、インフリキシマブまたはアダリムマブなど)で十分な効果がなく、日常生活、社会生活が困難なQOL低下例(便意切迫を含む)、内科的治療(ステロイド、免疫調節薬)で重症の副作用が発現、または発現する可能性が高い例。
②腸管外合併症:内科的治療に抵抗する壊疽性膿皮症、小児の成長障害など。
③大腸合併症:狭窄、瘻孔、low-grade dysplasia(UC-Ⅲ)のうち癌合併の可能性が高いと考えられる例など。

(『潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療方針』厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」〈鈴木班〉平成29年度分担研究報告書 別冊〈平成30年7月作成〉より引用)

表1 潰瘍性大腸炎の手術適応

潰瘍性大腸炎は基本的に大腸粘膜の病気なので、これをすべて切除することで根治(こんち)が得られます(図1)。根治手術として、主に大腸全摘・回腸嚢肛門吻合術(かいちょうのうこうもんふんごうじゅつ)あるいは肛門管を一部残して吻合する大腸全摘・回腸嚢肛門管吻合術を行っています。通常は2回から3回に分けた分割手術で行い、症例によっては腹腔鏡下手術(ふくくうきょうかしゅじゅつ)も選択されます。

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図1 潰瘍性大腸炎に対する主な術式

手術と手術の間の期間は、人工肛門のまま退院して日常生活を送り、およそ半年から1年の間で人工肛門を閉鎖し、肛門から排便できるようになります。回腸肛門管吻合のほうが、術後の肛門機能が保たれるといわれていますが、肛門管に大腸粘膜が残存するため、術後もステロイド座薬などの治療が継続して必要になることがあります。東北大学の関連施設では、大腸全摘・回腸嚢肛門吻合を標準術式としていますが、術後に肛門機能が低下しやすい50歳以上の方で肛門管の炎症が軽度な例では、大腸全摘・回腸嚢肛門管吻合を選択しています。60歳以上の方では、術後に肛門機能低下による便失禁が問題になることが多く、永久人工肛門になってしまうケースも少なくありません。

潰瘍性大腸炎の術後合併症として回腸嚢炎(かいちょうのうえん)があります。通常、症状は一時的なもので、抗生物質やステロイドの治療によく反応します。中には難治例や頻回(ひんかい)に再燃する症例もあり、継続した治療が必要になります。

クローン病の症状

クローン病は、口から肛門まで、全消化管に病変が出現する可能性のある疾患です。口では口内炎が多く、肛門では痔瘻(じろう)が半数以上の方に現れます。痔瘻は、肛門に膿(うみ)が溜(た)まり腫(は)れて痛みを伴います。膿が外に出るようになると、腫れが改善し痛みは楽になりますが、膿の出口が閉じて外に排出されなくなると、また腫れて痛みが出現します。

腸管では、主に小腸と大腸に潰瘍がみられます。小腸だけに病変がある方を小腸型クローン病、大腸だけに病変がある方を大腸型クローン病、小腸と大腸の両方に病変がある方を小腸大腸型クローン病と呼びます。消化吸収の場である腸管に潰瘍が出現するため、栄養障害による痩(や)せや体重減少、腹痛、下痢、発熱、肛門痛などが認められます。また腸管外合併症は、潰瘍性大腸炎と同様に出現する場合があり、その中では関節痛の頻度(ひんど)が高いようです。

クローン病の診断

クローン病の診断は、血液検査や便の培養検査、消化管の内視鏡検査、生検検査、消化管造影検査などを組み合わせて行います。血液検査では、特に慢性の貧血をきたしているか、血液中の蛋白質(たんぱくしつ)が減少し栄養障害が出現しているか、病気による慢性炎症所見が認められるかに着目します。消化管内視鏡検査と造影検査は、最も重要な検査です。縦走潰瘍という腸管の長軸に沿った縦長の潰瘍があるかどうか、敷石像というヨーロッパの石畳のような所見があるかどうか、そして腸が狭くなっているところがないかどうか、腸管全体を検索します。内視鏡を用いた組織採取も積極的に行い、病理検査へ提出します。そこで非乾酪性類上皮細胞肉芽腫(ひかんらくせいるいじょうひさいぼうにくげしゅ)が認められると、クローン病の可能性が高くなります。

クローン病の内科治療

クローン病の特徴として、絶食にすると潰瘍が良くなり、食事を再開すると悪くなる傾向がみられます。食事中のどんな成分が影響しているのか、正確なことは分かっていません。しかし、消化管からそのまま吸収できる栄養素まで分解した製剤は、潰瘍の治りを妨げないことも明らかとなっています。そのため、特殊な治療に成分栄養療法があります。用いる薬剤は、アミノ酸とデキストリン、ミネラル、ビタミン類からなる粉末製剤で、含まれる脂肪分はわずかです。お世辞にもおいしいとは言えないので、鼻から細い管を自己挿入して先端を胃十二指腸内に置き、ゆっくり注入したり、フレーバーをミックスし、そのまま少しずつ飲んだりして治療を行います。改善まで時間を要しますが、副作用がほとんどないので、小児領域では必ず行われる治療法です。

クローン病では、潰瘍性大腸炎と同様に、5-アミノサリチル酸製剤や、病気の勢いが強いときはステロイドホルモン剤が用いられます。また最近、腸炎にかかわるTNFという成分を中和し、TNFを産生する催炎症性(さいえんしょうせい)免疫担当細胞に細胞死を誘導するバイオ製剤が登場し、大きな成果をあげています。この製剤が登場する前は、腸炎悪化により、入院や腸手術を余儀なくされていた方が多かったのですが、入院や腸手術を回避できる症例が増えてきました。

クローン病を悪くするものは、喫煙です。喫煙の影響は、複数の民族で証明されており、治療にあたり禁煙が大切になります。

クローン病の外科治療

1.腸管病変に対する外科治療

クローン病の手術適応は「表2」の通りです。出血、穿孔、中毒性巨大結腸症などの場合は緊急手術になることがありますが、通常は栄養療法や薬物療法など、内科的治療後に手術を行います。入院期間は長くなりますが、消化管の炎症を落ち着かせることで切除範囲を最小限に留めることが可能になり、また腹腔内膿瘍(のうよう)や瘻孔(ろうこう)などの術後合併症も減らすことができます。初回手術や、2回目以降であっても癒着が軽度な症例では、腹腔鏡下手術が選択されます。潰瘍性大腸炎と違いクローン病は外科的治療では根治できないため、手術後も栄養療法や薬物療法などの治療を継続する必要があります。

(1)絶対的手術適応
①穿孔、大量出血、中毒性巨大結腸症、内科的治療で改善しない腸閉塞、膿瘍(腹腔内膿瘍、後腹膜膿瘍)
②小腸癌、大腸癌(痔瘻癌を含む)
〈注〉①は(準)緊急手術の適応である。

(2)相対的手術適応
①難治性腸管狭窄、内瘻(腸管腸管瘻、腸管膀胱瘻など)、外瘻(腸管皮膚瘻)
②腸管外合併症:成長障害など(思春期発来前の手術が推奨される。成長障害の評価として成長曲線の作成や手根骨のX線撮影などによる骨年齢の評価が重要であり、小児科医と協力し評価することが望ましい)
③内科治療無効例
④難治性肛門部病変(痔瘻、直腸膣瘻など)、直腸肛門病変による排便障害(頻便、失禁などQOL低下例)

(『潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療方針』厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」〈鈴木班〉平成29年度分担研究報告書 別冊〈平成30年7月作成〉より引用)

表2 クローン病の手術適応

手術は病変部の切除が原則ですが、何度も手術して腸管切除を繰り返した結果、小腸長が2m以下になると、小腸から十分な栄養吸収ができなくなります。この病態を短腸症候群といい、これを避けるため小腸の狭窄病変を切除せず、狭窄部の内腔(ないくう)を広げて通過をよくする狭窄形成術(図2)を実施することもあります。

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図2 クローン病に対する狭窄形成術

2.肛門病変に対する外科治療

クローン病では高確率で肛門病変として痔瘻を合併します。合併した痔瘻は多発することが多く、難治性で再発を繰り返すため、一般的な痔瘻根治術ではなくシートン法を行います(図3)。シートン法とは、痔瘻の通り道(瘻孔)に医療用のシリコン製テープを通して、排膿(はいのう)を促進し、瘻孔が外側や上部に広がらないようにする手術法です。肛門括約筋を切開しないので、多発した痔瘻に対して数か所挿入しても、肛門機能は比較的保たれます。肛門病変がひどく、狭窄による排便障害や直腸膣瘻(ちょくちょうちつろう)形成など日常生活に支障をきたすようなケースでは、人工肛門を造設することがあります。

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図3 シートン法(シートンドレナージ)の基本的な手技

更新:2024.10.28