がんゲノム医療 がんゲノム医療を行うためには

大垣市民病院

ゲノム医療センター

岐阜県大垣市南頬町

がんゲノム医療とは?

これまでのがん治療は、肺がんに対する治療、乳がんに対する治療というように、疾患別に行われてきました。しかし、肺がんの治療がすべての肺がんに効くとは限りません。それぞれのがんの成因は、必ずしも同じではないからです。2019年6月より、遺伝子パネル検査が保険適用となりました。

この検査を行うことにより、がんの遺伝子変異を見つけ、そのがんに効果が期待できる治療法を選択できるようになりました。例えば、乳がんでHER2遺伝子の強発現が認められる場合には、抗HER2療法を行います。以前はHER2が強発現している乳がんは予後が悪い乳がんとされていました。しかし、抗HER2療法の出現によりHER2陽性乳がんの治療成績は飛躍的に向上しています。

一方、HER2が強発現するがんは乳がんのほかにも、胃がん、肺がんなど多数ありますが、抗HER2療法の効果が証明されて保険で使用できるのは、乳がん以外では胃がんのみです。遺伝子パネル検査によりHER2の強発現が見つかれば、抗HER2療法が期待できるかもしれません。

わが国のがんゲノム医療の体制は?

2018年4月にがんゲノム医療中核拠点病院として11病院が指定され、同時にそのもとで連携して必要とする患者さんにゲノム医療を提供するがんゲノム医療連携病院を指定しました。2018年10月には当院もがんゲノム医療連携病院に指定されています。2019年4月の時点で、全国にはがんゲノム医療連携病院は156病院となりました。このうち34医療機関は2019年9月より、遺伝子パネル検査の医学的解釈を自施設で完結することができるがんゲノム医療拠点病院として指定されました(図1)。

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図1 がんゲノム医療中核拠点病院を中心に、がんゲノム医療拠点病院、がんゲノム医療連携病院と連携してがんゲノム医療を行います

がんゲノム医療を希望する患者さんは、がんゲノム医療中核拠点病院、がんゲノム医療拠点病院、がんゲノム医療連携病院を受診し、十分なインフォームドコンセントを経て遺伝子パネル検査を依頼します。検査結果はすべてがんゲノム情報管理センター(C-CAT)が受け取り、医学文献に基づいた情報、治験・臨床試験の情報が追加された上で、がんゲノム医療(中核)拠点病院に提供されます。がんゲノム医療(中核)拠点病院の専門家会議(エキスパートパネル)で検討し、遺伝子情報に基づいた最善の治療が提案されます。この会議には当院の主治医も参加し検討に加わります。最終結果を主治医から患者さんにお伝えします。

ただ、期待が高まるゲノム検査ですが問題点もあります。国立がん研究センター中央病院で行われた臨床試験(TOP-GEAR)では遺伝子パネル検査を用いることにより、遺伝子変異が分かる可能性は50%、その後の治療に結びつく可能性は10~15%でした(図2)。また、現時点では稀少がんと標準治療の終了した固形がんのみが保険承認されているため、その後の治療は未承認薬である可能性が高いので、今後は、これまで使用できなかったがん種に対しても、治験、患者申し出制度を利用して、必要な薬剤が届けられる体制を構築しています。

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図2 がんゲノム医療とは、がん組織から遺伝子情報を得て最善の治療を行うことです

大垣市民病院のがんゲノム医療の体制は?

当院は国が行っているがん登録事業の登録数が2018年度には2,602件と岐阜県内では最多です。したがって、医療圏のがん患者さんを守るために、がんゲノム医療時代の到来に備えて準備を進めてきました。2018年10月にがんゲノム医療連携病院に指定され、それに合わせて、ゲノム医療センターを開設しました。がんゲノム医療を行うためには病院の総合力が問われます。主治医のほかに、腫瘍(しゅよう)内科医、遺伝子に詳しい医師、病理医等、多数の医師が関わります。医師以外にも、検体処理に関わる部門(病理検査室、図3)、患者さんをサポートする部門(がんゲノムコーディネーター、がん相談支援センター)、遺伝性の変異が見つかった場合に備えて遺伝カウンセリングを行う部門(遺伝相談室)、がんゲノム医療中核拠点病院、検査センター、C-CAT、との情報伝達のシステムを管理する部門(医療情報部門)などの思いもかけない他部門との協同が必要です。

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図3 マイクロダイセクション/良好なDNAを抽出することができる病理検体を提出する必要があります

また、遺伝子パネル検査の結果に基づくすべての治療を当院で行えるわけではありません。しかし、当院ではこれらの治療を受けることができる施設を適切に紹介し、連携してその後の治療にあたっていきます。とはいえ、治療を受ける場所が遠方になるとすべての患者さんが治療を受けることはできません。今後の目標としては、1つでも多くの治療を当院で完結できる体制を整備していくことです。そのためには信頼性のある治験を行える体制、患者申し出制度を利用できる体制を構築していきたいと思っています。さらに、院内でエキスパートパネルを行える体制を整えていく予定です。これらの体制が揃えば、信頼性の高い遺伝子パネル検査を遠方の病院に行かずとも、大垣市民病院で得ることができます。

強さの秘訣は

「強さの秘訣」は多職種にわたるスタッフを確保できることです。そして、モチベーションの高いスタッフが協同して医療を行っています。たくさんのスタッフが必要ながんゲノム医療を行うためには、チーム医療は不可欠です。

更新:2024.01.26