胎児治療から新生児医療につながるよそではできない治療

大阪母子医療センター

産科

大阪府和泉市室堂町

先天性疾患(赤ちゃんの病気)の頻度と診断方法

どのお子さんも、何らかの生まれもっての病気(先天性疾患または胎児疾患といいます)の可能性が3〜5%あります。この頻度(ひんど)は、母親の年齢によって大きく変化しません。母親が高齢になると、胎児の染色体異常が増加することがクローズアップされていますが、染色体異常は先天性疾患のごく一部の原因でしかありません。また、35歳になると急激に増加するわけでもありません。先天性の病気の原因は(図1)、ほとんどが母親の年齢に関係ありません。

グラフ
図1 先天性疾患の原因

先天性の病気は、主に超音波検査で診断されます。超音波とは、音の中でも非常に高い振動数のもので、ヒトの耳では聞くことができません。超音波検査は、超音波をお腹(なか)から当てて赤ちゃんにぶつかったときの反射を利用することにより、見えない胎児を画面に可視化するものです。

日本では、妊婦健診のときに、毎回のように超音波検査が行われています。しかし、短時間の検査では胎児の病気を診断することは難しく、生死の確認や推定体重の計測しか行っていない、もしくは、サービスで行われています。

当センターは、毎回の超音波検査を行っていませんが、希望者に妊娠中期(妊娠18〜20週)と後期(妊娠26〜32週)に20〜30分かけて、先天性の病気がないか、じっくり観察しています。これは、ほかの病院にはない特徴の1つです。超音波検査で、すべての病気が分かるわけではありませんが、50〜80%の疾患を生まれる前に見つけることができます。後述する胎児治療の対象となる病気は、超音波検査により見つかり、診断が行われています。

胎児治療とは

胎児治療とは、文字通り、お腹の中の胎児(赤ちゃん)に対して行う治療です。しかし、胎児を直接みることも、触ることもできません。そのため、超音波装置ガイド下や胎児鏡を用いて、間接的に胎児をみながら行います。

胎児治療の対象となる病気は、胎児期に進行し、無治療だと救命が困難なものです。胎児治療によって、赤ちゃんのお腹の中で治ってしまう、もしくは、出生後スムーズな治療に結びつくことができるようになります。しかし、健康な母体にも侵襲(しんしゅう)(体への負担)が加わるため、どの病気にこの治療を行うかは慎重に決める必要があります。

胎児治療ができる施設は全国にあまりありません。当センターは胎児治療ができる、数少ない施設の1つです。実際に、当センターで行っている胎児治療の一部を紹介します。

胎児鏡下レーザー凝固術

胎児鏡を用いて、レーザー光線で胎盤の吻合(ふんごう)血管(2人の胎児の血管が胎盤の中でつながっていること)を凝固することで血液の移動をとめる治療法です。治療の対象になる主な病気は、妊娠26週未満の双胎間(そうたいかん)輸血症候群です。

双胎間輸血症候群(TTTS/Twin-twin transfusion syndrome)とは(図2)

TTTSは、双胎妊娠(ふたご)の中でも一絨毛膜(いちじゅうもうまく)双胎のみに起こる病態です。一絨毛膜双胎とは、1つの胎盤で2人の胎児を育てている双胎のことです。この場合、それぞれの胎児の血管が胎盤の中で複数つながっています(吻合血管)。複数の吻合血管を介して、お互いの血液が両方の胎児の間を行ったり来たりして流れています。このバランスが崩れ血液の移動が一方向に偏ったときにTTTSが発症します。一絨毛膜双胎の約10%に起こります。もし、妊娠の早い時期に起こり、無治療の場合は、救命が非常に困難になります。また、救命できても神経系の後遺症が起こることがあります。診断は超音波検査で行い、一絨毛膜性双胎で、かつ、羊水過多と羊水過少が同時に認められる場合にTTTSと診断されます。

イラスト
図2 双胎間輸血症候群の病態

治療の流れ

胎児鏡下レーザー凝固術(図3)の方法は、硬膜外麻酔をした後、母体のお腹の皮膚を約5㎜切開し、受血児(血液を過剰に受け取っている方の胎児)の羊水のスペースに金属の管(くだ)(トロッカー)を挿入します。トロッカーから胎児鏡を挿入し、胎盤表面の吻合血管をレーザー光線にて凝固します。すべての吻合血管を凝固した後に、羊水を除去して終了します。手術時間は30分〜2時間程度です。

写真・イラスト
図3 胎児鏡下レーザー凝固術

治療が成功した場合、妊娠が継続可能となり、胎児の救命率は改善し、神経学的後遺症は減少します。少なくとも1人の赤ちゃんを救える確率は95%です。2人の赤ちゃんを救える確率は75%です。出生後の赤ちゃんの神経系に後遺症が出る確率は約2〜6%です。

主な合併症(副作用)として、早産、子宮からの出血、吻合血管の遺残、技術的困難のため手術ができないなどがあります。また、術後に流産となることが約5%あります。

対象疾患が広がる胎児鏡下レーザー凝固術

胎児鏡下レーザー凝固術は、2012年から保険適用となり、一般的な治療法として認められました。また、健康保険の対象外ですが、妊娠26〜27週のTTTSや重症胎児発育不全を伴う一絨毛膜双胎にも胎児鏡下レーザー凝固術を行い、一定の治療効果があることが分かってきています。

胎児シャント留置術

胎児シャント留置術とは、細いチューブで胎児の体の中に溜(た)まった不要な水を、体の外に出す治療のことです。治療の対象になる主な病気は、胎児胸水や胎児水腫(すいしゅ)です。

胎児胸水、胎児水腫とは

胎児胸水はさまざまな原因により、胎児の胸に水分が貯留する病気です。胸部だけでなく、腹部(腹水)や皮下(皮下浮腫(ふしゅ))などの2か所以上で、水分が貯留した場合を胎児水腫といいます。胸水の貯留は肺や心臓を圧迫し、肺の発育を阻害したり、心臓への血液の戻りを阻害し心不全の原因になったりします。妊娠早期に起こり、無治療では胎児をほとんど救命できません。また、胎児期をなんとか乗り越えても、肺の圧迫による肺低形成(肺の発育不良)が起こり、現在の治療でも出生後の救命が困難な状態になります。胎児胸水や胎児水腫の発症は、胎児の生命が非常に危険な状態です。

治療の流れ

一定期間、胎児胸水の増減を観察します。自然に胸水が治る場合が約10〜20%あります。しかし、胸水が増悪する場合や持続的な肺の圧迫により、肺低形成が予測される場合には、局所麻酔下に胎児の胸に針を穿刺(せんし)して胸水を抜きます。これを胸水穿刺といいます。胸水穿刺により、胸水の性状が分かり、原因を推定することができる場合があります。また、一度の胸水穿刺により、状態が改善して治ることもあります。しかし、ほとんどの場合は、1週間以内に元の量に胸水がたまってきます。その場合は、胎児シャント留置術(胎児胸腔(きょうくう)-羊水腔シャント留置術、図4)の適応になります。

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図4 胎児シャント留置術

方法は、硬膜外麻酔や局所麻酔をした後、まず母体のお腹を通して胎児胸腔に1・6㎜のプラスチック製の管(外套(がいとう))を挿入します。次に、外套を通してシャントを胎児胸部に留置します。手術の時間は通常は30分〜1時間程度です。

治療が成功した場合、生存率は約80%、胎児水腫では約70%が期待できます。主な合併症(副作用)として、破水、早産、シャントチューブの脱落、技術的困難のため手術ができないなどがあります。

ラジオ波血流遮断術(RFA/radiofrequency ablation)

RFA(radiofrequency ablation/ラジオ波焼灼術)とは、母体腹壁から針を進めてラジオ波を流し血管の血流を遮断する治療法です。治療の対象になる主な病気は、妊娠26週未満の無心体(TRAP/twin reversed arterial perfusionsequence)です。

無心体とは、一絨毛膜双胎に由来する稀(まれ)な合併症の1つで、1つの胎盤に正常児と心臓機能のない無心体が発育したものです。正常児と無心体の間には胎盤の血管吻合があるため、正常児の心臓が余分に働き続けることで、無心体の発育が続くことがあります(このため正常児は「ポンプ児」と呼ばれます)。この状態が続くと、正常児は多尿による羊水過多や、過剰な心負荷による胎児心不全に陥ることがあり、正常児の生存率は50%未満といわれています。RFAにより、正常児の生存率は90%以上と報告されています。

臍帯穿刺・胎児輸血

臍帯(さいたい)穿刺とは、胎児の臍帯に細い針を穿刺して、胎児血液を採取することです。また、胎児貧血と診断された場合に、臍帯を通して輸血することを胎児輸血といいます。主な対象疾患は重度の胎児貧血で、その原因として血液型不適合妊娠、ウイルスによる胎児貧血、母胎間輸血症候群があります。

ここでは、血液型不適合妊娠による胎児貧血については解説します。通常、母体と胎児の血液は混ざり合うことがありません。しかし、何らかの拍子に血液型が違う胎児の血液が母体の体に混じってしまうことがあります。すると、母体に抗体(体に入った異物にくっつき破壊する)が作られます。この抗体が胎盤を通して胎児に入り、赤血球を壊し、胎児が貧血になってしまいます。これが、血液型不適合妊娠による胎児貧血のメカニズムです。重症の場合、胎児水腫になり亡くなることがあります。

血液型不適合の可能性がある場合、抗体量や超音波検査による中大脳動脈の血流速度を計測することにより、胎児貧血の可能性を定期的に調べます。そして、胎児貧血が疑われる場合には、臍帯穿刺によって貧血を診断し、重度の貧血が確認された場合は、胎児輸血を行います。胎児輸血により、生存率は90%以上と報告されています。

経胎盤抗不整脈治療

母体に不整脈を抑える薬を投与して、胎児の不整脈を止める治療です。主な対象疾患は頻脈(ひんみゃく)性不整脈です。頻脈性不整脈とは、胎児心拍数が正常上限である160回/分以上の場合をいいます。もし、胎児心拍数が180以上を持続する場合は、胎児水腫に進行して、出生前や生後すぐに亡くなることがあります。経(けい)胎盤抗不整脈薬投与により、約80%の胎児で頻脈性不整脈が消失したと報告されています。不整脈が治ることにより、早産や帝王切開を減らすことができ、より良い状態で出産が可能になります。ただし、健康な母体へ薬剤を投与するため副作用の出現には十分な注意が必要です。

子宮外胎盤循環下胎児治療(EXIT/Ex utero intrapartum treatment)

EXITとは帝王切開を行い、胎児の上半身だけを子宮外に露出し、腹部や下半身を子宮内に止めたままで、すなわち胎児は臍帯を通じて母体から酸素をもらっている状態で、気道を確保(例えば気管切開)し、その後に胎児を娩出させる手技のことをいいます(図5)。主な対象疾患は、胎児の気道閉鎖や頚部(けいぶ)腫瘍による気道の圧迫により、出生後直ちに呼吸ができない病気です。

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図5 EXIT風景(気道確保できたところ)

先天性の疾患(病気)はたくさんあります。実は、これらの疾患の中で胎児期に治療が可能な疾患はごくわずかです。しかし、これらの疾患は、今まで治療ができなかったため、胎児は出生前もしくは出生後しばらくして亡くなっていましたが、胎児治療によって、救命できるようになってきました(表)。当センターでは、新生児科、小児外科、小児循環器科、泌尿器科、麻酔科、集中治療部と連携して胎児治療を行っています。

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表 胎児治療の対象疾患、病態、治療法(下線は、当センターで行っている治療)

院外で検診・分娩を考えている妊婦さん向け精密超音波外来

当センターでは、センター以外で健診・分娩を考えている妊婦さんも、胎児精密超音波検査を受けることができます。
精密超音波検査とは、超音波診断装置を使用して、赤ちゃんの発育をみたり、羊水量を計測したりすること以外に、赤ちゃんの形態的な異常を発見することで、出生前後の管理・治療につなげることを目的とした検査です。もし、生まれてすぐに治療を必要とする病気がある場合は、生まれる前から万全の準備をして出産することができるので、生まれて調子が悪くなってから慌てて救急車で搬送される、という事態を避けることができます。
対象となる妊娠週数は、妊娠24~30週です。単胎で9600円です(自費診療になります)。
検査は予約制です。当センターの産科セミオープン登録施設を受診されている方は、担当医師を通して予約してください。もしくは、直接、当センターの患者支援センターで予約をとってください。

更新:2024.01.26