流産や早産を経験したことのある妊婦さんへ
大阪母子医療センター
産科
大阪府和泉市室堂町
流産と早産
新しい命は受精卵から始まり、子宮の中で成熟した赤ちゃんに育ってから、通常は妊娠37週以降に生まれてきます。それよりも早い時期に未熟な赤ちゃんが生まれてくることを早産といいます。また、赤ちゃんが子宮の外では生きていけない時期(妊娠22週未満)に子宮の中から出てきてしまうことや、子宮の中で心臓の動きが止まってしまうことを流産といいます。
流産や早産は決してめずらしいことではありません。妊娠した女性の6人に1人には流産が起こってしまいます。また、赤ちゃんの20人に1人は早産の時期に生まれてきます。流産や早産の原因はさまざまですが、原因によっては予防が可能な場合があります。当科では流早産予防外来を開設して、反復流早産(流産や早産を繰り返すこと)の予防治療を行っています。
流産の種類と不育症
流産は時期によって、早期流産(妊娠12週未満)と後期流産(妊娠12週以降)に分けられます。また、早期流産を初期流産ということや、妊娠中期(妊娠14週以降)の流産を中期流産ということもあります(図1)。
2回の連続した流産を反復流産、3回繰り返す流産を習慣流産といいます。不育症は反復流産・習慣流産に加えて、死産や新生児死亡を繰り返したために子どもを持てない場合を含んだ病名です。
流産の原因とリスク因子
早期流産の原因で最も多いのは受精卵の染色体異常です。受精卵の染色体異常の多くは、卵子もしくは精子の染色体数にずれが生じることによって起こります(図2)。卵子もしくは精子の染色体数のずれは、誰にでも偶然に起こり得ることですが、女性の年齢が高くなるにつれて起こりやすくなります。また、夫婦のどちらかに均衡型相互転座という染色体の特徴がある場合には、染色体異常による流産が起こりやすくなります。受精卵に染色体異常がなくても、胎児の病気のために流産となってしまうこともあります。
受精卵・胎児に原因がなければ、母体に早期流産の原因があるのではないかと疑います。母体の糖尿病、甲状腺の病気、膠原病(こうげんびょう)、血栓(けっせん)形成傾向、子宮筋腫(しきゅうきんしゅ)や子宮奇形があると流産が起こりやすくなることが知られています。また、たばこを吸うと流産率が上がります。しかし、抗リン脂質抗体症候群を除くと、これらの病気を持つ女性やたばこを吸う女性が必ずしも高い確率で流産してしまうわけではありません。抗リン脂質抗体症候群は、抗リン脂質抗体(細胞の膜をつくるリン脂質やリン脂質と結合する蛋白質(たんぱくしつ)に対する抗体)が流産や血栓症(血管の中で血が固まる病気)などを起こす病気です。不育症の検査を受けた女性の1割に抗リン脂質抗体を認めます。
後期流産、特に妊娠14週以降の中期流産の原因は自然早産の原因と重なるものが多くなります。
流産・不育症の検査
早期流産の検査としては、流産で出てきた絨毛(じゅうもう)(胎盤に育っていく組織)の病理検査を行い、追加治療が必要な絨毛性疾患ではないかどうかを確認します。一般的検査ではありませんが、当科では受精卵の染色体に異常がなかったかどうかを確認するために、絨毛を染色体検査に提出することができます。
不育症の検査としては、血液検査(糖尿病、甲状腺の病気、膠原病、抗リン脂質抗体症候群、血栓形成傾向に関する検査)と超音波検査(子宮筋腫・子宮奇形の検査)を行います。遺伝カウンセリングを行った上で、希望される場合には夫婦の染色体検査を行います(4%に均衡型相互転座がみつかります)。また、不育症の検査を行っても、6割の女性には異常が何もみつかりません。
反復流産の予防治療
以前の流産の原因が受精卵の染色体異常であった場合、基本的には反復流産の予防治療は必要ありません。夫婦の染色体に均衡型相互転座がみつかっている場合には、着床前検査を行い、染色体異常のない受精卵を選択することができます(専門施設へ紹介します)。しかし、着床前検査は体外受精を必要とし、経済的・身体的な負担がかかります。着床前検査を行わずに妊娠を重ねることが、赤ちゃんを授かる近道になることもあります。
糖尿病、甲状腺の病気や膠原病などの持病がある場合には、きちんと治療を行って、病状が安定している状態で妊娠することが一番の流産予防治療になります。禁煙をしておくことも大切です。一方、血栓形成傾向があるかどうかを調べる検査で異常値が出た場合に治療を行うべきかどうかは、専門家のあいだでも意見がわかれます。流産を予防する効果が証明されているのは抗リン脂質抗体症候群に対する治療だけですので、当科では検査値の異常のみで抗凝固治療(血を固まりにくくする治療)を行うことは勧めていません。抗リン脂質抗体症候群の妊婦さんは、無治療では9割に流産が起こってしまいますが、抗凝固治療を行うと高い割合で赤ちゃんを授かることができます。抗凝固治療はヘパリン自己注射と低用量アスピリン内服の併用を行います。子宮筋腫・子宮奇形に対する手術が、赤ちゃんを授かりやすくしてくれるかどうかは明らかになっていません。
不育症の検査で異常がみつからない場合には、原則として予防治療は必要ありません。治療を行わなくても次の妊娠で赤ちゃんを授かる可能性が十分にあります(図3)。治療を行わないことを不安に思う妊婦さんもいらっしゃいますが、その不安を解きほぐすことも流早産予防外来の務めです。
早産の種類と頻度
早産の種類には、陣痛や前期破水の後に起こる自然早産と、母児の健康のために治療として行う人工早産の2つがあります。早産の7割が自然早産、3割が人工早産にあたります(図4)。自然早産をしたことのある妊婦さんの16%は、再度自然早産をしてしまいます。流早産予防外来では、その予防に取り組んでいます。
自然早産の原因とリスク因子
自然早産の原因には子宮頸管(けいかん)機能不全、子宮内感染、子宮の過伸展、脱落膜の出血などが挙げられます。子宮頸管機能不全は子宮収縮を伴わずに子宮の出口が短くなったり、開いたりしている状態であり、子宮頸管の手術歴や子宮奇形のある妊婦さんに起こりやすいことが知られています。細菌性腟症(ちつしょう)(腟内の細菌バランスの乱れ)は子宮内感染のリスク因子です。子宮の過伸展は多胎妊娠や羊水過多に伴って起こります。卵膜の一部である脱落膜の出血が早産のきっかけになることがあるため、妊娠中に子宮出血を繰り返した妊婦さんには早産が多くなります。そのほかの早産リスク因子としては、早産の経験や妊娠間隔が短いこと、母体の栄養状態不良・喫煙・膀胱炎(ぼうこうえん)・歯周病・過重労働があげられます。
自然早産のリスク因子には生活習慣にかかわるものがあります。そこで、自然早産になりにくい生活を送ることが大切です。たばこを吸わないこと、カフェイン(コーヒー、紅茶、緑茶)を控えること、栄養をしっかり摂(と)って適度に体重を増やすこと、葉酸や不飽和脂肪酸を積極的に摂ること、歯科検診に行くこと、長時間の立ち仕事や夜勤を避けることをお勧めします。
反復自然早産予防の検査と治療
一般の妊婦健診に加えて、無症候性細菌尿と細菌性腟症の検査、こまめな子宮頸管長(子宮の出口の長さ)の計測(図5)を行っています。無症候性細菌尿を認めた場合には膀胱炎になる前に抗菌薬で治療します。また、細菌性腟症を認めた場合も抗菌薬で治療します。通常4㎝ほどの子宮頸管長が、妊娠6か月末までに2・5㎝未満に短縮する場合には子宮頸管縫縮術(子宮の出口をくくる手術)を行います。
これまでに子宮頸管機能不全による自然早産(もしくは中期流産)を繰り返している妊婦さんには、あらかじめ子宮頸管縫縮術を行うことがあります。
更新:2024.01.26