発育性股関節形成不全

大阪母子医療センター

整形外科

大阪府和泉市室堂町

見逃されやすい股関節脱臼

発育性股関節(こかんせつ)形成不全は、体質(遺伝的要因)やお母さんのお腹(なか)の中の胎位などに加え、生まれてからの生活様式などによって起こる股関節脱臼(だっきゅう)や股関節成長障害の総称です。ここでは、乳幼児の股関節脱臼を中心に話をします。

現在でも、乳幼児の股関節脱臼は1000人に1〜2人の割合で発生しますが、約50年前の10分の1に減少しています。このような中、2011〜2012年の2年間に全国の小児病院を中心とした乳幼児の股関節脱臼の調査が行われ、115人もの子どもに、歩き始めてから股関節脱臼が見つかったのです。このような現象はあまり見られなかったのですが、乳幼児健診で股関節脱臼が見逃されやすくなっていることが考えられ、乳幼児の股関節脱臼への関心が薄れていることと関連があるのかもしれません。

股関節脱臼を起こさないために

赤ちゃんは、4か月健診で股(また)の開きの左右差や固さをチェックしてもらいます。股の状態を診ることは、股関節脱臼を含めた発育性股関節形成不全を見極める1つの方法です。健診では医師が診て判断しますが、もし、家族が赤ちゃんの股の開きの左右差や固さに気づいているのであれば、医師にそのことを伝えることも大切です。

また、医師でなくても両親が気にしておくべきことがあります。「表」に日本整形外科学会・日本小児整形外科学会が薦める乳児股関節脱臼健診のチェック項目を記しています。この中には、赤ちゃんが女の子であること、赤ちゃんの家族や親戚に股関節の病気の人がいること、骨盤位(いわゆる逆子)で生まれたことなどの項目が挙げられています。これらは親であればすぐ分かると思いますので、該当するのであれば、健診時に医師に伝えたり、念のため小児整形外科医の診察を受けたりする方が良いでしょう。

表
表 乳児股関節脱臼健診のチェック項目
※表記は分かりやすく変更しています

乳幼児の股関節は生まれつき脱臼していることは少なく、その後の生活様式などが要因で脱臼が起こります。このため、赤ちゃんが股関節脱臼にならないようにするには、生まれてからの赤ちゃんの扱い方が重要となってきます。この扱い方についても、日本整形外科学会・日本小児整形外科学会から注意点を啓発する資料が出されています。資料には、赤ちゃんの両脚(りょうあし)はM字型を保つことが望ましいこと(脚まわりが緩やかな服装や、M字型をとれるような抱っこひもを使うこと、スリング抱っこひもは適さない)、抱っこは、両脚がM字型になるようなコアラ抱っこ(図1)が良いことなどが載っています。これらのことは、赤ちゃんの股関節が正常に発達していく上で大事なことですので、よく頭にとどめておいてください。

イラスト
図1 赤ちゃんの両脚のM字型とコアラ抱っこ

股関節脱臼が疑われた場合には

3〜4か月時の乳児健診で股関節脱臼が疑われた場合には、小児整形外科医がいる病院を紹介してもらってください。あわてる必要はありません。病院では、超音波検査と必要に応じたX線画像検査で、脱臼の有無や程度を確認します。もし、脱臼している場合には、多くは装具(リーメンビューゲル装具といいます、図2)を使って、外来通院で脱臼を元に戻す(整復するといいます)治療を行います。この装具は、M字型に赤ちゃんの両脚を保つことで、脱臼を整復し、その後の股関節の成長を促す働きがあります。装具は3〜4か月間装着することが多く、股関節が十分に成長するまで経過観察が必要となります。

写真
図2 リーメンビューゲル装具

乳児健診以後に股関節脱臼が見つかった場合には、できるだけ早めに小児整形外科医がいる病院を受診してください。成長してから脱臼を整復するには、多くの場合、入院治療が必要となります。その治療では牽引(けんいん)といって、両脚をいくつかの方向へ引っ張って股関節まわりを柔らかくして、脱臼を徐々に戻していく方法がとられます。入院期間は2か月前後になることが多く、脱臼が整復された後には、両脚をM字型にして胸の下から脚先までをギプスで2か月程度固定し、引き続きM字型の装具による固定となります。治療は半年前後かかることがほとんどです。乳児健診以後でも治療をしっかり行えば、脱臼を元に戻すことは可能です。

装具や牽引治療で脱臼を整復できなかった場合には、手術で脱臼を戻すしかありません。手術でしっかりと脱臼を戻せば、その後の股関節の成長を期待できますが、後遺症が残ってしまうこともあります。また、治療がさらに長期にわたることもあり、これはできる限り避けたい状況で、そうならない医療を目指す必要があります。このことから早期に乳幼児の股関節脱臼を見つけてあげることが大切です。

股関節脱臼が整復された後の診療

脱臼していた股関節は、整復がなされた後、すぐに正常な状態に戻るわけではありません。正常な股関節に比べて、成長の遅れが残っています。この成長の遅れが取り戻されていくかどうかを定期的にチェックしてもらう必要があり、大人の骨格になる青年期までしっかりと経過観察をしてもらわなければなりません。もし成長の遅れが取り戻せないことが予想される場合には、年齢に応じた、追加の治療が必要になることもあります。

ほとんどの股関節脱臼は、乳児期に見つけてあげれば、しっかりと治してあげることができます。そのため、健診を行う医師や子どもを診察する医師だけでなく、赤ちゃんの周りの人、特に両親や家族の股関節脱臼に対する意識が大切です。ここに書かれていることを参考にして、少しでも多くの人に股関節脱臼について知ってもらえればと思います。

更新:2022.08.08