脳腫瘍について

済生会吹田病院

脳神経外科

大阪府吹田市川園町

脳腫瘍の種類と症状について

頭蓋骨(ずがいこつ)の中に生じた腫瘍(しゅよう)を「脳腫瘍」と呼びます。脳腫瘍には進行の緩やかな良性腫瘍と、進行が早い悪性腫瘍があります。頭蓋骨の中には脳組織と脳組織を覆う膜(髄膜(ずいまく))があり、そのどちらからも腫瘍は発生します。脳組織や髄膜から生じた腫瘍を原発性脳腫瘍と呼びます。一方、肺がんなど、ほかの部分のがん細胞が脳へ転移してくることがあり転移性脳腫瘍と呼ばれます。原発性脳腫瘍は人口10万人あたり20人程度と報告されており、やや女性(55%)に多いです。脳腫瘍は小児に多い腫瘍から、高齢者に多い腫瘍までさまざまなタイプの腫瘍があります。

脳腫瘍の症状は、腫瘍が発生した部位によって異なります。手足の運動を司る領域に発生すれば麻痺(まひ)が現れます。ホルモンを分泌する下垂体に腫瘍が発生すれば、ホルモン分泌異常が生じます。腫瘍が大きくなって、脳組織を強く圧迫するようになると、頭痛、吐き気が強くなり、痙攣(けいれん)や意識障害が出現します。

脳腫瘍の治療について

脳腫瘍に対する治療法は、腫瘍の種類や場所によって異なってきます。手術による摘出だけでなく、抗腫瘍薬による化学療法や、放射線治療などを組み合わせて治療することもあります。当院では、ほとんどの脳腫瘍に対して治療が可能ですが、小児脳腫瘍は大学病院などへ紹介することがあります。続いて代表的な腫瘍例について紹介します。

髄膜腫

硬膜(髄膜の一つ)から生じた腫瘍です。ほとんどの髄膜腫(ずいまくしゅ)は良性腫瘍ですが、進行の早い悪性腫瘍もあります。脳腫瘍の中では、よくみられるタイプで脳腫瘍統計では第1位、脳腫瘍の約20%を占めています。女性に多い腫瘍で、腫瘍増大と女性ホルモンとの関係が認められています。脳組織から生じるわけではないので、小さなものであれば無症状なことが多いです。無症状であれば、治療をせずに定期的に検査をして様子をみます。しかし、脳組織を圧迫して麻痺や痙攣などの症状が出現した場合や、増大傾向で今後、症状を引き起こす可能性がある場合は治療を検討します。治療は、手術による摘出が基本ですが、手術で全摘出が不可能な場合は残った腫瘍に対して放射線治療を行うこともあります(図1、2)。

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図1 右後頭葉に生じた髄膜腫(矢印)。腫瘍は6cmと大きく、脳が強く圧迫され変形し、意識障害と麻痺をきたしていました
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図2 摘出術後。脳の圧排は解除され、もとの形に戻っています。意識清明となり、歩くこともできるようになりました

神経膠腫(グリオーマ)

脳神経細胞は神経膠細胞(しんけいこうさいぼう)(グリア)と呼ばれる細胞によって覆われています。神経膠細胞から生じた悪性腫瘍が神経膠腫(しんけいこうしゅ)です。脳実質内に生じるため、小さくても頭痛、麻痺、痙攣などの症状が出ます。悪性度によってグレード1~4に分けられます。グレード4は最も悪性で神経膠芽腫(しんけいこうがしゅ)(グリオブラストーマ)と呼ばれます。グリオーマは、手術だけで全摘出することは不可能です。手術で可能な範囲を摘出した後、化学療法や放射線照射を行います(図3)。中でも神経膠芽腫は進行が早く、完治に至る治療法が未だありません。手術、化学療法、放射線療法を組み合わせても平均余命が1年強です。

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図3 左図:左前頭葉に生じた神経膠芽腫。頭痛、失語症、痙攣発作のため受診しました。手術による摘出後、化学療法と放射線照射を行いました。右図:術後1か月の画像。腫瘍は小さくなりコントロールされています

当院では、手術用ナビゲーションと運動誘発電位などを用いて、なるべく術後の症状悪化を防ぎつつできる限り腫瘍を摘出後、摘出腔(てきしゅつくう)に抗腫瘍薬を留置しています。その後、化学療法と放射線照射を行います。現在、神経膠芽腫に対する腫瘍細胞の遺伝子解析を行い、治療法の研究が進められています。国立病院機構大阪医療センターを中心として「グリオーマにおける化学療法感受性の遺伝子指標の検索とそれに基づくテーラーメード治療法の開発研究」が行われており、当院も研究グループの一員として、患者さんから同意を得た上で、腫瘍検体の遺伝子解析を行っています。

転移性脳腫瘍

肺がん、乳がんなどのがん細胞が脳組織へ転移したものが転移性脳腫瘍です。発見されたときは脳内に多数の転移巣が存在していることも少なくありません。治療方針は、原発巣の状態、転移巣の大きさや部位、数などで個別に検討します。手術による摘出、化学療法、放射線照射を組み合わせて治療します。原発巣の治療も進める必要があります。

更新:2024.10.08