心不全について
済生会吹田病院
循環器内科
大阪府吹田市川園町
息切れは、年のせいだけではありません
心臓は全身に血液を送り出すポンプの働きをしています。心不全は、このポンプの働きに障害が生じた状態を指すものです。心臓を養っている血管が詰まって血液の流れがなくなり、心筋が死んでしまう心筋梗塞(しんきんこうそく)や、突然発症した不整脈などによって急激にポンプの働きが弱まり、短期間に悪化する急性心不全があります。一方、心筋症や高血圧、弁膜症などが原因で長年にわたって心不全症状を認める場合を慢性心不全といいます。慢性心不全は高血圧、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病との関連性が高く、生活習慣の欧米化に伴う虚血性心疾患(きょけつせいしんしっかん)の増加、高齢化による高血圧や弁膜症患者の増加といった、循環器疾患における疾病構造の変化は心不全患者さんの増加の大きな要因です。わが国では、65歳以上の老年人口割合の急増が予測されている中、2030年に心不全患者さんは130万に達すると推計されています。
心不全を発症すると、健康な人なら何でもない平地歩行など、ちょっとした動作でも動悸(どうき)や息切れがしたり、疲れやすくなる、さらには、咳(せき)や痰(たん)が止まらない、むくみが出るなどの症状がみられます(図)。
高齢者に多い心不全
冠動脈(かんどうみゃく)疾患は収縮機能障害の一般的な原因の1つです。心筋が正常に収縮するためには酸素が必要なため、冠動脈の血流量が減少すると、広範囲の心筋に損傷が生じます。冠動脈が閉塞(へいそく)することで、心筋が壊死(えし)する心筋梗塞が発生します。心臓弁膜症とは、心臓の弁の開口部が狭くなって心臓を通る血流が妨げられたり、血液が弁を逆流したりする病気ですが、この種の病気も心不全の原因になります。弁の狭窄(きょうさく)と血液の逆流は、どちらも心臓にとって大きな負担になりますので、次第に心臓が拡大していき、十分に収縮できなくなります。不整脈による心拍の変化(特に頻脈(ひんみゃく)などの不整脈)が長期にわたって起こることで、心不全が発生する場合もあります。心拍が異常になると、心臓は血液を十分に送り出せなくなります。高血圧と糖尿病の併発は高齢者に多く、これに加齢による心臓の壁の硬化が加わるため、心不全は特に高齢者でよくみられます。
心不全の診断方法として簡単な検査では胸部レントゲンがあります。また、超音波を利用した心臓の画像検査である心エコー検査は、心拍出量や心臓弁の働きなど、心機能を評価するのに最も優れた検査法の1つです。心不全の原因を究明するため、当院では核医学検査、CT検査、心臓カテーテル検査などを必要に応じて実施しています。拡張型心筋症のような心筋疾患、細菌やウイルスなどの感染症による心筋炎が疑われる場合は心筋生検で正確な診断をし、それに基づく治療を行っています。
治療は患者さん自身が主役
心不全の治療には、生活習慣の改善、心不全に対する薬の服用が必要です。心不全の治療薬には、利尿薬、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬、ベータ遮断薬、ジゴキシンなど、いくつかの種類の薬が使用されます。多くの場合、多剤併用となりますので、薬を一包化するなど飲み忘れを防ぐことが大事です。
喫煙は血管を傷つけ、大量のアルコールは心臓に直接悪影響を与えます。いずれも心不全を悪化させるため、禁煙および禁酒するようにします。塩分の多い食事は体液が貯留する原因になるため、塩分の過剰摂取は症状を悪化させます。心不全の人は、食塩や塩辛い食べものの摂取を控えた食事をとる必要があります。体に溜(た)まった体液の量を調べる簡単で信頼性の高い方法は、毎日体重を測ることです。1日当たり約1キログラム以上の体重増加は、体液の貯留を示す早期の警告です。
心不全の治療において安静にすることが重要と思われるかもしれませんが、心臓リハビリテーションといって、定期的に一定の運動を行うことにより心機能の改善が見込めます。当院では入院中や外来でも、専門の資格を持った心臓リハビリ指導士の監督の下で、安全に運動療法を行っています。このように、心不全治療は薬を服用する以外に自分自身の生活習慣を変えることがとても大事です。
更新:2022.03.08