形成外科分野での小児先天異常
済生会吹田病院
形成外科
大阪府吹田市川園町
はじめに
先天異常は先天的に生じた身体的異常で、形成外科は表在性形態異常が対象になります。手術により機能はもちろん、外観もできるだけ正常にすることをめざします。当科では、体表の変形など、整容面で悩んでいる本人や家族の心理的負担を軽減し、より良い生活を送ることができるように、最適な治療をすることを心掛けています。主に扱う小児先天異常は耳の異常、手足の異常、眼瞼(がんけん)の異常、体幹の異常などがあります。
耳の異常
耳介(じかい)(一般にいう耳のことです)は、胎生4週頃より20週にかけて形成されます。
耳の異常として、副耳(ふくじ)、耳瘻孔(じろうこう)、耳垂裂(じすいれつ)、埋没耳(まいぼつじ)などがあります。
- 副耳
- 生まれつきみられる耳の前や頬(ほお)にイボ状に突起したものです。大きさは、大小さまざまで皮膚のみの場合、軟骨を含むものなどがあります。発生頻度(ひんど)は約1.5%です。治療は摘出ですが、軟骨を摘出しないと変形が残ることがあります。
- 耳瘻孔
- 生まれつき耳の周囲に小さな穴が開いて、その下方に管があり、その管の先端は耳介軟骨で終わっているものをいいます。発生頻度は約3%です。時に嚢胞(のうほう)を形成し、化膿することがあります。治療は瘻孔の全摘です。
- 耳垂裂(図1)
- 生まれつき耳垂(耳たぶ)が割れている状態の耳介先天異常の一種です。この割れた状態は一定ではなく、耳垂下縁の軽度のくびれ程度から、単純に縦に割れた状態、2ないし4個の分葉状に割れている状態などさまざまです。
- 埋没耳(図2)
- 耳介の上半分が側頭部皮膚に埋もれ込んだ状態をいいます。指でつまんで引っ張り上げることができますが、指を離すと元に戻ります。発生頻度は約0.25%です。耳介上半が埋もれているとマスクのゴムや眼鏡などがかけられないため、学校での活動、学業に支障をきたします。治療は1歳未満では装具などを用いて矯正を行い、装具治療が奏功しなかった場合や、幼児期に初めて形成外科を受診された場合は、手術による治療を行います。
手足の異常
手足は、胎生4週頃より8週にかけて形成されます。手(足)は本来1枚の板状(しゃもじ型)をしており、次第に末梢より分離して個々の指(趾)が形成されます。
手足の異常として、多指症(たししょう)や合指症(ごうししょう)などがあります。
- 多指症(図3)
- 発生する頻度は、手では出生1000人に対して1~2人、足では出生2000人に対して1~2人程とされています。また、多指のみられる部位は、手では親指に多く、足では小指に多くみられ、それぞれ全体のおよそ90%を占めています。治療は手術によって余剰指(趾)を切除します。
- 合指症
- 隣り合う指の水かきの高さが正常よりわずかに高いものから、指先まで癒合しているものまで、さまざまな程度でみられます。癒合が皮膚・軟部組織のみの皮膚性合指、指の骨まで癒合する骨性合指に分けられます。発生する頻度は出生1000~3000人に対して1人とされています。手では中・環指間(第3~4指)、足では第2・3趾間の癒合が多く、男の子に多い傾向があります。治療は手術によって分離術を行います。
眼瞼の異常
眼瞼(まぶた)の異常として、先天性眼瞼下垂(がんけんかすい)や先天性内反症(ないはんしょう)(逆まつ毛)などがあります。
- 先天性眼瞼下垂
- 生まれつき上眼瞼(上まぶた)が下がっていて、十分に目が開けられない状態をいいます。先天性の場合、ほとんどが瞼(まぶた)を上げる筋肉(上眼瞼挙筋(じょうがんけんきょきん))の形成や発達の不良によるものです。眼瞼下垂が高度の場合、その目を使わないことや乱視を合併するために、視力の発達が遅れたり、両眼視機能の不良を伴う斜視を発症したりする場合があります。手術は主に、眼瞼挙筋を短縮する方法と、前頭筋(おでこの筋肉)を利用する眼瞼吊り上げ術があります。
- 先天性内反症(図4)
- 眼瞼の皮膚が生まれつき多すぎることが原因で、睫毛(まつ毛)が角膜(黒目)に触れ、涙目や目の充血を引き起こしたり、目にゴロゴロとした違和感が生じたりします。睫毛内反の程度と、角膜の状態で治療を選択します。幼少期で軽症なら、自然治癒を期待して経過観察を行います。それに対して、角膜の損傷がひどいときや痛みなどの症状が強いときには、手術治療を行います。
体幹の異常
体幹の異常として臍(さい)ヘルニア(図5)などがあります。生後間もなくへその緒が取れた後に、おへそが飛び出してくる状態です。
生まれて間もない時期にはまだ、おへその真下の筋肉が完全に閉じていないために、泣いたりいきんだりしてお腹(なか)に圧力が加わったときに、筋肉の隙間から腸が飛び出し、おへその飛び出し「でべそ」の状態となります。このヘルニアは、5~10人に1人の割合でみられ、生後3か月頃まで大きくなり、ひどくなる場合は直径が3㎝以上にもなることがあります。しかし、ほとんどのヘルニアはお腹の筋肉が発育してくる1歳頃までに自然に治ります。
ただ、1~2歳を越えてもヘルニアが残っている場合や、ヘルニアは治ったけれども皮膚がゆるんでしまって、おへそが飛び出したままになっているときには、手術によっておへそを形成します。
更新:2022.03.08