未破裂脳動脈瘤:くも膜下出血を予防しよう脳動脈瘤クリッピング術
札幌孝仁会記念病院
脳神経外科、福島孝徳脳腫瘍・頭蓋底センター
北海道札幌市西区宮の沢

脳動脈瘤とは?
脳動脈の一部が膨らみ血管壁が弱くなったものを脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう)といいます。成人の2〜5%程度で発生するとされ、動脈瘤が破裂するとくも膜下出血(まくかしゅっけつ)をきたします。破裂率は年間0.5〜1.0%とされていますが、動脈瘤の大きさや形態によって異なります。大きなもの、瘤が不整形、多発瘤などが破れやすいとされています。
くも膜下出血とは
動脈瘤の破裂によって発症する病気で、その症状は突然の激しい頭痛、嘔吐(おうと)、意識障害などです。日本人だと人口10万人に対し1年間に20人程度といわれています。くも膜下出血を発症すると、死亡するか重度の障害が残る重篤な状況に陥る人が半数以上で、予後(今後の症状について医学的な見通し)の厳しい病気です(図1)。

動脈瘤を見つけるためには
動脈瘤はほとんどの場合破裂しなければ無症状です。脳ドックや頭痛・めまいなどの症状で検査を受けた際の脳血管検査で見つけることができます。MRA(脳血管、特に脳動脈の形態を立体画像化する検査)を用いた脳血管検査は無侵襲(むしんしゅう)(体に負担のない)で高精度な脳血管検査ができます。最新のMRAでは1〜2mmの脳動脈瘤も鮮明に描出できます(図2)。

左:前交通動脈瘤 右:脳底動脈-上小脳動脈分枝部動脈瘤
くも膜下出血を防ぐためには
未破裂脳動脈瘤の場合、治療の適応は5~7mmとされています。ただし、①さまざまな症状が出る脳動脈瘤、②発生部位が後方循環や前交通動脈、内頸動脈から後交通動脈部が分岐する部位などに存在する動脈瘤、③ブレブ(不整形な突出)があるなど不規則な形のものなど、これら形態的特徴を持つ動脈瘤については破裂しやすいとされているため、5mm未満でも積極的な治療が考慮されます。治療法としては開頭術で行うクリッピング術とカテーテル(医療用の細い管)によるコイル塞栓術(そくせんじゅつ)があります。
クリッピングってなあに
脳動脈瘤クリッピング術は、脳神経外科で広く行われている手術手技の1つです。開頭して動脈瘤を直視下に、その頸部を専用のクリップを用いて閉鎖し、動脈瘤を根治(こんち)(完全に治すこと。治癒)する手術手技です。頸部を閉鎖して動脈瘤への血流を遮断することで正常な還流を温存し、破裂を防止することができます(図3)。

低侵襲なクリッピング術
未破裂脳動脈瘤の治療では、術後の早期社会復帰が必須です。そのためには患者さんの体に負担の少ない(低侵襲(ていしんしゅう)な)鍵穴手術による脳動脈瘤手術が非常に有効です。当院では、小さな皮膚切開と小開頭で脳にやさしい鍵穴手術手技によるクリッピンッグ手術を積極的に行っています。鍵穴手術には眉毛の上の3cm程度の皮膚切開で行うペルネツキー法、こめかみの辺りや額(ひたい)中央部の小開頭からアプローチする方法などがあります。
鍵穴手術の実際
代表的な鍵穴手術であるペルネツキー法の症例をみていきます。「図4」のような眉上3cm程度の皮膚切開で、開頭は「図5」の3D-CTで示した2×3cmの非常に小さな入口からアプローチします。この鍵穴から手術用顕微鏡を駆使して内部の展開を行うことにより、動脈瘤周囲の展開は従来の開頭と変わらないほど十分にでき、より安全なクリッピングに努めることが可能です。クリップ前後の動脈瘤の状態を「写真」に示しています。この術式は術中の脳への負荷が最小限で、術後の創(きず)の痛みも少なく回復も早いとされています。



更新:2025.02.06