硬膜動静脈瘻:眼科、耳鼻科領域の症状と関連する疾患 硬膜動静脈瘻(こうまくどうじょうみゃくろう)
札幌孝仁会記念病院
脳神経外科、脳卒中センター、脳血管内治療センター
北海道札幌市西区宮の沢

硬膜動静脈瘻とは?
頭蓋骨(ずがいこつ)の内側にある硬膜(こうまく)にできる病気です。心臓から勢いよく流れてきた血液は、毛細血管を通り脳に酸素や糖を供給し、低い圧力になって静脈に戻っていきます。静脈は、硬膜でできた静脈洞(じょうみゃくどう)という排水管の役目をする構造に連続します。家庭には、台所、風呂場、手洗い場など、蛇口がたくさんありますが、どこかの蛇口が壊れて、水が止まらなくなっているのが「瘻(ろう)」という状態で、シャントともいいます。
この状態で、排水管の流れが悪くなると、水があふれ出します。同じことが、硬膜にある静脈洞で起こるのが、硬膜動静脈瘻(こうまくどうじょうみゃくろう)(シャント)です。水の勢いや、あふれ出す場所によってさまざまな症状が出現します。

(片岡丈人 編集『脳血管内治療看護ポケットマニュアル 改訂第3版』、診断と治療社、2022年より引用)
片側の耳からの雑音は脳の病気かも
台所で、水道の蛇口が壊れて水が勢いよく出ているとします。台所にいれば、すぐに気づくでしょう。居間でも周りが静かなら気づくでしょう。あなたのいる場所が自分の左右どちらかの耳で、蛇口の壊れた場所が病気のできた部位です。耳に近い部位で、流れが強ければ音が大きくなります。
ただし、音のリズムが異なります。水道水は同じ勢いでザーという音になりますが、人間の場合、心臓から送り出される血液は心臓の拍動(脈)に合わせて、強弱があるので、心臓の拍動と同じリズムで、ザッ、ザッ、ザッや、シュッ、シュッ、シュッという音が聞こえてきます。専門的には血管性雑音と呼んでいます。この音は、聴診器でも聞くことができます。奥さんから音が聞こえると言っていたご主人もいて、「仲がいいんだな」と思ったことがあります。
この音が聞こえた場合は、硬膜動静脈瘻が、音の聞こえる左右どちらかの耳の近くにできている可能性があります。ただし、正常でも自分の心臓の音や、頸部(けいぶ)を流れる血液の音が響いて聞こえる場合もあります。
持続性のキーーン、シーーンや、音がこもった感じなどは、この病気ではありません。左右どちらかの耳から心臓の拍動と同じリズムで、ザッ、ザッ、ザッや、シュッ、シュッ、シュッという音が聞こえている場合は、脳神経外科を紹介してもらってください。
結膜の毛細血管拡張、眼球突出、物が二重に見えたら、脳の病気かも
では、水があふれ出した場合の症状はどうでしょうか。逆流する血管の領域によって症状が異なります。脳の血管に強い逆流が起こると、脳が腫(は)れてけいれんを起こしたり、脳出血を起こす場合がありますが、この場合は脳神経外科を直接受診する可能性が高いので、今回は説明を割愛します。
目の静脈は、海綿静脈洞(かいめんじょうみゃくどう)という目の奥の静脈洞に流れています。この海綿静脈洞に病気が起こると、結膜の毛細血管拡張(充血)、眼球突出、物が二重に見えるなどの症状が現れます。目の奥がうっ血している(血液の流れが悪くなり、とどこおってしまう)状態です。

(片岡丈人 編集『脳血管内治療看護ポケットマニュアル 改訂第3版』、診断と治療社、2022年より引用)
結膜の充血は、充血といっても、毛細血管が拡張した状態で、木の枝のようなギザギザした独特の感じです。両目にも起こりますが、左右差がある場合が多いです。目が腫れていてなんとなく症状が出ている場合もあります。
物が二重に見える場合は、眼球を動かす神経、特に眼球を外側に動かす神経が麻痺(まひ)している可能性があります。眼圧(眼球の硬さ)が上がると、視力障害が起こり失明する場合もあります。音に関しては、目の症状が強い場合、音が聞こえにくい傾向にあります。
硬膜動静脈瘻の治療法
治療は、水道を止めることです。しかし、当然ですが、全部止めるわけにはいきません。家の外にある元栓を閉じれば水は出なくなりますが、家の水道が全部止まってしまい、修理したとはいえません。
病気の治療も同じです。水道であれば、蛇口自体を新しいものに交換すればいいのですが、残念ながら同じことはできません。壊れた蛇口を塞(ふさ)いで流れを止めることになります。止め方は3つあります。
- カテーテル(医療用の細い管)を、動脈側からシャントがある場所のできるだけ近くに誘導し、セメントの代わりに液体塞栓物質(えきたいそくせんぶっしつ)を流して、塞ぎます。水道で例えると、壊れた蛇口のある水道管の中に、管を通して、管から水道管を詰めるセメントや接着剤を流します。壊れた箇所のできるだけ近くまで管を入れれば、ほかの水道を止めずに、壊れた箇所だけを止めることができます。
- 出口側から穴を塞ぐ方法です。この場合、人間であれば静脈側からカテーテルを進めて、コイルという動脈瘤(どうみゃくりゅう)の閉塞(へいそく)に使用する器具を詰め込んで流出を止めます。
- 部位によっては、外科手術で逆流する静脈をクリップで止める方法も行います。
流れの悪くなった排水管の流れをよくする治療も行います。カテーテル治療の方法が大きく進歩したので、液体塞栓物質、コイル、バルーン、ステントを組み合わせた治療を提供しています。
更新:2025.02.06