変形性膝関節症:体重を支える膝の痛み変形性膝関節症を治すには
札幌孝仁会記念病院
整形外科
北海道札幌市西区宮の沢

変形性膝関節症とは?
膝関節(しつかんせつ)は大腿骨(だいたいこつ)、脛骨(けいこつ)、膝蓋骨(しつがいこつ)で構成される人の体の中で最も大きな体重を支えている関節です。蝶番(ちょうつがい)のような動きをしていますが、実際には脛骨の関節の上を大腿骨が転がるように動いて曲げ伸ばしをしています。このような擦(す)られる動作の繰り返しに関節軟骨や半月板(はんげつばん)の経年変化が加わって、軟骨のすり減りや関節の変形が起こることを変形性膝関節症(へんけいせいしつかんせつしょう)といいます。
こんな症状が出たら受診を
変形性膝関節症ではO脚の変形が多く(図1)、膝の内側に痛みを生じます。また、半月板の損傷によって膝崩れ(膝が抜ける感じ)を起こしたり、関節に水が溜(た)まって腫(は)れたり、変形が進むことによって曲げ伸ばしの制限が起こり、しゃがみ動作や正座ができなくなります。このような症状が出たら、まずは診察が必要です。

受診をしたら、問診や触診で膝内側の圧痛の有無、関節の動きの範囲、腫れやO脚変形などの有無を調べ、X線検査で関節の隙間や骨の変形、骨棘(こつきょく)(骨のトゲ)の有無などを確認します。必要に応じてMRI検査などをして診断します。
保存療法と観血的療法の違い
治療法には保存療法(手術をせずに治療する方法)と観血的療法(手術をして治療する方法)があります。
保存療法
痛み止めの薬を飲んだり外用剤(湿布薬や塗り薬)を使うほか、炎症や痛みを軽減させる目的でヒアルロン酸を関節内に注入したりします。
運動療法で太ももの前の筋肉(大腿四頭筋(だいたいしとうきん))、後ろの筋肉(ハムストリング)、お尻の筋肉(殿筋(でんきん))の筋力訓練やストレッチをすることによって膝関節の安定化を図って痛みを軽減します。支柱付きのサポーターをつけたり、靴にインソールを入れて下肢(かし)の並びを調整して膝関節に掛かる荷重を正常に近づけたりします。
観血的療法
高位脛骨骨切(こういけいこつこつき)り術(じゅつ)と人工膝関節置換術(じんこうしつかんせつちかんじゅつ)に分かれます。まず、高位脛骨骨切り術は、O脚変形で膝関節の内側に偏ったストレスを、脛骨を骨切りして少し角度を変えることによって正常に近い外側に移動させる手術です(図2)。そのため膝関節の外側の経年変化が少なく、膝関節内の靱帯(じんたい)が正常な中等度までの患者さんが適応になります。

手術は、脛骨の近位部に切れ目を入れて内側を開大して矯正し、金属のプレートとスクリューで固定し、開大した部分には人工骨を挿入します(図3)。

自分の関節が残せるためスポーツ復帰や、体を使った作業に戻る患者さんが多くいます。
手術後1週間は体重をかけられません。1週間が過ぎてから体重をかけて歩行訓練を開始します。入院期間は4週間程度で、しっかりとした骨癒合まで半年くらいかかります。固定に使用したプレートとスクリューは1年から1年半後に抜去することをお勧めしています。
一方の人工膝関節置換術は、次の2つに分かれます。
人工膝関節全置換術は、膝関節全体のすり減りと変形が進んでいる患者さんに適応となります。傷んだ関節面を取り除いて金属でできた人工関節に入れ替えます(図4)。金属と骨との接着には骨用のセメントを使用し、膝蓋骨と脛骨の新しい関節面は耐久性に優れたポリエチレンを設置します。手術の翌日からリハビリテーションを開始し、痛みに応じて体重をかけての歩行訓練を行います。

単顆(たんか)人工膝関節置換術は、膝関節の内側や外側のすり減りでほかの部位の損傷が少ない場合、傷んだ箇所だけを人工関節に置き換える手術です(図5)。内側外側をすべて取り換える全置換術と比較して体への負担が少なく、膝関節内の靱帯が残るため自分の膝の感覚が生かせて良好に動かせます。

注意の必要な合併症
人工関節置換術の合併症の1つに感染があります。手術中に細菌が侵入したために発生したり、手術後に慢性の膀胱炎(ぼうこうえん)や歯槽膿漏(しそうのうろう)、巻き爪などによる皮膚の傷から血行性(※)に感染したりすることがあります。感染の頻度(ひんど)は1〜3%といわれており、感染が起こった場合には再手術が必要になることがあります。当院では感染予防のためにクリーンルーム(細菌を極力少なくした手術室)で手術を行っています。
もう1つ重要な合併症に肺血栓塞栓症(はいけっせんそくせんしょう)があります。「エコノミークラス症候群」とも呼ばれており、聞いたことがある方も多いと思います。これは下肢の静脈にできた血栓(血の塊(かたまり))が血流にのって肺の動脈を塞(ふさ)いでしまう病気です。大きな血栓が詰まってしまうと酸素と二酸化炭素の交換ができなくなり、胸の痛みや呼吸困難、ひどい場合には心臓が止まってしまうといった重篤な症状を引き起こす疾患です。
これを予防するために下肢に弾性ストッキングの着用や圧迫ポンプの装着をします。手術後は長時間ベッドに横になっていることがないよう早期からリハビリテーションを開始します。
これらの合併症が起こらないように最善を尽くして治療にあたっており、まずは安心して受診してもらえればと思います。
(※)血行性:血液の流れの中に入ること
更新:2025.02.06