膀胱がん:膀胱を残すために血尿に気づいたらすぐ受診を!

札幌孝仁会記念病院

泌尿器科

北海道札幌市西区宮の沢

膀胱がんとは?

膀胱(ぼうこう)は骨盤の中にある袋状の臓器で、尿を溜(た)め、ある程度の量になると体の外に出す働きがあります。膀胱の内側は尿路上皮という粘膜(ねんまく)で覆(おお)われており、膀胱がんはこの粘膜から発生します。初期症状のほとんどは痛みを伴わない血尿です。

膀胱がんの診断

血尿の患者さんが受診した場合、まず検尿を行います。純粋に血尿だけなのか、膿尿(のうにょう)(尿の白濁)、異形細胞は伴っていないのかを調べます。膀胱がんのなかには炎症を伴っているものがあり、最初に投与する抗生剤では改善せず、症状が繰り返される難治性濃尿と呼ばれるものもあります。

がんまたはポリープがある程度の大きさになると超音波(エコー)検査やCT検査でわかることもありますが、血の塊(かたまり)との区別が難しいこともあります。疑わしいときは膀胱内視鏡で確認し、小さいものは内視鏡で初めてわかることもあります。なかには尿中にがん細胞が確認されるのに、ポリープ状のものができない特殊なタイプもあり、組織検査で初めて確定されるケースもあります。

内科的治療と外科的治療

膀胱の壁は、内側から粘膜(尿路上皮)、粘膜下層(結合組織)、筋層、漿膜(しょうまく)からなっています。がんは内側の粘膜から発生しますが、どんなに大きくても根が浅ければ早期がんとなり(筋層非浸潤(きんそうひしんじゅん)がん)、進行がんとなる筋層にまで及んでいるか(筋層浸潤がん)が最も重要になります。

診断と治療法

がんが筋層のどこまで及んでいるのか画像で明らかなときもありますが、基本的にはまず治療と診断を兼ねて、尿道から内視鏡を膀胱内に入れ、電気メスで腫瘍(しゅよう)を切除します(経尿道的膀胱腫瘍切除術(けいにょうどうてきぼうこうしゅようせつじょじゅつ))。悪性なのか、尿路上皮由来なのか、悪性度や深さ(深達度:Tis〜T4、図1)、また切除のときに削り残しはないかを確認することもあります。膀胱を取ってしまえば完治することが多い病気ですが(膀胱全摘出術)、取ると尿を溜(た)める所がなくなるわけで、腸管で袋を作ったり、カテーテル(医療用の細い管)が入ったり、集尿袋(ウロバック)が必要になったりして、大きな手術による体の負担、生活の質の低下は避けられません。いかに膀胱を取らないで治療するか、取らないで自排尿(自分の体の力で排尿すること)の期間を長くするかがポイントになります。

図
図1 膀胱がんのタイプと深達度

早期がんでは、初発かつ単発(腫瘍が1つだけであり、初めての発症)で悪性度が低く浅い場合は再発率が低いため、内視鏡手術だけで経過をみることもあります。早期がん以外では膀胱内注入療法(膀胱内に抗がん剤を注入)を行い、再発予防治療を追加して再発率を下げます。中田泌尿器科病院では、2週間ごと計12回外来で行っています。一方、再発時や悪性度の強い場合、また上皮内(じょうひない)がんの場合には、BCG注入療法(病原性のない生きた結核菌を膀胱内に注入)を行うと、抗がん剤以上に効果があるといわれています。特に上皮内がんでは隆起性のポリープ状のものがないため、通常の切除手術では治すことができず、BCG注入が唯一の治療法となります。中田泌尿器科病院では週1回、計8回で行っています。

筋層浸潤がんの治療

深く筋層まで病変が及んでいる場合(筋層浸潤がん)は、内視鏡手術では治療しきれず、放置すると転移を起こしやすく、命にかかわる状態になります。高齢や余病などで膀胱全摘をできるだけ避けたい場合で、悪性度が強く再発率が高いときや、筋層に削り残しのある可能性が否定できないときは、再度同じところを切除して腫瘍の残存を確認し、治癒率を上げることもあります。

内視鏡で切除しきれないときは膀胱全摘出術が必要になり、畜尿・排尿ができなくなるため、新しい尿の通り道をつくる必要があります(尿路変更)。尿路変更には、以下の方法などがあります(図2)。

図
図2 尿路変更
  • 腸管を縫い合わせ袋状にする人工膀胱(尿道を残し尿道につなげる自排尿型新膀胱、皮膚に出す場合〈ストーマ〉)
  • 1本の腸管だけの回腸導管に尿管をつなぐ方法
  • 尿管を直接皮膚に出す尿管皮膚瘻(にょうかんひふろう)

現在は腹腔鏡(ふくくうきょう)やロボット支援下での手術技術も進み、合併症も少なくなっています。ただし、カテーテルや集尿袋、導尿が必要なため、高齢者では皮膚のケア(ストーマケア)が難しく、介助が必要なケースもあります。

かなり進行している、手術後の再発、転移がある場合は、化学療法(抗がん剤)や免疫チェックポイント阻害薬(免疫細胞によるがん細胞攻撃力を助ける薬)で治療します。しかし、高齢や余病のある患者さんでは難しいことも多いため、放射線治療を選択することがあります。合併症が少なくなるように治療法が改善され、高齢者でも安心して治療ができるようになってきています。また、全摘出術を希望しない場合は、放射線治療と抗がん剤の動脈内注入法を併用する温存療法により、膀胱を残すことが可能です。

早期発見には、症状が出る前に定期的に膀胱内視鏡を行うことが必要で、血尿で久しぶりに受診したときには進行がんでしたということもあります。一度でも血尿が出たときは躊躇せず、受診することをお勧めします。

更新:2024.07.29