寛骨臼形成不全・変形性股関節症：寛骨臼形成不全と変形性股関節症の最新治療

寛骨臼形成不全とは?

足の付け根が痛い病気の中に、寛骨臼形成不全(かんこつきゅうけいせいふぜん)があります。太ももの骨(大腿骨(だいたいこつ))の付け根の骨頭を覆(おお)う骨盤の屋根(寛骨臼)が小さいために股関節(こかんせつ)に無理がかかり、痛みが出ます(図1)。歩いているときや動き始めが痛く、日本人では主に20〜40歳代の女性にみられます。症状が進むと関節軟骨が削れ、長時間の歩行がつらくなり、痛みのために夜中に目が覚めることもあります。消炎鎮痛剤内服やリハビリをしますが、病期が進むと股関節の手術が必要となります。

寛骨臼形成不全の診断と保存治療・手術療法

X線検査で、股関節の被(かぶ)りが浅く足の筋力が落ちている場合は、リハビリで筋トレなどをします。軽い痛みでは、骨盤の横の筋肉(股(また)を開く筋肉)を鍛えます(図2)。やりすぎると痛みが強くなるので要注意です。鋭い痛みが出るときは、X線検査で股関節の変形や関節の隙間をチェックし、隙間が少なくなったり、骨に異常がある場合は手術療法を考慮します。

手術療法では、大腿骨頭の上にある寛骨臼の被さりが浅いので、くり抜いた寛骨臼を外側に回転して骨頭を覆い、後に吸収される特殊なスクリューで固定します(図3)。この手術を寛骨臼回転骨切(かんこつきゅうかいてんこつき)り術(じゅつ)といいます。この操作は出血の危険を伴うので、安全のために大腿骨の大転子(だいてんし)と呼ばれる骨をあらかじめ切り、骨盤外側の大きな筋肉を保護しながら骨切り部分がよく見えるようにして手術をします。

最近では、コンピューター上で理想的な回転角度を計測し、術前に3Dプリンターで作った患者さんの骨盤立体模型に合う立体ガイドを手術中に用いて、適切な寛骨臼の回転により理想的な股関節を作る技術を開発しています(図4)。「図5」は手術により、どのくらい関節が長持ちするかを示すグラフで、若い人ほど長年にわたって股関節の機能が維持されることがわかります。

変形性股関節症における人工股関節置換術

人工股関節置換術(じんこうこかんせつちかんじゅつ)(図6)は股関節が破壊され、股関節痛(こかんせつつう)に悩まされる患者さんに行います。痛みの原因となる変形した臼蓋(きゅうがい)と骨頭を削り、寛骨臼には金属カップとプラスチック(ポリエチレン)と、大腿骨にはセラミックの骨頭を付けた金属支柱をはめ込みます(金属は骨に自然と結合します)。この球形の骨頭とカップが合わさり、歩いても、運動しても痛くない股関節を作ることができ、何年にもわたって股関節が働くサポートをします。

当科では股関節周囲の筋肉や腱(けん)を切らずに行う、前側方アプローチによる最小侵襲(さいしょうしんしゅう)人工股関節置換術(MIS)を実施しています。さらにナビゲーション技術を用いて、より正確なカップの設置をしています。これにより、手術中の出血や術後の人工股関節の脱臼を防止でき、下肢神経麻痺(かししんけいまひ)やエコノミークラス症候群などの下肢静脈血栓症(かしじょうみゃくけっせんしょう)などの術後合併症を防いでいます。入院期間は約2週間で、ゴルフなどの軽いスポーツは6か月をめどに可能となります。

更新：2025.02.06