メタボリックシンドロームに関係する目の病気について教えてください
愛知医科大学病院
眼科
愛知県長久手市岩作雁又
メタボリックシンドロームと目は関係あるの?
メタボリックシンドロームとは、以前は成人病と呼ばれていたもので、腹囲、血圧、血糖値、中性脂肪が基準より高いと診断されます。これらは動脈硬化のリスクファクター(特定の疾病を発生させる確率を高めると考えられる要素のこと)であり、動脈硬化が進行すると、体中の血管が狭く、もろくなっていきます(図)。この血管の変化が、目の中の、特に光を感じる神経である網膜の血管に起こり、目の病気を発症します。よく耳にする糖尿病網膜症はその代表格ですが、ほかに網膜静脈閉塞症(へいそくしょう)などがあります(写真1)。
網膜の血管に動脈硬化が起こると、2つのことが共通して起こります。それは網膜血管の閉塞と血液成分の漏出です。血管が詰まって血が行き渡らなくなると、網膜は酸欠状態になり、機能低下が起こってきます。酸欠状態が長く続くと、少しでも補おうとして、新生血管が生えてきます。新生血管は異常血管なので、増殖性変化を起こし、網膜剥離(はくり)や緑内障になって、最悪は失明に至ります(写真2)。一方、漏出は網膜の浮腫(ふしゅ)(むくみ)を起こします。水撒(ま)きのホースを足で踏んづけていると、根元から破裂して水浸しになるのと同じようなことです。網膜がむくむと、物がぼやけたり、暗く見えるようになります。
メタボリックシンドロームは心筋梗塞(しんきんこうそく)や脳梗塞(のうこうそく)の危険因子として広く知られていますが、このように目にも重大な影響を及ぼします。
網膜静脈閉塞症と診断され、レーザー治療が必要と言われました。どんな治療ですか?
網膜静脈閉塞症へのレーザー治療の目的は大きく分けて2つあります。それは新生血管の抑制と網膜浮腫の改善です。
新生血管の抑制のためのレーザーは、その発生の引き金となる酸欠状態にある網膜細胞を間引いて、少ない酸素量に見合った網膜細胞の数に減らすことで、バランスをとるのが目的です。網膜細胞数が減ると感度は落ちるため、レーザーをすればするほど良いわけでなく、このレーザー治療には効果と視機能のバランスを考える必要があります。
もう1つの目的である網膜浮腫(写真3)の改善は、漏出が多い血管を見つけ、その血管のみを対象にして行います。この治療法はまだあまり一般的ではなく、当院が全国でも先導し臨床使用を進めているものです。適切に行えば効果は劇的です。
レーザー治療は決して低侵襲(ていしんしゅう)(体への負担が少ない)とはいえませんが、適切な時期に受けないと時期を逸してしまう可能性がありますので、主治医から十分説明を聞いてください。
30年来の糖尿病網膜症があり、目に注射が必要と言われました。怖いですが、どのような治療ですか?
近年、眼科領域で増えてきた抗VEGF薬の注射です。
VEGF(血管内皮増殖因子)とは、糖尿病網膜症や静脈閉塞症で網膜の血管が狭くなり、血流が不足してくると網膜から産生される物質です。この物質が眼内に増えると、網膜血管の構造が変化し、血管からの漏出が増えてきます。そうなると網膜内に水が溜(た)まり、視力低下を引き起こします。抗VEGF薬は、このVEGFの働きを抑えることで、むくみを抑えます。
同様の治療はレーザーでも行えますが、抗VEGF薬による治療は、より低侵襲で効果が早いです。しかし、1、2か月すると薬の効果が切れてしまうことや、薬が高価であるというデメリットがあります。したがって実際は、病状をしっかり評価し、レーザーと抗VEGF薬で適切な方を選択し使用することとなります。主治医とよく相談して決めることが大切です。
動脈硬化が原因の疾患を専門に治療
前述のようにメタボリックシンドロームと目の疾患は密接に関係しており、定期的な眼科診察は欠かせません。
治療法には手術もありますが、外来での治療のメインはレーザーと抗VEGF薬の注射です。当院は、このような動脈硬化が原因の疾患の治療を専門に行っている全国的にも数少ない施設です。その治療法は、確実かつ低侵襲なものを選択できるように詳細な検討を行っています。
更新:2022.03.14