耳・鼻・咽喉頭(のど)の疾患

いわき市医療センター

耳鼻咽喉科

福島県いわき市内郷御厩町久世原

耳鼻咽喉科の診療の特徴

耳鼻咽喉(いんこう)科は診療科名のごとく耳・鼻・咽喉頭(のど)の疾患の診療を行う科で、炎症、腫瘍(しゅよう)、外傷、異物など幅広い疾患に対応しています。特に耳鼻咽喉科で手術を行う腫瘍性の疾患は頭頸部(とうけいぶ)腫瘍と総称されるため、現在では耳鼻咽喉科は耳鼻咽喉頭頸部外科と呼ばれることもあります。

当科は広大な診療圏の患者さんへの対応が必要なため、特定の疾患に特化した診療ではなく、耳鼻咽喉科全般について近隣の医療機関から紹介を受け、診療を行っています。具体的には難聴、耳性めまい、中耳疾患(真珠種性中耳炎(しんじゅしゅせいちゅうじえん)・滲出性(しんしゅつせい)中耳炎など)、顔面神経麻痺(まひ)、副鼻腔炎(ふくびくうえん)、アレルギー性鼻炎、声帯ポリープ、唾液腺腫瘍、甲状腺腫瘍、扁桃炎(へんとうえん)などの良性の病気から、のどのがん(喉頭がん、咽頭がん)、口のがん(舌(ぜつ)がんなど)、鼻のがん、唾液腺がんといった悪性の病気まで、さまざまな耳鼻咽喉科疾患について紹介を受けた患者さんの診療を行っています。また、疾患の多様性とあいまって、患者さんの年齢層も幅広く、出生まもない新生児から100歳近くの患者さんまで診療を行っており、小児の患者さんの割合は小児専門科(小児内科や小児外科など)以外では耳鼻咽喉科が特に高い割合を占めています。

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写真1 当院では、耳鼻咽喉科外来は歯科口腔外科とともに「G外来」になりました。G外来は2階になります
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写真2 当科の外来待合室。診察時に受付番号を表示するモニターが設置されています
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写真3 診察時に患者さんの受付番号が表示されるモニター。診察前に検査がある方は、ご案内のため診察室内に呼ばれることがあります
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写真4 当科の診察室内。病院は新しくなりましたが、当科診療の器具・機械はほぼすべて旧病院からのものです。最新の設備はありませんが、器具・機械を大切に使っています

さまざまな耳鼻咽喉科疾患の診療

当科で行っている耳鼻咽喉科疾患の診療について説明します。なお診療内容については、時代の経過や赴任医師の専門分野によって変更することもあります。

(1)中耳疾患

耳は、外側から外耳・中耳・内耳の3つの部位に分類されます。中耳は鼓膜の奥にあって鼓膜と頭の骨の壁で囲まれている小さな部屋のような空間です。特に小児の患者さんに多いのが「中耳炎」ですが、「中耳炎」は大きく分けて「急性中耳炎」と「滲出性中耳炎」に分けられます。

「中耳炎」というと、耳が痛くなったり、熱が出たり、耳だれが出てきたりしますが、これは「中耳炎」の中でも「急性中耳炎」と呼ばれるものです。「急性中耳炎」は風邪をひいたときに、のどや鼻汁の細菌やウイルスが中耳に感染して起きます。この急性中耳炎を6か月で3回以上、または1年に4回以上繰り返した場合は「反復性中耳炎」と呼ばれます。

急性中耳炎は軽症のものであれば自然に治癒することもあり、軽症例については痛み止めで数日経過をみることがあります。しかし、経過をみても改善がない場合や、症状が強い中等症以上の急性中耳炎の場合には抗菌薬の内服や点滴での治療、外科的な処置として鼓膜の切開を行って中耳に溜(た)まっている膿(うみ)を出します。急性中耳炎が重症化して鼓膜の腫(は)れが強くなってくると、やがて鼓膜が破れて耳だれが出てきますが、鼓膜切開は鼓膜が破れる前に鼓膜に小さな切れ目を入れて膿を出してあげる処置です。急性中耳炎は鼓膜切開を行って膿を出すことで痛みや発熱が速やかに改善することが多くあります。その後、耳だれが収まるのに数日から1週間程度かかりますが、切開を行うことで内服治療のみの場合よりも中耳の膿や貯留液は消失しやすくなります。なお、急性中耳炎が悪化して鼓膜が破れてしまった場合や、鼓膜切開を行った後の鼓膜の穴は自然と閉鎖することが多いですが、まれに鼓膜に穴が残ってしまうことがあります。

反復性中耳炎となった場合には、鼓膜切開を行った鼓膜に鼓膜換気チューブを留置します。鼓膜換気チューブは非常に小さなチューブで、鼓膜切開を行った鼓膜の切れ目に差し込んで留置します。鼓膜換気チューブを留置することで常に中耳が換気されて乾くため、細菌やウイルスが中耳に感染しにくい環境を作ってあげることができ、急性中耳炎になりにくくなります。

一方で、「滲出性中耳炎」と呼ばれる「中耳炎」もあります。「滲出性中耳炎」は中耳に滲出液と呼ばれる液体が溜まった状態です。痛みや発熱はありませんが、水が詰まったような聞こえにくさを感じることがあります。中耳に溜まった滲出液を排出する機能が弱い小児や高齢者に多くみられ、「急性中耳炎」の後に中耳に滲出液が残って起こることも多いです。滲出性中耳炎の治療でも内服加療や鼓膜切開を行いますが、滲出性中耳炎も反復する場合には鼓膜換気チューブの留置を行います。

急性中耳炎で鼓膜が破れたときや、鼓膜切開、鼓膜換気チューブの留置で鼓膜に穿孔(せんこう)が残った場合には、穿孔の大きさ、場所により最適なアプローチで手術を行います。当科では接着法と呼ばれる鼓膜形成術や、耳内・耳後切開を用いた鼓室形成術という手術を行っています。

このほかに、真珠腫と呼ばれるものが中耳にできて耳の周囲の骨を破壊してしまう「真珠腫性中耳炎」もあります。「真珠腫性中耳炎」に対しては、鼓室形成術を行い、真珠腫の除去や音を伝える耳小骨(じしょうこつ)と呼ばれる構造の再建(伝音再建)を実施します。真珠腫は鼻すすりのくせが原因で生じることがありますので鼻すすりには注意が必要です。

(2)難聴

新生児聴覚スクリーニングの普及により、小児難聴が早期から発見されることが多くなりました。新生児聴覚スクリーニングで要再検(refer)となった方は「新生児聴覚スクリーニング後の精密聴力検査機関」での聴力の評価が必要ですが、当院は精密聴力検査機関ではありません。新生児聴覚スクリーニング後の精密聴力検査機関は日本耳鼻咽喉科学会のホームページにて公開されており、2018年12月現在の福島県内の精密聴力検査機関は、①福島県総合療育センター言語聴覚部門(郡山市)、②星総合病院耳鼻いんこう科(郡山市)、③福島県立医科大学附属病院・耳鼻咽喉科頭頸部外科(福島市)の3施設のみです。そのため、当院でも新生児聴覚スクリーニングで要再検(refer)となった方には、精密聴力検査機関に紹介して聴力の評価を実施し、その後の療育を行ってもらいます。

また、当科では条件詮索反応聴力検査、遊戯聴力検査といった、詳細な小児の聴力検査を行うこともできないため、小児難聴患者さんの補聴器の装用や調整についても、郡山市の福島県療育センターへ紹介しています。

成人の急性感音難聴に対しては当院でも加療を行っており、入院でのステロイド治療を実施することがあります。老人性難聴など、慢性的な疾患であれば、さまざまな聴力検査を行い、補聴の必要があれば近隣の補聴器店を紹介し、補聴器フィッティングをお願いしています。

(3)めまい

めまいの原因は多岐にわたるため、当科の単独では診断がつかないこともあります。難聴に伴うめまいや良性発作性頭位めまい症などの耳の奥にある半規管(半規管は片側3つあるので一般的には「三半規管」とも呼ばれています)の異常によるめまいが耳鼻咽喉科で診察を行うめまいです。このほかにも、①中枢性めまい(脳の病気によるめまい。脳神経外科や神経内科での診療になります)、②不整脈や起立性低血圧(たちくらみ)などの循環動態異常によるめまい(心臓の病気によるめまい。内科での診療になります)、③頸椎性(けいついせい)めまい(首を痛めた後などに続くめまい。整形外科での診療になります)などもあり、④心因性めまい(疲れやストレスによる精神的なめまい感。心療内科や精神科での診療になります)も近年多くなっています。

耳鼻咽喉科で診療を行うめまいが生命にかかわることはまれです。しかし、中枢性めまいや不整脈によるめまいは生命にかかわることもあります。心配な方は耳鼻咽喉科だけではなく、近くの耳鼻咽喉科以外のクリニックや医院での相談をお勧めします。

(4)顔面神経麻痺

顔を動かす神経を顔面神経と呼びます。顔面神経は、耳の奥の方から耳の下の耳下腺(じかせん)の中を通過して顔面の表面に分布しています。そのため、耳の周囲の診察を行う耳鼻咽喉科では末梢性顔面神経麻痺(脳疾患が原因ではない顔面の麻痺)の診断・治療を行っています。その原因にはヘルペスウイルス(単純ヘルペスウイルス、帯状疱疹(たいじょうほうしん)ウイルス)が関連しているといわれており、ステロイドや抗ウイルス薬による治療を行います。なお、脳に原因がある顔面麻痺は中枢性顔面神経麻痺と呼ばれ、脳神経外科や神経内科での診療になります。

(5)扁桃炎、いびき

当科では小児の睡眠時無呼吸に対する口蓋(こうがい)扁桃摘出、アデノイド切除といった手術治療を行っています。小児の睡眠時無呼吸・いびきの原因として、口蓋扁桃肥大やアデノイド増殖による気道の狭小化が関与していることがあります。睡眠時の呼吸状況の評価ではアプノモニターという機械を貸し出して自宅で寝ている間に装着してもらい、睡眠時の無呼吸の回数や酸素飽和度の測定を行うことができます。しかし小児の場合、寝ている間に無意識に機械を外してしまうことがあるため、正確な呼吸状態の評価が難しいときがあります。無呼吸症状がひどいときには「陥没呼吸」(肋骨の間、みぞおちが息を吸うときにへこむ)がみられますので、アプノモニターでの評価が難しいときには陥没呼吸がないかどうかを調べるために、自宅での睡眠時の動画撮影をお願いすることもあります。

また、成人の反復性扁桃炎、IgA腎症(じんしょう)などの扁桃病巣感染症といった疾患に対しても、口蓋扁桃摘出術を行っています。当院での手術を希望の方は、近くの耳鼻咽喉科などを通じて紹介をご検討ください。

(6)鼻・副鼻腔炎

慢性副鼻腔炎(一般的に「蓄膿症(ちくのうしょう)」とも呼ばれています)に対して、薬物治療が無効な場合には内視鏡下鼻副鼻腔手術(ESS)を行います。またアレルギー体質が原因で生じる難治性の好酸球性副鼻腔炎に対しては、内視鏡下鼻副鼻腔手術(ESS)と薬物治療を組み合わせて行い、生活の質の向上を目指します。なお、好酸球性副鼻腔炎は気管支喘息(きかんしぜんそく)の方に多くみられますが、気管支喘息の治療も非常に重要です。当科では近くの内科での治療も積極的に推奨しています。

そのほかにも当科では、アレルギー性鼻炎に対する鼻粘膜焼灼術(しょうしゃくじゅつ)や下鼻甲介(かびこうかい)切除術、鼻中隔弯曲に対する鼻中隔矯正術なども行っています。

(7)喉頭疾患(音声障害)

嗄声(させい)(声枯れ)の原因には声帯ポリープ、結節、嚢胞(のうほう)などがあり、良性のものと判断された場合、当科では喉頭直達鏡を用いたラリンゴマイクロサージェリーと呼ばれる切除手術を行うことがあります。

(8)頭頸部がん(悪性腫瘍)

耳鼻咽喉科で診療を行う悪性腫瘍(がん)は頭頸部がんと総称されます。頭頸部がんの治療については、東北大学病院、宮城県立がんセンターなどの頭頸部がん治療を専門とする病院と連携して加療にあたっています。手術や化学療法による治療、またこれらの治療に放射線治療を併用する場合などは専門病院を紹介し、治療後は当院に通院しながら定期的に専門病院にも通院してもらうなど、専門病院と綿密な連携をとって診療を行っています。

(9)唾液腺疾患

耳鼻咽喉科では唾液を分泌する器官である唾液腺(耳下腺、顎下腺(がっかせん)、舌下腺(ぜっかせん))の診療も行っています。唾液の流出経路に石ができる唾石症(だせきしょう)では、口腔内(こうくうない)から唾石の摘出ができない場合には顎下腺摘出術などの手術を行い、また唾液腺の良性腫瘍については顎下腺摘出手術や耳下腺切除術を実施することがあります。

更新:2024.01.26