臨床研究センターの役割 地域から世界へ、世界から地域へーがん臨床研究への取り組み

四国がんセンター

臨床研究センター 呼吸器内科

愛媛県松山市南梅本町甲

新薬、新規医療技術が日々登場しています

近年、がん治療の方法は大きく変わってきています。手術の領域では内視鏡手術や、ロボット手術をはじめとする小さな切開で行う体腔鏡手術(たいくうきょうしゅじゅつ)、粒子線治療や定位放射線(ピンポイント照射)治療、そして薬物療法の領域でも目覚ましい進歩が起きています。その結果、各がんの治療成績も大きく改善してきました。中でもがんの薬物療法では、分子標的薬と免疫チェックポイント阻害薬の登場により、2000年頃と比べると、抗がん剤治療の適応となるステージの非小細胞肺がんでは、予後が2倍以上まで向上しています。

従来は臓器ごとにがんを分類し、治療に使う抗がん剤を決めていましたが、今では特定のがん遺伝子の変化を解析し、効果的な分子標的薬を選択することも行われています。これをさらに推し進め、網羅的にがん遺伝子変異を検索し、治療薬を選択する医療をゲノム医療あるいはプレシジョン・メディシン(精密医療)といいます。私たちは、その先がけとして行われたSCRUM-Japanという消化器がんや、肺がんを対象とした全国的なプロジェクトに主要施設として参加しました。

一方、免疫チェックポイント阻害薬はがん治療に対する考え方を大きく変える新薬として注目を浴びています。従来の抗がん剤治療で効果の乏しかった悪性黒色腫(あくせいこくしょくしゅ)をはじめ、肺がんや胃がん、腎(じん)がんなど、さまざまながん種の一部で効果が確認されるようになりつつあります。

こういったプレシジョン・メディシンや免疫チェックポイント阻害薬をはじめとするがんの新しい治療は、医学研究に基づいて生まれてくるものです。

治験と臨床試験

新しい薬剤や治療法をがん患者さんへお届けすることの一翼を担うことは、がん専門病院としての重要な役割と考えています。そのためには日々の研究の積み重ねが大切です。国立病院機構内には、臨床研究を行う拠点として「臨床研究センター」が全国142病院の中で10病院に設けられています。当院は、中国四国地域では唯一の臨床研究センターを併設しています。

当院の臨床研究センターには、臨床研究推進部、がん診断・治療開発部、がん予防・疫学研究部の3部門があります。それぞれの部門では、新しい治療薬・治療法・治療機器の開発、がんにかかりやすい患者さんの調査・対策、がん医療の実態調査研究などを行っており、質の高い情報を国内外に発信しています。

その中で、新しい治療法を開発するためには、実際の患者さんで効果や安全性などを確認する必要がありますが、その研究のことを「臨床試験」といいます。新薬の開発に際して義務づけられる治験も臨床試験の1つです。臨床試験は、科学的であること、患者さんが大きな不利益を被らないこと、法律に則って行うことが求められています。

フローチャート
図 臨床試験の進め方と目的
※実際には、開発状況に応じて試験の進め方や実施目的は試験毎に異なります

一方で、直接研究に携わる研究者や薬剤を開発する製薬企業の方には、「より良い結果を出したい」という思いがありますので、試験方法や結果の解釈にゆがみが生じる恐れがあります。それらを防ぐために、院内の職員や外部の有識者3人からなる「倫理審査委員会」を院内に設置し、本委員会で、試験開始前に試験計画書の手順・内容に問題がないか、試験実施中に発生する副作用の頻度(ひんど)や重篤なものが起こっていないか、研究の手順を守っているか、研究の進行状況などを厳しくチェックしながら試験を実施しています。

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写真1 研究室の光景

また、臨床試験に参加する患者さんは、先生から臨床試験の話を聞き、不安になったり、内容が複雑で分かりにくかったりすることがあります。そのため、臨床試験を実施する病院には、臨床試験に参加する患者さんをサポートする臨床試験コーディネーター(CRC)が在籍しています。当院にも12人のCRCが在籍し、治験参加中の患者さんのサポートや、患者さんの困りごとなどに対応しています。

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写真2 臨床試験支援室のメンバー

世界最先端の治療を目指して

がん治療は日進月歩です。治験への参加により、現在の治療成績を上回る治療を受けることができる可能性があります。したがって、がん患者さんの関心は高いものがあります。そのため、当院の臨床研究センターでは、治験を安全に行える体制の整備や、スタッフ教育に力を注いできました。その結果、国内でも有数のがんに関する治験実施数を誇る病院として知られています。そして、患者さんは治験に参加することで、この愛媛の地で世界最先端の治療を受けることが可能かもしれません。

医療の進歩は、まだ治療効果を実証されていない治療法の臨床試験に参加してくださった皆さんに支えられています。臨床研究センターでは、より良い医療が行えるよう日々奮闘しています。

更新:2024.01.25