乳がんと闘う 最先端の機器、充実したスタッフで最良の医療を

四国がんセンター

乳腺外科 遺伝性がん診療科

愛媛県松山市南梅本町甲

乳がん検診と乳がんの早期診断

「生活習慣と乳がん」で述べたように、生活習慣を改善することで、乳がんにかかりにくくすることはある程度できますが、絶対に乳がんにかからなくする方法はありません。そこで、次に重要なのは乳がん検診を受け、乳がんを早期に見つけて治すことです。現在行われている乳がん検診は、40歳からの2年に1回のマンモグラフィ検診です。

ただし、高濃度乳房(デンスブレスト)の方は、マンモグラフィ検診では乳がんの早期発見が困難なことが分かっています。早期発見には超音波検査が有効といわれていますが、残念ながら全国的に超音波検査を乳がん検診に導入できるだけのマンパワーがなく、また超音波検診の有効性もまだ十分には示されていないため、まだ実現できていません。

当院では、乳がんの早期発見をするための手技や必要な機械をそろえています。特に、マンモグラフィでしか見えない異常な部分を針で採取して、顕微鏡検査する方法(針生検)のうちで、最も日本で普及している方法(ステレオガイド下吸引式乳房組織生検、写真1)を全国で最初に実用化させたのは、当院です。また、MRIでしか見えない病変の針生検も可能です。どのような異常であっても、当院では的確な診断を追求します。検診などで何らかの乳房の異常を指摘された方は、ぜひ検査を受けてください。

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写真1 ステレオガイド下吸引式乳房組織生検の様子

乳がんの治療

当院は、乳がんの専門家(乳腺専門医)が7人常勤で勤務している、全国的にも珍しい病院です。このうちの1人はがんの薬物療法の専門家(がん薬物療法専門医)であり、さらに1人はがんの遺伝の専門家(臨床遺伝専門医)です。このような体制で乳がんの診療を行っている病院は全国的にもほとんどありません。

当院の乳がん診療は全国、ひいては世界に誇れるレベルにあると自負しています。

手術

乳がんの手術は、現在も乳がん治療の根幹に位置しています。ただ、以前と比べて、ずいぶん小さな手術になってきました。以前は、乳がん患者さんのほぼ全員に乳房切除術を行っていましたが、現在では、がんのところだけをくり抜いて乳房を残し、放射線治療を追加する乳房温存療法が主流です

ただし、状況的に乳房を残すのが難しい場合や、乳房温存療法でほぼ必須の放射線治療を嫌う患者さんは、今も乳房切除術を受けています。乳房切除術を受けると、美容的にかなりつらい状態になりますが、乳房再建術を行うことで、かなりきれいになります。乳房再建術は形成外科が担当する手術です。当院は、常勤の形成外科医が3人勤務している全国的に見てもめぐまれた病院です。そのため、乳がんの手術の際の同時再建術(写真2)に、ほぼ対応ができています。乳房再建術を考慮されている方は、専門医に相談してください。

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写真2 形成外科医とともに乳房再建術を行う様子

【リンパ節の切除】

乳がんの手術では、わきの下のリンパ節を取るのが一般的です。その理由として、乳がんはわきの下のリンパ節に転移しやすいからです。転移がリンパ節にある場合は、切除しておく必要があるのは当然ですが、転移がなさそうな場合も切除しています。

それは、実際に転移があるかどうかは顕微鏡検査をしないと分かりませんが、リンパ節を取らなければ、顕微鏡検査ができないからです。さらに、顕微鏡的にリンパ節に転移があるかどうかの確認は、手術後の治療内容を決めるのに非常に重要な情報となります。リンパ節に転移がなければ、手術(あるいは手術+放射線治療)で非常に高い確率で治りますが、リンパ節に転移があれば、手術(あるいは手術+放射線治療)だけではあまり高い確率では治せません。また、転移のあるリンパ節の個数が多いほど、治る確率は下がります。

手術(あるいは手術+放射線治療)で、どの程度の確率で病気が治るのかを見極めて、その後の治療、特に薬物療法をするかどうか、もしするとすれば、どのような内容になるのかを決定します。ここで、リンパ節の取り方が重要になります。

わきの下のリンパ節はもともと十数個ありますが、これらをすべて取って顕微鏡で調べると、リンパ節に転移があるかどうか、もしあったら何個に転移があるかが正確に分かります。しかし、術後にわきの下の引きつれや、しびれ、腕のむくみなど、つらい後遺症が残ります。

【センチネルリンパ節生検】

リンパ節に転移がある場合は、ある程度やむを得ないですが、転移のない方にとっては、この手術に治療的な意味はないので、このような後遺症はできるだけ避けたいところです。そこで、考え出されたのがセンチネルリンパ節生検という方法です。

この方法はわきの下のリンパ節のうちで、最初に転移しやすいリンパ節数個を見つけ出し、これを摘出して転移があるかどうかを調べます。転移がある場合は残りのリンパ節を切除しますが、転移がなければ、それ以上リンパ節を取らない方法です。

この方法によって、リンパ節に転移のない人では、リンパ節を数個のみ取るだけで手術を終えられるため、術後の後遺症がずいぶん軽くて済みます。

ここで問題となるのが、手術中に正確に転移の有無を顕微鏡検査で判定できるのか、ということです。実は、手術中の「顕微鏡検査」では、リンパ節転移の有無をあまり正確に判定できません。手術中に「顕微鏡検査」で「転移なし」と診断されて、リンパ節を数個取り出しただけで手術を終了したけれど、術後によく調べたら転移が見つかり、「手術をやり直さないといけない」状況が起こりうるということです。

当院では、この問題を解決するために、OSNA(オスナ)法という方法を用いた、最先端の機械でリンパ節の術中検査を行っています。

取り出したリンパ節全体を分子生物学的な方法で徹底的に調べて、転移があるかどうかを判定するので、判定の間違いはなく、手術の後で判定結果が変わり、手術をやり直すこともありません。OSNA法を用いた機械を使用して、手術中にリンパ節転移の有無を判定している病院は、全国的にはまだ少数です。

乳房再建術

乳がんの手術には乳腺を一部切除する部分切除術と、乳腺をすべて切除する全摘術があります。全摘術後には人工乳房による再建と、自家組織再建(自分自身の腹部や背中の組織を使う)の2つの方法があります。

人工乳房による再建では、まず切除して足りなくなった皮膚を伸ばすために、エキスパンダーと呼ばれる特殊な風船を挿入します。退院後の外来で、エキスパンダーに生理食塩水を少しずつ注入し、周囲の皮膚を徐々に伸展させます。十分に皮膚が伸展された状態で改めて入院の上、人工乳房(シリコンブレストインプラント)への入替手術を行います。エキスパンダーの挿入は全摘術と同時に行うことも、乳がん手術や化学療法など一連の治療が終了した後に改めて行うこともできます(図)。人工乳房による再建術が保険適用になり、2016年には全国で約6000人に人工乳房再建が行われました。

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図 シリコンインプラントによる再建術

自家組織再建は、自分の組織(腹部など)を使うため、自然な柔らかさが出るのがメリットです。欠点としては採取したところに新たな傷ができること、初回の手術に6〜10時間程度かかること、形態の修正のために後日、複数回の手術を要する場合があることが挙げられます。

薬物療法

当院では、がん薬物療法専門医を中心に乳がんの薬物療法のすべてを行っています。特に手術の後に行う薬物療法は、乳がんの治癒率を高める上で、極めて重要な治療です。薬物療法には、内分泌療法、化学療法、分子標的療法があります。

化学療法(抗がん剤治療)は、専門家が行わない場合は危険を伴うことが多く、また副作用を恐れて手控えた不十分な治療になると、十分な治療効果が得られません。さらに、化学療法の中で、抗がん剤の点滴の間隔を3週に1回から2週に1回に詰めた、いわゆるドーズデンス(dose-dense)治療の有効性が最近明らかとなってきました。特にリンパ節転移があり、手術(あるいは手術+放射線治療)で治せる確率が低い方には、治る率をより高める場面で適用されています。この治療は薬物療法の専門家が行うべき治療の代表です。

当院では、こういった薬物療法のプロが行うべき治療にも十分に対応でき、この領域でも世界のトップレベルといえます。また、抗がん剤治療の副作用対策でも全国をリードしています。その代表的なものとして、抗がん剤での脱毛を予防するための英国製頭部冷却装置、PAXMANがあります。

この機械は抗がん剤の点滴中に帽子のようなものをかぶり、持続的に頭皮を冷やして頭皮の血管を収縮させて、毛根細胞に抗がん剤がなるべく到達しないようにして、脱毛を予防するための装置です。欧米先進国では、化学療法のときに通常使われていますが、国内ではまだ厚生労働省の承認が得られておらず(2018年7月時点)、研究の形でしか使えません。しかし、PAXMANの使用経験数(写真3)は当院は全国一です。そのすばらしい有効性を示すデータも得ており、学会等で発表しました(2018年12月「サンアントニオ乳がんシンポジウム第41回」など)。

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写真3 抗がん剤点滴中にPAXMANを使って持続的に頭皮を冷却する様子

薬物療法について、もう1つ。当院は以前から、未承認薬剤の厚生労働省の承認を得るための、臨床試験(いわゆる治験)に多く参加しています。治験にもいろいろな種類があります。有効性があるのか、どんな副作用があるのか分からない薬剤の効果・安全性を調べる治験もあります。一方で、海外ではすでに承認済みで、効果・安全性についてはほぼ問題ないことが分かっている薬剤について、国内での承認を得るために行われている治験もあります。治験については、専門医にご相談ください。

乳がんと遺伝

この領域は最近になって注目を集めています。乳がん患者さんの5〜10%は、生まれつき乳がんにかかりやすい遺伝的体質を持って生まれた人だといわれています。

この中でいくつかの疾患が知られていますが、最も頻度(ひんど)が高いのが「遺伝性乳がん卵巣がん症候群」という疾患です。この疾患の方は、もともとBRCA1あるいはBRCA2という遺伝子のいずれかに異常を持ち、そのため女性の場合、生涯で乳がんに約70%、卵巣がんに15〜40%の確率で罹患します。このような方が乳がんにかかった場合、乳房温存療法を受けると、残された乳房からの再発率が高く、あまり乳房温存療法は勧められていないのと、反対側の乳房からの乳がんの発生率が極めて高いので、その対策も必要です。また、卵巣がんへの対策も必要といわれています。

この疾患の診断には、血液を使った遺伝子検査は不可欠です。さらに、この疾患が確定した患者さんのその後のケアおよびご家族に対する診療も必要です。最近、遺伝性の乳がん患者さんにしか使えない乳がん治療薬オラパリブが承認されました。この薬は、事前に血液での遺伝子検査を受けてBRCA1あるいはBRCA2の異常が確認されないと使えません。実は、これらのすべてに対応した診療体制がとれている病院は全国的にほとんどありません。当院はこのような診療体制がしっかりと整備できている全国的にもまれな病院で、この領域でも全国をリードしています。詳しくは「家族性腫瘍相談室」をご覧ください。乳がんの遺伝を心配されている方は、専門医に相談してください。

更新:2024.01.26