整形外科 お待たせしません!すぐつなぎます~大腿骨近位部骨折~
中部ろうさい病院
整形外科
愛知県名古屋市港区港明
大腿骨近位部骨折と骨粗しょう症の関係
高齢者が立った位置から転倒したり尻餅をついたりして、脚の付け根(股関節(こかんせつ))が痛くなり歩けなくなる場合は、ほとんどが大腿骨近位部骨折(だいたいこつきんいぶこっせつ)です。
原因は骨粗しょう症(こつそしょう)といって、骨量と骨質の低下により骨折するリスクが高い状態にあることがあげられます。
骨粗しょう症は閉経後の女性に多く、60歳代から発症する傾向にあります。ほかにも脊椎椎体骨折(せきついついたいこっせつ)(背骨の骨折)や上腕骨近位端骨折(じょうわんこつきんいたんこっせつ)(肩の骨折)、橈骨遠位端骨折(とうこつえんいたんこっせつ)(手首の骨折)が骨粗しょう症では起きやすいと報告されていますが、大腿骨近位部骨折は著しく日常生活機能を低下させます。1週間寝たきりでいると10〜15%の筋力が低下する(1))といわれていますので、手術までの待機時間を減らして速やかに手術を行い、早期リハビリテーション(リハビリ)により機能を保つことが大事です。
大腿骨近位部骨折には大きく分けて大腿骨頚部骨折(だいたいこつけいぶこっせつ)と大腿骨転子部骨折(だいたいこつてんしぶこっせつ)があります。大腿骨頚部骨折は、ずれが多いもの(転位型、図1)とずれが少ないもの(非転位型、図2)に分けられ、治療が異なります。高齢者の場合、転位型では人工物による置換術(ちかんじゅつ)、非転位型ではスクリューなどによって自分の骨をつなぐ術式(骨接合術、図3、4)を選択することが基本です。一方、大腿骨転子部骨折(図5)の治療は、原則、骨接合術(図6)を選択します。
国内外の治療の現状
大腿骨近位部骨折は欧米では、受傷後24時間以内に手術することが推奨され、イギリスやスウェーデンでは義務化されています。一方、2016年の日本整形外科学会の調査によると、国内における手術待機日数は平均4.2日(2))であり、近年この日数に変化はないようです。
お待たせしません!
当院では2013年以降、原則として、平日の日中に受診した患者さんについては、当日もしくは翌日中、休日でも人員が許せば当日、そうでない場合にも休日明けにはほぼ骨接合術を行っています。2019年1月〜2019年12月までに、当院を受診した患者さんの骨接合術までの平均待機日数は1.25日、人工物置換術までの平均待機日数は6.36日、それらを合わせると平均待機日数は3.27日です。
これには、①「入院中に透析が必要である」などといった全身の持病がある患者さんでも、すぐに各専門科に相談できたり、「必要であれば手術中の麻酔・全身管理を麻酔科に依頼できる」といった他科との協力体制があること、②「準緊急での手術が望ましい」という救急・整形外科外来・手術室・病棟スタッフ間での共通認識があり、連携がとれること、③後期研修医を含めた外傷整形外科スタッフの機動性が高いこと、が大きな理由です。
また、手術翌日からリハビリを行い、全身状態が落ち着いて、手術創部(そうぶ)に大きな問題がない場合は、地域連携パスにより回復期リハビリテーション病院に早期転院し、十分なリハビリを受けることができるようにしています。その際には医療ソーシャルワーカーが転院について相談を受けています。
術後成績は良好で、骨接合術後のカットアウト(骨接合部の破綻)や偽関節(骨の癒合不全)は、2013年から現在まで543例のうち10例(1.84%)と極めて少ないことも、当院の強みと考えています。
こういった強みを生かし、今後も高齢化に伴い、数が増えていくと予想されている大腿骨近位部骨折に対し、積極的に救急・紹介患者さんを受け入れ、早期の治療を行っていきたいと考えています。
【参考文献】
1) 美津島隆.廃用症候群の病態とリハビリテーション.国立大学リハビリテーション療法士学術大会誌.2014;35:4-7.
2) 萩野浩.大腿骨近位部骨折全国調査.Bone Joint Nerve 2018;8(3):369-373
更新:2024.10.08