慢性活動性EBウイルス感染症

大阪母子医療センター

血液・腫瘍科

大阪府和泉市室堂町

難病でも基本は常に「敵を知る」ことです

慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)は、難病(発症がまれで、診断や治療が大変難しい病気)として注目を集めています。しかし難病といっても、仕組みを理解し、症状から検査・診断を進め、治療をやり遂げるという道筋は、ほかの病気と変わりありません。放置すれば死を免(まぬが)れない病気ですが、治療すれば約9割の人が(延命ではなく)根治(こんち)できます。続いて、この病気を解説します。

EBウイルスの感染の仕組み

EBウイルスはいったん人に感染すると、その後はたいてい何の症状も起こさないまま、その人が死ぬまで体内に住み続けます。成人の9割が感染済みです。主に乳幼児期や思春期に、唾液を介してのどに感染します。感染直後は人によって、きついのど風邪にも似た伝染性単核球症(たんかくきゅうしょう)を起こすことがあります。

血液中には、たくさんの白血球が流れています。白血球の役割は、バイ菌(細菌)や風邪ウイルスなどの病原体をやっつける兵隊のようなものです。白血球にはいくつもの種類があり、その1つがBリンパ球です。EBウイルスはのどに感染した後、数あるBリンパ球のほんの一部に移り住み、体内の血液やリンパの中にひそみ続けるのです。

CAEBVの発症の仕組みと症状

CAEBVは、EBウイルスがたまたまBリンパ球とは違うリンパ球、つまりTリンパ球やNKリンパ球に感染してしまうことに根本的な原因があります(図1)。そしてこの病的なリンパ球が際限なく数を増やし、症状を起こしてくるのです。CAEBVを発症するのは、1年で約40人と見積られています。

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図1 EBウイルスが感染するリンパ球

さて、EBウイルスに感染されたTリンパ球やNKリンパ球は、本来の兵隊としての統制を失います。すなわち血液やリンパの中で増殖を続けますので、やがて発熱や倦怠感(けんたいかん)を反復し、リンパ節も腫(は)れます。また体内のいろいろな組織へも浸潤(しんじゅん)(しみ入(い)るように広がっていくこと)します。肝臓に浸潤すれば肝機能障害を起こします。皮膚に浸潤すれば、蚊に刺されたり日光を浴びたりすると皮膚に水疱(すいほう)や潰瘍(かいよう)(崩れてできた傷)を起こし、あとに残った瘢痕(はんこん)(傷あと)は長年にわたって消えません。さらに、まれですが、消化管や心臓、大きな動脈の壁に浸潤すれば、下痢や血便が見られたり、心不全や動脈瘤(どうみゃくりゅう)を起こします。

CAEBVは疑ってこそ診断できる

一般的な血液スクリーニング検査(無症状の人を対象に、その病気の疑いのある人を発見することを目的に行う検査)だけでCAEBVと診断することは不可能です。CAEBVと診断するためには、EBウイルスの検査を行う必要があります。一時的な発熱や倦怠感、リンパ節の腫大(しゅだい)は日常的によくある症状ですから、それだけでCAEBVを疑うことにはなりません。しかしそのような症状や、スクリーニング検査で認められた肝機能障害などが長引いたり反復する場合、医学的に説明がつかないならば、CAEBVの可能性を疑うことになります。

EBウイルスの最も一般的な検査は、抗体価(こうたいか)(EBウイルスに対する身体反応を見る検査値)です。もし異常な高値であれば、いよいよCAEBVの診断に近づきます(高値とならないこともしばしばあります)。その結果からEBウイルスに感染したばかりだと分かれば、むしろCAEBVとは症状が似ていても、別の病気である伝染性単核球症(EBウイルスの急性感染症)と診断することになるかもしれません。

CAEBVを確定する検査

病気は通常、組織(臓器)に存在します。CAEBVで病気のリンパ球がよく浸潤する部位はまず肝臓、そして皮膚です。肝機能障害が続けば、肝臓を生検(太めの針やメスで臓器の一部を採取し、顕微鏡で観察する病理検査)をすることになります。皮膚は見ただけで病気の診断に近づくこともありますし、皮膚や消化管でも生検が可能です。ただ、ここでもCAEBVを疑う必要があります。疑って初めて、EBウイルスを染め出す病理検査も行うことになります。TまたはNKリンパ球が組織中に多数認められ、それらにEBウイルスが認められれば、CAEBVの診断が確定します(図2)。ただ生検は、気軽な検査とは言えません。

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図2 病理検査による診断法

近年は、血液からでもCAEBVの診断を確定できるようになっています。血液中のEBウイルスの量が多ければ、CAEBVの診断に近づきます。さらに特殊な技術でリンパ球をBとTとNKに分け、TまたはNKリンパ球の中にEBウイルスが認められれば、CAEBVの診断が確定します。ところが、これらの血液検査は日本の保険制度では認められていない検査です。医療費の出どころがなく、検査会社に委託しなければならなかったり、さもなければ特殊な技術のある施設で、ある意味ボランティアとして実施してもらう必要があります。

CAEBVを根治する移植治療とは

当科の治療法についてお話しします。施設により多少の違いはありますが、治療の流れにおける根底の考えが同じであれば、本質的に差はないはずです。当科では基本的に3つのステップで入院治療をしています(図3)。その最後を締めくくる根治療法(第3ステップ)が、骨髄(こつずい)移植に代表される移植治療です。

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図3 CAEBVの治療法

まず移植準備用の抗がん剤を点滴投与し、CAEBVの元凶である病気のリンパ球を根こそぎ消滅させますが、このとき患者さんの健康な血球やリンパ球も失われてしまいます(図4)。その後に別の健康な方(ドナー)から、骨髄の中にある造血(ぞうけつ)細胞を一部いただいて、点滴で投与します。点滴した細胞からは血球やリンパ球が作られ、2〜4週間で初期回復し、2〜4か月で退院可能となり、平均すれば2〜4年で本来の生活に完全復帰できます。

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図4 造血細胞移植(骨髄移植など)の日程(概要)

移植で大切なのは、ドナーから提供された血球やリンパ球の元になる造血細胞が根づくことです。造血細胞は、腰骨などの内部にあるスポンジ状の組織(骨髄)に多く含まれています。最近では血液中や、赤ちゃんのへその緒(お)から胎盤(たいばん)の造血細胞も利用できるようになり、広く造血細胞移植と呼ばれるようになりました。

入院治療の実際/3つのステップとは

入院当初は発熱や肝機能障害などがみられ、CAEBVは活動期にあることが通常です。第1ステップは病気を沈静化させる免疫化学療法で、ステロイドやシクロスポリン、ときに抗がん剤エトポシドを使います(図3)。およそ1〜2週間行いつつ、併行して今後の強力な治療のための検診、造血細胞移植に必要とされる白血球の型(HLAといいます)の検査、そして家族、臍帯血(さいたいけつ)バンク、骨髄バンクから、ドナー候補を探し始めます。

第2ステップは、数種類の抗がん剤を数日かけて投与する、いわゆる化学療法です(図3)。化学療法は約1か月ごとのペースで反復され、平均2〜4回行った後に、第3ステップ(造血細胞移植)へ移行します。化学療法にはさまざまな意味合いがありますが、諸条件によりスキップされることもあります。CAEBVの治療におけるこの組み立ては、急性白血病での治療に似ています。慢性活動性EBウイルス感染症は、語尾に「感染症」がついていますが、病気のリンパ球が制御されることなく増殖していく様は、むしろ「白血病」や「悪性リンパ腫」として捉(とら)える方が理解しやすいでしょう。

治療はいつ開始すべきですか

CAEBVは治療をやり遂げなければ、5年で半数が、10年でほとんどが亡くなります。進行すれば発熱や倦怠感から急変し、体中の臓器が機能不全に陥(おちい)って死を免れません(図5A)。またCAEBVを数年間患っていると、組織浸潤から臓器障害が起きて治療に危険が伴うようになり、さらに臓器不全に陥れば充分な治療に耐えられず、やはり死の転帰(てんき)(行き着いた結果)をとります。

早いうちに治療に取りかかり、余裕を持って治療を完遂(かんつい)するのが最も安全と考えます。当センターで治療した過去79人の患者さんを詳細に検討しました。状態良く移植できた患者さんの生存率は、約9割と良好でした。確かに移植治療は今でも100%安全な治療法ではなく、逆に見ますと死亡率が約1割、加えて生活に支障のある合併症(後遺症)を残される方も約1割存在します。ただ急変してから移植しても、助かるのは2割未満です(図5B)。これらの事実と、移植を受けない場合にCAEBVの患者さんは1年で約1割ずつ亡くなっていくことを両天秤(てんびん)にかけ、やはり早期に根治療法をやり遂げる決断をお勧めしています。

グラフ
図5 CAEBVの生存率

更新:2024.01.26