口の中の前がん病変から口腔がんについて

済生会吹田病院

歯科口腔外科

大阪府吹田市川園町

口の中の前がん病変とは?

前がん病変とは、がんではありませんが、がんになる可能性の高い病変を総称します。例えば口の中では白板症(はくばんしょう)、紅板症(こうばんしょう)、および扁平苔癬(へんぺいたいせん)があります。それぞれどのような病変なのかを具体的に説明します。

白板症は、粘膜に生じた摩擦によって除去できない白色の病変で、そのがん化率は3~17%程度といわれています(図1)。病変の程度もさまざまですが、疣状(いぼじょう)、腫瘤状(しゅりゅうじょう)で潰瘍(かいよう)を伴い表面が凹凸でひび割れている場合はがんになる可能性が高く、すでにがんの場合もあります。原因は明らかではありませんが、喫煙、飲酒、歯のとがった部分による物理的な刺激などで引き起こされると考えられています。一般的に高齢者に多く、男性に多い傾向があります。

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図1 白板症

紅板症は、粘膜に赤くなったビロード状の紅斑(こうはん)がみられる病変で、白板症よりもがんになる可能性が高いといわれていますが、まれな病変です。

扁平苔癬は、白板症に似ていますが、白板症のように粘膜が全体的に白くなる病変ではなく、白い線状の白斑(はくはん)がレース状に形成される病変で時に痛みを伴います(図2)。年齢的には40歳以上の女性に多いといわれています。

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図2 扁平苔癬

いずれの病変も口の中のいたるところにでき、確定診断を得るために組織の一部を取って病状を確認する必要があります。その結果、がんになる可能性が高い病状であれば、手術にて切除することでがんを予防することにつながります。

口腔がんとは?

口腔(こうくう)がんは口の中にできるがんで、前がん病変からさらに病変が進み、がん化したものをいいます(図3)。口腔がんのほとんどが扁平上皮(へんぺいじょうひ)がんと呼ばれる口の中の粘膜上皮から発生したがんで90%以上を占めます。それ以外にも唾液腺(だえきせん)から発生した腺がんや骨肉腫(こつにくしゅ)のような肉腫もできます。扁平上皮がんにおいては舌が約60%で最も多く、次いで下顎(かがく)歯肉に約12%、口腔底に約10%、頬粘膜に約9%、上顎(じょうがく)歯肉に約6%で、そのほか口蓋(こうがい)や唇にもできます。

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図3 口腔がん(舌がん)
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図4 口の中の部位

前がん病変と同じように原因は明らかではありませんが、喫煙、飲酒、慢性的な機械的刺激(不適合の歯の詰め物等)、刺激物を好んで食する、などが危険因子として考えられています。一般的には高齢者に多くみられますが、比較的若い年齢層にもできることがあります。また男性に多く、人口の高齢化に伴い増加傾向にあります。口腔がんを放置しておくと、がんが大きくなるにつれ首のリンパ節に転移し、さらには肺や骨などに転移することもあり、死に至ることもあります。口腔がんも体にできる他のがんと同じように、大きさ、リンパ節転移があるかどうか、遠隔転移しているかどうかによってステージ分類がなされ、それぞれのステージによって治療法が異なります。

現在の標準的治療は手術療法、放射線療法、および化学療法を組み合わせた集学的治療が基本で、そのほか分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬も使われ始めています。いずれにしても早い段階での治療が生命予後を左右します。

更新:2022.03.08