慢性腎臓病と末期腎不全:慢性腎臓病の重症度と病期にそった治療
札幌孝仁会記念病院
透析室
北海道札幌市西区宮の沢
慢性腎臓病とは?
慢性腎臓病(まんせいじんぞうびょう)(CKD)は生活習慣病や動脈硬化に起因することが多く、国民の8人に1人の高い有病率をもつ国民病です。
腎臓は機能が失われると回復が難しく、しかも沈黙の臓器と呼ばれるように、ある程度進行するまで無症状です。検査や治療を怠ると確実に重症化し、透析(とうせき)や腎移植(じんいしょく)が必要となる怖さを持ちます。また、心血管疾患を高い比率で発症することで、生命への強い脅威ともなります。
原因と症状
CKDの原疾患(おおもとの疾患)は糖尿病性腎症(とうにょうびょうせいじんしょう)、高血圧由来の腎硬化症(じんこうかしょう)、慢性腎炎、多発性嚢胞腎(たはつせいのうほうじん)などで、このような疾患の経過中、まだ無症状の段階で、血液・尿検査で発症が知らされます。
尿毒素と体液過剰により倦怠感(けんたいかん)、息切れ・呼吸困難感、食欲不振、やせ、むくみ、貧血、かゆみなど、多くの症状が現れるころは、すでに重症化した状態です。
CKDの重症度(病期分類)
血液をろ過し、尿を生成する腎機能の指標として、尿毒素の一種である血清クレアチニン値をもとに算出する推算糸球体濾過量(すいさんしきゅうたいろかりょう)(eGFR)が使われます。この値の低下度合で重症度(G1〜G5までの区分)が決まり(表)、G4までの腎不全(じんふぜん)保存期からさらに進行した段階であるG5が末期腎不全(ESRD)です。

「図1」では腎不全の進行度に比例した心血管系の合併症や死亡率の上昇が認められます。かたや心機能の悪化は腎臓に強い悪影響を持つため、この心腎連関(心臓と腎臓の間に深い関係がある状態)を断ち切るためには、基礎疾患の管理と循環器系の病状を把握する定期的検査が重要です。

ステージの進行に沿ってイベント発生率が上昇します
(Tanaka K et al : Cardiovascular events and death in Japanese patients with chronic kidney disease.Kidney Int 91:227-234,2017より引用)
予防および治療法
肥満・運動不足の解消、禁煙など、生活習慣の改善と減塩が重要です。糖尿病・高血圧は医療機関での適切な管理と血液・尿検査による追跡が必要です。
治療薬としては、腎保護作用をもつレニン-アンジオテンシン系阻害薬がまず選択されます。さらに近年、糖尿病治療薬であるSGLT2阻害薬の心不全(しんふぜん)・腎不全抑制効果が実証され期待されています。
また、貧血、骨・ミネラル代謝異常に対して栄養管理や、薬剤による治療、体液量管理のための利尿剤や、尿毒素の便への排泄(はいせつ)目的で球形吸着炭(腸内の有害物質を吸着する薬)などを使用します。
腎代替療法
腎臓の働きには、①体液量の調整と老廃物の排泄、②ホルモン調整機能として造血ホルモン分泌やビタミンD活性化、血圧調整機能があります。末期腎不全で選択が求められる腎代替療法(RRT)のうち、腎移植はこれら両機能を担う根治的治療(こんちてきちりょう)(病気を完全に治すことをめざす治療)ですが、臓器提供の問題から、まだ恩恵を受けられる方は限定的です。
一方、血液透析と腹膜透析は、①の機能は果たしますが、②の機能は薬剤で補完する必要があります。各種療法の尿毒素に対する効果を模式化し、「図2」に示します。「図3」は血液透析におけるeGFR値の推移の実例です。透析前後で、老廃物の蓄積と浄化を機械的に繰り返す療法のため、一生継続することが大前提です。

尿毒症の改善効果の観点から、移植術はより根治的、透析は姑 息的(一時的である状態)です

それぞれ優位点と不利な点がありますので特徴をよく理解し、自分の価値観、ライフスタイルや自立度を含めた生活状況などの観点から、家族や医療者も含めた共同意思で選択します。
更新:2024.07.29