健康寿命の延伸に向けて~高度健診センターの役割~

釧路孝仁会記念病院

高度健診センター

北海道釧路市愛国

少子高齢化が進むわが国では、高齢者の占める割合が過去最高の約29%となっています。このままでは医療費や介護費が年々増え続け、社会保障制度の維持が困難になると考えられます。そのため、高齢者は生涯現役であり、若者は毎日健康に働けるよう、日頃から健康維持に努める必要があります。

北海道の高齢化と健康寿命

健康寿命とは、平均年齢から寝たきりや認知症などの介護状態の期間を差し引いた期間を指します。

つまり、日常生活に制限がなく自立した状態で過ごせる期間のことで、日常生活に制限がある期間が長くなるにつれて医療費や介護費がふくらみ、公費負担が増大する要因になります。

特に、北海道では人口減少が年々進んでいる一方で、高齢者人口は増加しているのが現状です。

全国の高齢化率が約29%であるのに対し、北海道の高齢化率は約32%です。

この状況からみて、平均寿命と健康寿命の差を縮めることがとても重要です。

また、北海道ではがんによる死亡率が全国を上回っているにもかかわらず、がん検診の受診率は全国平均を下回っており、検診の受診率を上げることが大きな課題となっています。

高度健診センターの取り組み

当センターでは、3T高磁場MRI、320列多検出器型CT、そしてPET(ペット)/CTを用いて、発症すると長期治療が必要な病気の早期発見をめざし、健診を積極的に行っています。

三大疾病といわれるがん・心臓・脳の病気を早期に発見するための「三大疾病ドック」、道東地区で最も死亡率の高い肺がんの早期発見のための高画質/短時間/低被ばくで受けられる「肺CT検査」、また、若い女性に増えつつある子宮頸(しきゅうけい)がんの原因とされているHPV(ヒトパピローマウイルス)の感染を検査キットで調べる「HPV自己採取検診」なども実施しています。

さらに当センターでは、自治体が主導で行っている各種がん検診や特定健診、各企業の定期健診など、受診者のニーズに沿った健診を行っています。

また、健診結果に異常があった場合は、速やかに医療と連携して病気の早期発見・早期治療に尽力しています。

PET/CTを用いたがん検診

当センターでは、がん診療に役立つ画像診断法であるPET/CTを用いたがん検診を実施しています。

PETとは、ポジトロン・エミッション・トモグラフィー(陽電子放射断層撮影)の略で、人体に投与した放射性医薬品の体内分布を画像化する核医学検査の一種です。PET/CTは、PETとX線CTを連続して撮像できる装置で、機能情報を与えるPET画像と精緻な形態情報を与えるCT画像とを融合させて、放射性医薬品の局在部位をCT画像上で特定することができます。

がん診療に用いられる放射性薬品は種々ありますが、現在もっとも広く臨床で使用されているのが18F-FDG(18F標識デオキシグルコス)です。

FDGはエネルギー源であるブドウ糖の類似物で、正常細胞のみならずがん細胞にも取り込まれます。一般的にがん細胞はブドウ糖代謝が亢進しており、正常細胞よりもたくさんブドウ糖を取り込みます(図1、2)。

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図1 ブドウ糖とFDGの分子構造を示します。ブドウ糖の2位水酸基がF-18に置き換わったものがFDGです。FDGの構造はブドウ糖に類似しており、正常細胞やがん細胞にブドウ糖と同様に取り込まれます
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図2 肺がん症例の胸部単純X線写真(A)、X線CT(B)、PET(C)、PET/CT融合画像(D)を示します。PETでは右肺にFDG異常高集積を示す部位が認められ、CT上の右肺のがん病巣にFDGが高集積を示しているのがわかります

がんは日本人の死因の第1位であり、年々増加傾向にあります。初期には症状の出ないがんを早期に発見するために、検診は極めて重要です。

一般的ながん検診では、肺がんには単純X線写真やCT検査、大腸がんには便潜血検査など、それぞれのがんに応じた検査があります。このような一般的ながん検診に対して、FDG PET/CTをがん検診に用いる利点としては、1回の検査で全身を調べることができる点です。また、がんの種類によって検出感度に差はありますが、小さい病巣でもFDG高集積を示すがんは検出することができます。

欠点としては、すべてのがんを検出することは難しい点(胃、前立腺、腎臓(じんぞう)/尿路系のがんはPET陽性率が低いです)、および小さい病変は検出が難しい点(検出可能な病巣のサイズは最低でも1cm程度)があります。

当院で施行した2,089例の検診FDG PET/CT(2007年12月~2013年1月)の結果では、30例(1.4%)にPET陽性がんが見つかっています。内訳は、肺、膵臓(すいぞう)、肝臓、乳腺、大腸、胃、前立腺、頭頸部(とうけいぶ)、甲状腺、胸腺のがんと悪性(あくせい)リンパ腫(しゅ)でした。2009年に全国のPET検診実施施設を対象にした日本核医学会臨床PET推進協議会アンケート調査では、33,599例中330例(1%)にPET陽性がんが見つかっています(1)。この調査結果からは、PET陽性率の高いがんとして、肺、大腸、乳腺、甲状腺があげられ、高くないがんとしては胃、腎臓、前立腺があげられています。

このようにFDG PET/CTは万能ではありませんが、1つの検査で、全身のがんの有無をチェックできる有用な検査法です。当センターで実施したFDG PET/CT検診で見つかった肺がんの例を示します(図3)。

図
図3 検診で発見された肺がんのX線CT(A)、PET/CT融合画像(B)、PET(C)を示します。左肺下葉縦隔側の結節にFDG高集積が認められ、精査の結果、肺がんの診断となり手術が施行されました。手術の結果、1.8cm径のステージ1Aの肺がんでした

[参考文献]
(1)日本核医学会PET核医学分科会. 2009年度FDG-PETがん検診アンケート調査の結果報告(概要). https://jcpet.jp/cancer-screening/2009.html.

更新:2024.05.28