心房細動のアブレーション治療について教えてください
滋賀県立総合病院
循環器内科 心臓血管外科
滋賀県守山市守山
心房細動って、どんな病気?
心臓は左右の心房(しんぼう)と心室(しんしつ)に分けられるので、4つの部屋があります。心房細動(しんぼうさいどう)(図1)では「心房が細かく動く」、すなわち心房がふるえた状態になり、左心房の中で血がよどんで、固まりやすくなり(固まった状態を血栓といいます)、血栓が頭に飛んでいくことで脳梗塞(のうこうそく)を起こしてしまいます。心房細動から脳梗塞が起こると、半数の方は命を失うか、命が助かったとしても自力で歩けなかったり、寝たきりになったりします。
また、心房細動では心拍数が増えることで、心臓が疲れて、そのポンプ機能(全身に血液を送り出す機能)が弱くなってしまい、「心不全」が起こることもあります。最近では、心房細動があると認知症になりやすいことも分かってきました。こうならないためには、できるだけ早く心房細動の治療を始めることが重要なのです。
どうやって心房細動を見つけるの?
動悸や胸の不快感を自覚する方では、受診して心電図をとって診断されることが多いのですが、全く症状のない方や、なんとなく疲れやすくなった、めまいがするなど、心臓が原因とは気がつきにくい症状の方もいます。症状のない方では発見が遅れることが多く、脳梗塞で入院したときにはじめて心房細動と診断されることも多いのです。
そこで、皆さんに1つしてもらいたいことがあります。それは自分で脈をチェックすることです。はじめは難しく感じるかもしれませんが、慣れてくれば1日30秒もあれば、簡単に不整脈があるのかをチェックすることができます。
公益社団法人日本脳卒中協会と一般社団法人日本不整脈心電学会では、3月9日を脈(ミャク)の日として脈を調べることを勧めています(脈の調べ方は、「心房細動週間」のホームページ〈http://www.shinbousaidou-week.org/selfcheck.html〉を参照ください)。
自分だけではなく、身近な人の脈もチェックしてみてください。脈が不規則だと感じたら、早めに受診して心電図検査を受けましょう。
アブレーションで治せるの?
心房細動はなりたてのころは、多くの原因が肺静脈にあるといわれています。心房細動は心房がふるえていて、いわば地震が続いている状態なのですが、その震源地が肺静脈の中にあることが多いのです(図1)。
そこで肺静脈と左心房の間に、地震が伝わらないように壁をつくることで(肺静脈隔離)、心房細動が起こらないようにする治療が、約20年前に国内で始まりました(アブレーション治療)。当時は半日ほどかけて行っていたのですが、治療技術の進歩により、今では2時間以内、3泊程度の入院で行うことが可能になってきました。
また、肺静脈隔離は従来から行われていた高周波アブレーション(図2)に加えて、クライオバルーンによるアブレーション(図3)も選択できるようになりました。クライオバルーンはカテーテルの先端に直径28mmの風船がついており、この風船を肺静脈に押し当てて、マイナス60℃程度の冷却ガスで風船を超低温にすることで、短時間での肺静脈隔離が可能になります。
ただ心房細動になってから時間がたってしまうと、年をとるとシワができるように、心房の中にもシワができてしまいます。心房細動にもなりたての「若い心房細動」もあれば、長時間続いている「老いた心房細動」もあるのです。
「老いた心房細動」では、肺静脈隔離だけで心房細動を治すことは難しくなってきますし、アブレーションで心房細動が起こらなくなっても、心房の中にできたシワは残ってしまい、心房の働きは低下したままのことがあります。できるだけ早く心房細動を見つけることが、アブレーションで完全に治すためには重要なのです。
当院では、一人ひとりの患者さんの状態に合わせて、アブレーションで心房細動を本当に治すことができるのか、アブレーションは高周波とクライオバルーンのどちらが良いのか、をしっかりと説明した上で、最適な治療の提案に努めています。
心房細動をできるだけ早く見つけて治療すれば、数時間で治せる時代になってきました。まずは自分や身近な人の脈をチェックしてみて、脈が不規則だと感じたら、早めに受診して心電図検査を受けましょう。
更新:2024.10.24