血液がんを治すー原因解明と治療の最前線
愛知医科大学病院
血液内科
愛知県長久手市岩作雁又
増えている血液がん
血液のがんには、「白血病」や「リンパ腫(しゅ)」「骨髄腫(こつずいしゅ)」などがあります。血液がんは年々増えており、特にリンパ腫は30年で約3倍に増えました(図)。リンパ腫の生涯罹患(りかん)率は2%とされ、50人に1人がリンパ腫になる計算です。白血病は100人に1人です。
近年目立って増えている血液がんは、「骨髄異形成症候群(こつずいいけいせいしょうこうぐん)」です。50歳頃から発症し、70歳を過ぎると急増します。骨髄異形成症候群は、白血球や赤血球、血小板などの血液細胞がつくられにくくなる病気で、白血病も起こりやすくなります。有名な医学誌『ニューイングランド医学会誌』に最近発表された研究によると、健康な方でも、60歳を過ぎると10人に1人は、血液がんにかかわる遺伝子がみられるようになります。血液がんは意外と身近な病気といえるでしょう。白血病は、白血球が増えるイメージを持たれていると思いますが、実際は減ることも多く、注意が必要です。白血球のかわりに、赤血球や血小板の数が増減することもあります。なお、一般的には血液がんが遺伝することはありません。また、ほかのがんと同様に喫煙は原因になりますが、食生活や環境の影響はよく分かっていません。
患者さんにやさしく、迅速・確実に血液がんを診断
血液がんの症状には、だるさや発熱、寝汗、首の腫(は)れ、体重減少、腰痛、青あざなどがあります。健診や診療所の検査で異常を指摘され、血液内科を受診し、診断されることもあります。
当院は、2014年に最新鋭の高性能自動血球分析装置XN-5000(写真1)を導入しました。これにより、数ccの採血だけで、血液の病気にかかわる詳細な情報が速やかに得られるようになりました。さらに、教育研究機関としての利点を生かし、分子遺伝学的解析や細胞工学的アプローチなど、最先端の診断法も積極的に取り入れています。当科を受診される患者さんは3年間で3倍に増え、東海4県の大学病院で最多となりました(2016年日本血液学会調査)
血液がんを確実に診断するため、骨髄検査やリンパ節生検などを行うことがあります。「骨髄検査は痛いのでは?」と心配される方は多いですが、器具や針も改良され、最近は随分楽に検査を受けられるようになってきました。
造血幹細胞移植で血液がんを治す
造血幹細胞移植(ぞうけつかんさいぼういしょく)は、血液がんや再生不良性貧血などを治すため、造血幹細胞が含まれる血液を輸血する治療法です。保険診療で行われます。
当院は、2014年に最新の高機能無菌病室(写真2)を設置し、より安全で効果的に造血細胞移植やがん化学療法を行えるようになりました。当院で移植を受ける患者さんも増えています(「造血細胞移植センター ――「オール・フォー・ワン」で患者さんを診る」参照)。造血細胞移植には、患者さん自身の幹細胞を用いる「自家移植」と、他人(ドナー)から血液や骨髄、さい帯血をいただく「同種移植」があります。同種移植は、兄弟姉妹や骨髄・さい帯血バンクからドナーを探していましたが、最近では、親や子どもがドナーになる「HLA半合致移植」ができるようになり、造血細胞移植で血液がんの根治を目指す機会も増えています。
血液がんの新薬が次々に登場
血液がん治療の進歩はめざましく、多くの患者さんが日常生活を取り戻し、病気を克服しています。バイオ技術の進歩により、「抗体薬」「分子標的薬」といったがん細胞を狙いうつ治療薬が次々と開発され、治療成績も着実に向上しています。例えば、慢性骨髄性白血病は、入院して副作用の強い治療が必要でしたが、飲み薬で安全性に優れた分子標的薬が登場し、外来でも治療できるようになりました。
当科は、約20人の血液内科医(写真3)が一体となり、看護師や薬剤師、検査技師などさまざまなスタッフや他診療科と緊密に連携し、チーム医療を実践しています。当科の医師は、血液内科医として高度医療を担いながら、総合内科医としての修錬を積み、内科全般の診療経験も豊かです。毎日の診療に加え、患者さん一人ひとりの診断・治療方針や検査所見をスタッフ全員で検討しています。同時に、これから国内の医療を担う、意欲あふれる医学生や研修医の教育にも積極的に取り組んでいます。私たちは、大学病院医師の使命感と情熱を持ち、患者さんの声に耳を傾け、心に寄り添い、より信頼される診療科であるよう、これからも真摯(しんし)に取り組んでまいります。
更新:2024.10.08