高血圧
概要
血液が血管の中を通るとき、血管にかかる圧力を血圧といいます。心臓が拍動することによって、血液が毎分60~70回くらい血管へと押し出されていきます。心臓が収縮して血液が押し出された瞬間は、血管にもっとも強く圧力がかかるため、これを収縮期血圧(最高血圧)といい、心臓が広がって圧力がもっとも低くなったときを、拡張期血圧(最低血圧)といいます。血圧は、心臓が送り出す血液の量と、血液が流れる血管の抵抗によって決まります。
血圧が高くなる原因は、大きく分けて2つあります。一つは、二次性高血圧といって、腎臓やホルモンの異常などの疾患によるものです。もととなっている疾患を治療することで、血圧を正常値に戻します。もう一つは本態性高血圧で、検査をしても異常が見つからず、原因が特定できない高血圧です。実は、高血圧の人の9割が本態性高血圧といわれていますが、なぜ血圧が高くなるのかは分かっていません。
慢性的に血圧が高い状態が続く状態を高血圧症といい、治療せずにいると、血管に高い圧力をかけ続けるために血管が硬くなって動脈硬化を進行させ、心臓にも負担を与えて重大な病気を発症することになるため、高血圧症はサイレント・キラーとも称されています。
症状
血圧は常に変動しています。一般的に、血圧は睡眠中にもっとも低く、起床後から次第に上がります。そして、夜にかけてゆっくり下がるという一定のリズムを刻んでいます。この変化を血圧日内変動といいます。ほかにも、緊張しているとき、ストレスがかかっているとき、暖かい部屋から急に寒い場所に移動したときなどに血圧は高くなります。通常、昼間の血圧に対して夜間の血圧は1〜2割程度低くなるパターンを示します。
高血圧そのものの自覚症状はあまり現れませんが、人によって頭痛、めまい、動悸(どうき)などが起こることがあります。高血圧が原因であれば、血圧が下がることで症状は治まります。気をつけなければならないのは、ほかの病気が原因で血圧が上昇しているケースです。症状が非常に強く、血圧が突然上昇する場合は、脳卒中、狭心症、心筋梗塞(しんきんこうそく)、心不全などが疑われます。
原因
本態性高血圧は、遺伝的な体質、塩分のとり過ぎ、肥満、過度の飲酒、ストレス、運動不足、カリウムやミネラル不足、喫煙などいくつかの要因が重なって起こるとみられています。中でも日本人の特徴といえるのが塩分のとり過ぎです。諸外国に比べて、日本は高血圧の患者数が多いとされているのは、みそやしょうゆなどの調味料、漬物など塩分が高い保存食などが原因として考えられています。
厚生労働省「令和元年 国民健康・栄養調査」(https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000687163.pdf)によると、日本人の食塩摂取量の平均値は10.1gでした。一方、世界保健機関(WHO)は、血圧を下げ脳や心臓、血管の病気を予防するために成人の食塩摂取量を1日5g未満にすることを推奨しています。
また、糖尿病の患者さんには高血圧の合併が多いといわれています。糖尿病と高血圧は症状を自覚しないまま進行し、血管に障害を及ぼし、脳や心臓の動脈硬化の危険性をさらに高めます。そのため、糖尿病患者さんの場合は、高血圧基準が一般の数値より低めに設定されており、より厳密な血圧コントロールが必要となります。
二次性高血圧の原因は、腎臓の病気、ホルモンの分泌異常、血管の病気、睡眠時無呼吸症候群、ほかの病気のために服用している薬などです。
検査・診断
医療機関で緊張した状態で測定した血圧値と、自宅でリラックスした状態で測定した血圧値が違ってしまうことも多いため、前者を診察室血圧、後者を家庭血圧と区別して高血圧診断の目安にします。複数回測定した診察室血圧が140/90mmHg、5〜7日間測定した家庭血圧の平均値が135/85mmHgを超えると高血圧と診断します。
また、血圧日内変動を正確に知るために、腕に血圧計を装着し、24時間の血圧を自動で測るABPM(自由行動下血圧測定)という測定法もあります。
本態性高血圧か二次性高血圧かを判断するためには、血液検査、尿検査、心電図検査、胸部X線検査なども行います。二次性高血圧と思われる場合は精密検査を行い、原因となっている病気を調べます。
治療
本態性高血圧では生活習慣の改善と薬物療法を行います。生活習慣を改善するために行うのは、減塩など食生活の見直し、減量、節酒、運動、禁煙などです。日本人は食塩の摂取量が多いため、特に減塩が効果的とされています。1日の食塩摂取量は6g未満が推奨されます。食塩摂取量を1日1g減らすことで、最高血圧を約1mmHg下げられると見込まれます。
薬には、血管を広げて血圧を下げるカルシウム拮抗薬、血圧上昇に関わる物質の働きを抑えるARB、ACE阻害薬、体内のナトリウムと水分を排出させて血液を下げる利尿薬、心拍数を下げて血圧上昇を抑えるβ遮断薬などがあります。
予防
高血圧は自覚症状がなく自分では気づきにくいので、健康診断の受診や血圧測定などを行い、自分の血圧値を把握しておくことが大切です。また、前述のような生活習慣の改善は予防にも有効です。入浴後に寒い脱衣所に入るなどの急激な温度変化や強いストレスにさらされたとき、トイレで息んだときなども血圧が上がりやすくなります。脱衣所を暖める、ストレスを軽減させる、便秘を防ぐ食生活を心掛けるなどの注意が必要です。
更新:2022.08.22